視覚聴覚二重障害の医療(盲ろう,視覚聴覚重複障害)盲ろう医療支援情報ネット

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先天性および若年性の視覚聴覚二重障害の原因となる難病の診療マニュアル(第1版)

眼科身体所見

先天性または、幼児期初期からの視覚聴覚障害をもつ患者において、早期に障害の程度と状況を的確に把握する事が、診断、治療・リハビリテーション、療育、就学、福祉など様々な点において極めて重要となります。

一方で、コミュニケーションの基盤形成が整っていない状況での正確な所見取得は容易でない場合も多く、患者・医療者間の信頼は当然の事ながら、医療者の経験、検査実施環境などを考慮した、包括的アプローチを計画的に行う必要があります。また、小児では視機能の発育過程である為、発育段階により取得すべき所見が異なり、発育に合わせた所見取得を努める必要があります。

特に、視覚聴覚障害をもつ患者においては診断・治療のみならず、視力・視野・両眼視機能、視覚障害の所見を取得する先に見える、生活の困難さや就学・福祉における支援の必要性を総合的に評価する事を目的として、視覚障害の程度を同定する必要があります。

視覚障害、聴覚障害を重複する患者に特別に考慮すべき点

  • 視覚障害のみ、もしくは聴覚障害のみの患者に比べ、集中力、努力を多く要するため検査に疲労を伴いやすい傾向があります。
  • 診察の際には検査の侵襲度を考え、弱い光から強い光の検査、遠くから近距離の検査、圧迫感のない検査から圧迫感のある検査へと、検査の順番を工夫します。
  • 検査にかかる時間は前もって伝え、程度に関わらず侵襲のある検査を行う前には患者に触れて検者の存在を知らせ、患者の疲労が最小限になるようにします。
  • 照明や騒音への配慮や、検査が長時間に及ぶ場合には検査日を複数回に分けることなどの工夫が必要になります。
  • コミュニケーションの手段、必要な事柄には個人差が大きく、また、同一の患者でも年月と共に変化する可能性があることを念頭に入れなければなりません。
  • 視覚聴覚障害以外の障害が存在する頻度が高い事も考慮した、個々の症例の発達時期・状況、病期の症状・重症度に即したコミュニケーションの方法を十分に配慮する必要があります。残存する視覚機能、聴覚機能に合わせて手話、点字、手書き文字、音声、筆談、その他のコミュニケーションを選択する必要があります。特に、高度盲、高度ろうを重複する症例では点字、手書き文字、指文字等の触覚を用いたコミュニケーションが必要となります。

新生児

確実なコミュニケーションの取れる同伴者の同席を必須とします。

可能な検査は検眼鏡検査のみのため、特別な対応は特にありませんが、身体所見をより正確に評価できるよう、十分に時間をかけて可能な検査を行います。

また、コミュニケーションの手法についても同伴者に状況を確認し、十分な配慮が必要です。丁寧な説明の元、検査員との十分な信頼関係を構築する中で可能な限り遂行します。

乳児、幼児、小児

確実なコミュニケーションの取れる同伴者の同席を必須とします。

患児ならびに同伴者に検査の説明を十分に行い、時間をかけて可能な検査を行います。重症度に応じたコミュニケーションの手法(筆談、手話、点字)についても、同伴者に状況を確認しつつ、十分な配慮が必要です。

特に自覚的検査におけるコミュニケーションが重要となるため、視力、視野検査などでは丁寧な説明の元、検査員との十分な信頼関係を構築する中で可能な限り遂行します。

成人

検査内容の正確な理解の為、確実なコミュニケーションの取れる同伴者の同席が望ましいです。

患者ならびに同伴者に検査の説明を十分に行い、時間をかけて可能な検査を行います。

特に自覚的検査におけるコミュニケーションが重要となるため、視力、視野検査などでは丁寧な説明の元、検査員との十分な信頼関係を構築する中で可能な限り遂行します。

重症度に応じたコミュニケーションの手法についても、同伴者に状況を確認にしつつ、十分な配慮が必要です。患者が単独で来院した場合は、重症度に応じたコミュニケーションの手法を用いて問診や説明を行い、丁寧な説明の元、検査員との十分な信頼関係を構築する中で可能な限り遂行します。

医療者側の提供できるコミュニケーション手法が限られており、双方の理解納得が難しい場合などは、確実なコミュニケーションの取れる同伴者の同席した状況での検査状況の確保の必要性について説明を行い、通訳者を同伴しての来院が必要となります。

眼科身体所見の概略(発達時期別に示します)

新生児

問診 母体合併症、風疹など感染症罹患の有無、在胎週数、出生体重
視診 顔貌異常、耳奇形の有無、小頭症、頭蓋拡大、毛髪や睫毛および皮膚の色素異常、瞼裂の左右差、眼瞼下垂、小眼球、白色瞳孔
検眼鏡(眼球の詳細な構造や左右差を確認) 角膜径拡大や混濁、角結膜腫瘍、虹彩異常、水晶体混濁、視神経萎縮、コロボーマ、網膜変性、網膜血管異常

乳児(上記に加え)

追視、固視、あやし笑い、眼振、嫌悪反応、指眼現象、選択視法(PL)、眼位や眼球運動の異常、調節麻痺下での屈折検査、音への反応

幼児以降(上記に加え)

頭位異常、発達遅滞、けいれん、羞明、夜盲、ぶつかりやすさ、視力検査、視野検査、両眼視機能検査

視覚障害、聴覚障害を重複する疾患・症候群でみられる身体所見(主な疾患)

  • 超低出生体重(未熟児網膜症、難聴)
  • 精神発達遅滞
  • 顔貌異常
  • 毛髪、虹彩の色素異常(Waardenburg症候群)
  • 頭蓋内の異常(水頭症、頭部外傷、髄膜炎、脳梗塞、Dandy-Walker症候群、Aicardi症候群)
  • 糖尿病(Wolfram症候群)
  • 脳神経障害(Moebius症候群)
  • 小頭症(先天性CMV感染症)
  • 小顎症(Goldenhar症候群、Pierre-Robin症候群)
  • 口蓋裂(染色体異常、Goldenhar症候群、Stickler症候群)
  • 歯牙異常(Treacher-Colins症候群)
  • 四肢、骨格の異常(Moebius症候群、Cornelia de Lange症候群、Refsum症候群)
  • 心疾患(CHARGE症候群、染色体異常、先天性風疹症候群)
  • 泌尿性器の異常(CHARGE症候群、Goldenhar症候群、染色体異常)
  • 耳介奇形(CHARGE症候群、Goldenhar症候群、Waardenburg症候群)
  • 眼瞼の異常(Goldenhar症候群、Treacher-Colins症候群)
  • 小眼球(CHARGE症候群、染色体異常、先天性風疹症候群、Goldenhar症候群)
  • 混濁や類皮腫など角結膜の異常(Goldenhar症候群、Cockayne症候群)
  • 先天性近視(Stickler症候群、Pierre-Robin症候群)
  • 先天性白内障(染色体異常、先天性風疹症候群、先天性CMV感染症、Stickler症候群、Norrie症候群)
  • 虹彩・脈絡膜コロボーマ(CHARGE症候群、Aircadi症候群)
  • 網膜炎(先天風疹症候群)
  • 網膜色素変性(Usher症候群、Leber先天盲、Alstrom症候群、Cockayne症候群、Refsum症候群)
  • 低色素眼底(原田病、Waardenburg症候群)
  • 網膜剥離(Stickler症候群)
  • 視神経萎縮(ミトコンドリア病、水頭症、Wolfram症候群、Cockayne症候群)

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