眼科問診
視覚聴覚二重障害には、染色体や遺伝子の異常が想定される先天異常1)~9)の他、未熟児10)、水頭症などの脳疾患、脳外傷、感染症10)、11)、母体の問題などさまざまな原因があります。また原因不明のことも多いのですが、詳しい問診をすることで原因を推定することが重要となります。
問診は症状やその発症時期、既往歴などの情報を収集するために行いますが、視覚聴覚二重障害の患者さんにおいては、直接詳細を聴き取ることは難しいことも多いため、家族や同伴者からの聴取が重要となります。小児期以降では本人からの問診が可能なこともありますが、やはり療育者・同伴者からの情報が重要となります。
病歴、既往歴を聴き取り、診断の手がかりとします。病歴は、視覚障害にみられる症状を年齢や発達の程度に合わせて具体的に提示しながら聴取していくと、把握しやすいでしょう。問診は、情報収集のみならず医師が患者さんとのコミュニケーションのとりかたを理解する重要な出発点でもあります。
問診の具体的内容
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(1)現病歴
視覚障害の発症時期や症状の進行の有無、現在の生活の様子を聴取します。発症時期は、先天性か、乳児期以降なのか、3歳児健診の結果はどうだったか、学童期以降であればどのような学校生活を送っていたか(黒板の字は見えていたか)、10歳代後半か、20歳代の前半か、同後半か、それ以上なら何歳くらいか、会話や先生の声の聞き取りに支障を来すようになった時期はいつ頃かなど具体的な時期やエピソードを提示すると確認しやすいでしょう。日常生活における視覚に関連するさまざまなエピソードについての具体的な質問は、症状の把握に役立ちます(表1)。症状によっては、自覚し始めた頃(または身近な人が気づいた頃)と比べて、変わらないのか進行してきたのかも聴取します。視力検査を受けたことがあればその値も確認します。視力が測定できなければ、日常生活の状況を聴取します。
新聞が読めるか、食事や衣服の着脱に不自由はないか、テレビが見えるか、絵本を見れるか、おもちゃで遊べるかなどです。また、見えにくいのは明所か暗所かについては、網膜色素変性症の診断に重要です。
異常な眩しさを感じるかも診断やロービジョンケアに重要な情報です。視野狭窄の有無を推定する問いとしては、車や自転車が接近してくるのに気が付くか、目の前に来ないとわからないか、人込みなどで人とよくぶつかるかが重要です。
受診時には持参していなくても、学校では眼鏡を装用していたり、近業の際にルーペを使っていることもあるので、補助具の使用の有無も聴き取っておきます。症候群の鑑別のために身体の発育の状況、精神発達の状況、随伴する頭蓋・顔面・体の奇形・障害の有無についても尋ねます。
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(2)既往歴
眼疾患の手術歴を現病歴で聞き漏らしていないかを確認します。レーザー治療(網膜光凝固術)も手術として扱います。
全身疾患や体表奇形のほかに、在胎週数・出生体重や母親の周産期異常の有無(風疹11)、サイトメガロウイルス感染12)、薬物使用)も聴取します。
後天性視覚障害の場合は、脳に異常をきたすような感染、腫瘍、脳卒中、外傷などがなかったかも確認します。
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(3)家族歴
遺伝性疾患の鑑別に重要です。患者さんと類似した症状や視覚障害、聴覚障害を持つ血縁者の有無を聴取します。はっきりしない場合や、患者さんとは異なる診断を受けている視覚障害者が家系内にいる可能性もあります。患者さんの診断が確定して、ある程度疾患の理解と受容ができてから、必要に応じて、あらためて家族歴を聴取する意義を説明し確認します。
新生児 | 目を開けないa)
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乳児 | (上記に加えて) 固視・追視しない(目が合わない、物を目で追いかけない)c) おもちゃを手にとらない 目が揺れる(眼振) まぶしがる 目を触る、押すd) 目の位置がおかしい(斜視)e)
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幼児 | (上記に加えて) 絵本に興味を示さない お絵かき、読み書きをしない 周囲の障害物にぶつかりやすい まぶしがる、暗いところを怖がる、暗いところで見えにくい、転ぶf) 食事・トイレ・着替えなどの生活習慣が身につきにくいg) 歩いて行動する際に手助けが要る(段差、室内・屋外での違い、慣れているところ・初めてのところでの違い)
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小児 | (上記に加えて) 教科書や黒板の文字が見えにくい 学校生活で困難なこと(教師や同級生の助けを必要とすること) |
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成人 | 学業や仕事など現在の環境、従事している内容
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参考文献
- 1) 三島祐子、松田圭子、池川敦子、他:CHARGE症候群の有病率と臨床像の検討.大阪府立母子保健医療センター雑誌 2012; 27: 8-16.
- 2) 後藤 晋: ダウン症候群 眼科診療ガイド、文光堂;2004: 612-3p
- 3) Usher症候群 難治性疾患研究班情報 http://www.nanbyou.or.jp/entry/918
- 4) 網膜色素変性症診療ガイドライン 日眼会誌 2016; 120: 846-861.
- 5) 渡邉展佳、神前賢一、久保寛之、他:Stickler症候群に発症した裂孔原性網膜剥離の1例.日眼会誌 2010; 114: 454-458.
- 6) コルネリア デ ランゲ症候群 小児慢性特定疾患情報センター 7 https://www.shouman.jp/disease/details/13_01_007/
- 7) コケイン症候群難治性疾患研究班情報 http://www.nanbyou.or.jp/entry/4436
- 8) 加藤健、中島務:知っておきたい耳鼻咽喉科領域における症候群―内分泌障害を伴うもの ターナー症候群 ENTONI 2012; 138: 35-41.
- 9) ダンディー・ウォーカー症候群 小児慢性特定疾患情報センター 9 https://www.shouman.jp/disease/details/11_03_009/)
- 10) 伊野田繁:未熟児網膜症 眼科診療ガイド、文光堂;2004:344-345.
- 11) 若林美宏:先天性風疹症候群 眼科診療ガイド、文光堂;2004: 606.
- 12) 小林康彦:先天性サイトメガロウイルス感染症 眼科診療ガイド、文光堂;2004:607.
- 13) 五十嵐信敬:目の不自由な子の育児百科,コレール社;2003:260頁
- 14) 五十嵐信敬:視覚障害幼児の発達と指導,コレール社;2003:162-163頁
- 15)、16) 日本眼科学会:網膜色素変性診療ガイドライン.
http://www.nichigan.or.jp/member/guideline/retinitis_pigmentosa.pdf, 参照(2018-4-18)