視覚聴覚二重障害の医療

厚生労働科学研究費補助金(難治性疾患政策研究事業)
日本医療研究開発機構(AMED)(難治性疾患実用化研究事業)

厚生労働科学研究費補助金
(難治性疾患政策研究事業)
日本医療研究開発機構(AMED)
(難治性疾患実用化研究事業)
視覚聴覚二重障害の医療

先天性および若年性の視覚聴覚二重障害の原因となる難病の診療マニュアル(第1版)

視覚聴覚二重障害児が抱える日常生活での課題と合理的配慮

合理的配慮とは?

そもそも合理的配慮とは、どういうことでしょうか?

合理的配慮(reasonable accommodation)は、元々は1970年代に米国にて宗教差別に対し出てきた概念ですが、徐々に障害を理由とした差別を禁止する法律の中でも用いられるようになり、米国から世界へと普及していきました。国連では障害政策の中で、2001年12月に障害者権利条約の特別委員会が設置され、2006年12月の国連総会で障害者権利条約が採択されました。その権利条約の中に合理的配慮という言葉が出てきます。日本政府は2007年に署名し、これを受けて2013年12月障害者基本法や障害者差別解消法が成立する運びとなりました。内閣府のホームページにも提唱されていますが、障害の有無に関わらず誰もが理解し合って、その人らしさを認めながら共に生きる社会(共生社会)の実現のために、合理的配慮が必要となります。障害がある人にとって、社会の中にある隔壁となっているものに対して、何らかの対応が必要となっていると意思が伝えられたときに必要とされる対応を負担が重すぎない範囲で行うことが、障害者差別解消法の中で求められています。

  • (1)合理的配慮の定義
    • 1) 障害者権利条約の中で定義されている「合理的配慮」
      • ① 障害者権利条約第2条

        2006年に国連で採択された障害者権利条約の中の第2条に合理的配慮の定義の記載があります。以下引用します。

        「『合理的配慮』とは、障害者が他の者との平等を基礎として全ての人権及び基本的自由を享有し、又は行使することを確保するための必要かつ適応な変更及び調整であって、特定の場合において必要とされるものであり、かつ均衡を失した又は過度の負担を課さないものをいう。」

      • ② 障害者権利条約の中に登場する合理的配慮

        定義は前述したように第2条にありますが、他に6箇所で合理的配慮という言葉が登場しています。以下、権利条約からの抜粋を示します。

        • a) 第2条「定義」

          「障害に基づく差別」とは障害に基づくあらゆる区別、排除又は制限であって、政治的、経済的、社会的、文化的、市民的その他のあらゆる分野において、他の者との平等を基礎として全ての人権及び基本的自由を認識し享有し、又は行使することを害し、又は妨げる目的又は効果を有するものをいう。障害に基づく差別には、あらゆる形態の差別(合理的配慮の否定を含む。)を含む。

        • b) 第5条3「平等及び無差別」

          締結国は、平等を促進し、及び差別を撤廃することを目的として、合理的配慮が提供されることを確保するための全ての適当な措置をとる。

        • c) 第14条2「身体の自由及び安全」

          締結国は、障害者がいずれの手続を通じて自由を奪われた場合であっても、当該障害者が、他の者との平等を基礎として国際人権法による保障を受ける権利を有すること並びにこの条約の目的及び原則に従って取り扱われること(合理的配慮の提供によるものを含む。)を確保する。

        • d) 第24条2(c)「教育」

          締結国は、1の権利[教育についての障害者の権利]の実現にあたり、次のことを確保する。
          (c)個人に必要とされる合理的配慮が提供されること。

        • e) 第2条5「教育」

          締結国は、障害者が、差別なしに、かつ、他の者との平等を基礎として、一般的な高等教育、職業訓練、成人教育及び生涯学習を享受することができることを確保する。このため、締結国は、合理的配慮が障害者に提供されることを確保する。

        • f) 第27条1(i)「労働及び雇用」

          締結国は、障害者が他の者との平等を基礎として労働についての権利を有することを認める。この権利には、障害者に対して開放され、障害者を包容し、及び障害者にとって利用しやすい労働市場及び労働環境において、障害者が自由に選択し、又は承諾する労働によって生計を立てる機会を有する権利を含む。締結国は、特に次のことのための適当な措置(立法によるものを含む。)をとることにより、労働についての障害者(雇用の過程で障害を有することになった者を含む。)の権利が実現されることを保障し、及び促進する。
          (i)職場において合理的配慮が障害者に提供されることを確保すること。

    • 2) 本邦における障害者差別解消法にみられる合理的配慮

      2016年に11月に内閣府から障害者施策担当から「障害者差別解消法【合理的配慮の提供等事例集】が公表されております。その中で、聴覚障害や視覚障害、盲ろう等、障害ごとに具体的な合理的配慮について記されております。それぞれ生活場面の中の行政、教育、雇用就労、災害等、その他と項目ごとに具体的事例を出し合理的配慮としての対応を示しています。

      盲ろうの項目では具体的に以下のような事例が載せられています。(一部抜粋)

      1. 飲食店に入った時に空席の有無等がわからず店員の声が聞き取れなくて困った状況の時に、店員がそばまで行って手の平に○(空席あり)か×(空席が無い)を指で書いてお知らせし、空席がある場合には座席まで案内を行った。

      2. 大学入試の小論文や面接の際に介助者の同席や試験時間の延長やパソコン使用許可の配慮を行った。

      3. 夜になると移動困難が増すため会議が夕方までには終了するように開催時間を変更した。

      4. 難聴のため筆談依頼があったが、弱視もあって見えにくいため、太いペンで大きな字での筆談を行った。

      5. 会議に出席したが事前の配布資料がなく当日も点字化した資料がなく長時間であったが休憩時間がなかったという件については、事前に資料配布を行い、当日は資料の概要を点字化して配布し休憩も適宜挟むことで対応した。

      他にも、内閣府ホームページでは、盲ろうの合理的配慮の提供例として、以下のような項目が挙げられていました。

      ・障害の程度(全盲ろう、全盲難聴、弱視ろう、弱視難聴)に応じたコミュニケーション方法を確認して用いる。

      ・手のひらに○、×、文字などを書いて周囲の状況を伝える。

      ・模型等を用いて触覚によって把握できるようにする。

  • (2)視覚聴覚二重障害児が抱える日常生活における課題と合理的配慮

    視覚聴覚二重障害の場合、視覚障害・聴覚障害各々の障害の程度と組み合わせや、また各々の障害の発症時期によっても状況は異なります。小児専門病院を受診する児の中には、生下時より視覚と聴覚の障害を併せもつ児も少なくありません。視覚聴覚二重障害の場合、特に情報収集、コミュニケーション、移動に大きな困難を伴うことが知られています。中でも生下時より視覚聴覚二重障害の場合には、そもそもコミュニケーション手段としての言葉の獲得に大きな壁があります。

    • 1) コミュニケーション手段の獲得

      特に生下時から障害がある場合には、全く言葉が入っていない状況ですので、コミュニケーション手段の獲得が最初の大きな課題となります。盲ろうの場合、触覚を利用した触手話等の手段がありますが、視覚聴覚二重障害であっても、各々の障害程度によって、活かせる感覚もあり、ある程度音声の言葉の理解があり視覚的な情報で補償していたり、視覚有意で手話や指文字、絵カード等でコミュニケーションを取れるようになったりと個々の児によっても異なります。聴覚障害に対しては、最近では補聴器の進歩の他に、両側90dB以上で補聴器の効果が十分でない難聴児に対して十分に適応を検討した上で1歳以上体重8kg以上の児に対して人工内耳の手術を行えるようになり、重い難聴であっても、以前に比べ音声言語を獲得し十分に音声言語でコミュニケーションを取れる児も増えてきています。教育の場も、各々の障害の程度により盲学校、聾学校、特別支援学校、支援級、普通学級と難聴学級等の併用等、児の状況に応じて様々です。難聴児の場合、読唇等の視覚的情報で聴取不十分な部分を補償し情報を収集していることが多くみられますが、聴覚障害の他に視覚障害がある場合には読唇や筆談等にも困難を伴うことがあります。視野障害を伴っている場合には、読唇したくても自分の視野の中に話者の唇が入らず読み取れないという状況を生じることがありますが、徐々に視野の中に話者の唇が入るように自分で調整して読唇できるようになる児に遭遇することもあり、子ども達の逞しさを感じることもあります。視野狭窄がある場合、正中部しか見えない、左半分は視野欠損等、児によって状況が異なり、事前にその状況を把握できる場合には、視覚情報提示の際には意識して対応します。筆談する場合でも、内閣府のホームページにもあるように弱視等を伴っている場合には、太めのペンで大きく記載する等の配慮が必要となりますし、最近ではパソコン等を活用することも増えているようです。拡大ルーペ等の補助器具を用いることも有効です。また教科書も、弱視児童のために拡大教科書(検定済教科書の文字や図形を拡大等して複製し、図書として発行しているもの)の無償給与も文部科学省が定めています。

    • 2) 情報収集

      私たちは五感を使って、周囲から情報を得ています。何気ない人の気配も感じています。視覚聴覚二重障害の場合、周囲とのコミュニケーションに困難を伴いやすいだけでなく、私たちが何気なく感じている周囲の気配に気づきにくいということがあります。視覚聴覚二重障害で、障害程度や情報補償が行われることにより、教育の場が広がり、インクルーシブ教育が導入され、障害があるお子さんが通常学級で学ぶことも多くなってきております。対応する教師や一緒に学ぶお友達にも理解が進まないと、思わぬ摩擦を生じてしまうことがあります。例えば、仮に一側難聴で対側耳は健聴である児の場合であっても、静かなお部屋で正面から明瞭に話してもらった言葉は両耳健聴の児と変わらず聴取可能ですが雑音下での聴取は困難となりやすく、また音源の位置を同定しにくい児もあるので、休み時間等賑やかな時に急に声をかけられても気づかず、友人から無視された等誤解を受け、本人もストレスを感じる状況におかれてしまうことがあります。視覚も聴覚も障害がある場合、お子さんの障害の程度に合わせて視覚と聴覚の情報を配慮して提供することが必要で、音声のみで視覚情報の提示がなく不意に言われた内容が聴取できずに困ったり、必要な情報が聴取できていなかったことに気づけず、その後に大きな問題に発展してしまったりということがあります。このことは、学生時代は配慮された学校で過ごし就職して社会に出た時に初めて気づいたという方も少なくないようです。他に、視覚情報が大きな助けになっている児でも、視覚障害を伴っている場合、小さな文字等の不適切な視覚的情報提示のみであれば、情報を十分に把握できないこともあるでしょう。盲学校を卒業し就職した際に「何かわからないことがあったら、私に聞いてください。」と言ってくれた方が、他の方と全く同じ色の同じ制服で背中を向けて仕事されており、後でどの方に聞いていいのか、わからなくて困ったという方もいました。まだまだ職場でも合理的配慮がなされていないと感じる事例です。目立つように違う色の服を着る等、視覚障害がある方を受け入れるのであれば、配慮が必要です。また災害時等、周囲の人々が騒がしくなり、人々が口にする言葉や緊迫した気配等から重大なことが起きていると察知することは、視覚聴覚二重障害がある場合、特に困難となります。通学の際に、急に事故等で電車が止まってしまった時、障害が無くても情報収集や対応に困ることがありますが、障害がある場合には情報がより入りにくくパニックになる場合もあります。このような事態に備えるために、とっさに必要となる文章「耳が聞こえにくいので筆談してください。」「目も見えにくいので、大きく書いてください。」等のカードを用意して携帯し、駅員等にすぐに提示できるようにしておくのも必要な備えかもしれません。

    • 3) 移動

      視覚聴覚二重障害児の中には、視野障害も含んでいて、例えば左側の視野欠損がある場合に、段差がある場所で左足だけ踏み外す等、日常生活に危険を生じていることもあります。このような場合、移動に介助者や杖等補助器具が必要となります。また信号が無い横断歩道を渡らないといけない時には、特に大きな危険を生じます。障害が無い場合には、車のエンジン音等から、車がどの方向から、どの程度の勢いで近づいてきているか等の情報を収集し、今渡らない方がよい等と無意識に判断していますが、視覚聴覚二重障害がある場合、目視での確認が困難なばかりか音の聴取からの情報把握も困難です。このような場合には介助者の存在が重要で、比較的歩行者の利用が多い時間等を把握して、他の歩行者と一緒に渡る等、自ら工夫している児もみられます。視覚障害が高度で白杖を使用している場合、難聴で補聴器や人工内耳を見える状態で装用している場合には、周囲が気づく場合もありますが、視覚障害も聴覚障害も見えにくい障害であり、社会で共生する人々の理解と協力も大切です。

参考文献

  • 1) 川島聡、飯野由里子、西倉実季、星可良司:合理的配慮、有斐閣、2016年
  • 2) 九州弁護士会連合、大分県弁護士会:合理的配慮義務の横断的検討、現代人文社、2017年
  • 3) 内閣府ホームページ https//www8.cao.go.jp.>sabekai_leaflet
  • 4) 愼英弘:盲ろう者の自立と社会参加、新幹社、2005年

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