耳鼻咽喉科検査
聴力検査は、新生児聴覚スクリーニングでリファーとなった場合、難聴の疑いがある場合、あるいは難聴のリスクのある場合に実施します。聴覚障害に対して適切な対応をするためには、聴覚障害の程度を正確に把握することが重要です。小児の聴覚の正確な評価は難しく、年齢や発達段階に応じた行動反応聴力検査と他覚的検査を併用して診断します。
小児の行動反応聴力検査は視覚情報を用いた条件付けを行い、実施しますので、視覚障害や発達障害がある場合は条件付けが困難なことがありますが、障害に応じた対応で可能となることもあります。
また、一回の検査で聴力の確定は困難な例も多く、正確な診断のためには複数回の検査を要する場合もあります。さらに、疾患によっては難聴が進行することもありますので、経過観察のために定期的な聴力検査も必要です。また、難聴が出現する疾患が疑われている場合も、定期的な経過観察が必要です。
聴覚障害に視覚障害を重複する患者で特に考慮すべき点
行動反応聴力検査では視覚情報を用いて条件付けを行いますので、視覚障害の影響で条件付けが困難なのか、発達の問題で条件付けが困難なのか、聞こえていないので反応がないのかを見極める必要があります。
視覚障害の程度によって検査に用いることができる視覚情報が異なるため、検査方法の工夫が必要となります。弱視、光覚弁、手動弁、色覚弁では、検査時の条件付けや報酬には残された視覚を利用しての検査を考慮しますが、触覚等の活用が有用なこともあります。まったく明暗もわからない場合は、聴覚の障害程度によって残された聴覚や触覚を利用しての検査工夫が必要となります。
遊戯聴力検査で鈴など音の鳴るものを箱に入れたり、音の鳴るおもちゃを利用して行います。小児では、熟練した検査者がいる施設での検査が望ましいです。特に視覚障害やその他の障害を合併している場合の検査と診断は難しく、専門の施設(日本耳鼻咽喉科学会のホームページに掲載されている新生児聴覚スクリーニング後の精密聴力検査機関等)で検査を受けることが推奨されます。
原因診断には、画像検査(CTあるいはMRI)で内耳奇形の有無などの評価や、遺伝子検査も有効です。現在の保険診療で実施されている先天性難聴の遺伝子検査は、主に非症候性難聴の原因遺伝子検索を目的としているため、視覚聴覚二重障害の原因となる遺伝子変異が検出には適さないため、研究検査が必要となります。
以下に発達時期別の要点を示します。
(*で示した一般的な聴力検査方法に関しては本章後半にまとめて記載してあります。)
新生児期
聴性行動反応聴力検査(BOA)*は視覚情報を用いない反応を確認しているため、通常通りの検査が可能です。
乳児期
条件詮索反応聴力検査(COR)*の条件付けは「おもちゃが動く」「画面に絵が出る」などの視覚情報を用いているために、視力障害の程度によっては条件付けが困難なことが予測されます。
明らかに聴取可能な大きな音で可能な限り条件付けを行い、条件付けのために使用している玩具等が認識できるかの確認を行ったうえで検査を開始する必要があります。明らかに聞こえていそうな大きな音で可能な限り条件づけします。
目の動きから反応を確認することが難しいです。視覚障害のために、玩具等が認識できない場合には、新生児期と同様にBOA検査に準じた評価を行い、他覚的聴力検査と併せての評価を行います。
先天性眼振や不随意的な眼球運動が見られる場合は、目の動きが音への反応と捉えるべきかの判断が難しくなります。保護者から日常生活での児の様子や音への反応や様子を確認することにより、検査時の動きが音への反応であるのか不随意運動であるのかの判断に役立つこともあります。
幼児期
乳児とほぼ同様の対応となります。
遊戯聴力検査*やピープショウ検査*では視覚による報酬が得られないため、上手にできたことを言語化して伝える、手をつなぐなどの触覚などの他の感覚を用いるなどの工夫が必要となります。
小児期
音声言語での指示が伝わる場合は、視覚障害のない小児と同様の検査及び評価が可能となります。
聴覚障害等のために、音声言語での指示が十分に伝わらない場合は、他覚的聴力検査の併用が必須となります。
成人
言語習得後の聴覚障害であり音声言語あるいは文字等による指示が伝わる場合は、通常通りの検査が可能です。
さらに、知的障害、肢体不自由を重複する場合に考慮すべき点
障害が重なるほど、正確な聴力の評価に難渋します。
標準的な検査では聴力の評価できない場合は、他覚的検査に加え保護者への問診、行動観察などによる評価を参考にします。
他覚的検査は有用ですが、障害によってはAuditory neuropathy spectrum disease のようにABR 検査は無反応あるいは高度難聴の結果であっても耳音響放射検査(OAE)*は正常で、聴性脳幹反応検査(ABR)*と実際の聴力に乖離があることもありますので、行動反応聴力検査も重要です。
行動反応聴力検査では、検査音の再提示までの間隔を通常より長めにとるようにします。その理由は、消音時に反応したり、反応が遅延して起こる場合もあるためです。
また、明らかに聞こえていそうな大きな音で、その児の反応パターンを確認します。
音への反応として、ふりむきだけではなく、まばたきや、息どめ、呼吸状態の変化などがみられることもありますので、児の全身すべてを観察し、反応を探します。
その際保護者からの情報は有用ですが、客観的な観察も重要です。
視覚聴覚二重障害では、聞こえているという反応がわからずに不安に思っている保護者も多いため、検査時に音に対する反応と判断できたら、その時に「目が動いたね、聞こえたねー」など児の反応を実況して理解してもらうようにします。
残存する聴力を十分に活用できるよう、可能な限り正確な評価を心がけます。検査時や検査終了後に、保護者に音への反応の傾向を伝え、家庭でも音への反応の様子を観察してきてもらうことにより、次回からの検査に活用できます。
一般的な耳鼻咽喉科検査方法の概略(聴覚障害のみの患者)
- 新生児聴覚スクリーニング(自動ABR、OAE)でリファーとなった場合、難聴の疑いがある場合、あるいは難聴のリスクのある場合に実施します。
- 鼓膜所見の確認、聴覚評価を実施します。
- 鼓膜所見の確認では、滲出性中耳炎の有無を確認します。
- 聴力検査には、他覚的聴力検査と行動反応聴力検査があります。
- 小児では行動反応聴力検査と他覚的検査を併用して総合的に評価します。
- 年齢や発達段階に応じた検査が必要となります。
- 小児の場合は一回の検査で聴力の確定は困難な例も多く、正確な診断のためには複数回の検査を要する場合もあります。
- 疾患によっては難聴が進行することもありますので、経過観察のために定期的な聴力検査も必要です。また、難聴が出現する疾患が疑われている場合も、定期的な経過観察が必要です。
- 難聴の診断となった場合は、画像検査(CT あるいはMRI)で内耳奇形の有無などを評価します。
- 難聴の原因検索として遺伝子検査が有用です。
以下に発達時期別に聴力検査の概略を示します。
新生児期
行動反応聴力検査と他覚的聴力検査を実施します。行動反応検査としては聴性行動反応聴力検査(BOA)1)、他覚的検査としては聴性脳幹反応検査(ABR)2)、聴性定常反応検査(ASSR)3)、耳音響放射検査(OAE)4)等を実施します。
1)聴性行動反応聴力検査(BOA) | 音刺激に対して振り返る、目を向ける、驚くなどの反応または反射を観察して聴力を判定する検査です。新生児期では、健聴であればBOAは50―60dBくらいで反応します。 |
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2) 聴性脳幹反応検査(ABR) | 代表的な他覚的聴力検査で、多くの耳鼻咽喉科で実施可能です。 |
3) 聴性定常反応検査(ASSR) | 他覚的聴力検査の1つで、周波数別の推定聴力を測定できますが、機器を所有している耳鼻咽喉科は多くありません。 |
4) 耳音響放射検査(OAE) | 他覚的聴力検査の1つで、新生児聴覚スクリーニング検査でも用いられています。内耳機能障害、中等度かそれより重い難聴の有無を調べます。 |
乳児期
新生児期とほぼ同じ方法で検査を実施します。定頸後は行動反応聴力検査として条件詮索反応聴力検査(COR)5)が実施できますが、本検査を実施できる施設は限定されています。日本耳鼻咽喉科ホームページに掲載されている新生児聴覚スクリーニング精査機関であれば実施可能です。
COR 検査は条件付けがうまくできれば信頼性の高い検査ですが、他覚的聴力検査結果と併せての評価が必要です。障害状況に応じて適宜、画像検査や遺伝子検査を行います。
5)条件詮索反応聴力検査(COR) | 音に対する探索反応を視覚刺激により強化し、条件付けをして検査します。スピーカーから音を提示するので、左右別の聴力評価はできません。また視覚障害では条件付けが困難です。乳児期では、健聴であればCORは20―40dBくらいで反応します。 |
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幼児期
乳児とほぼ同じ方法で検査を実施します。行動反応聴力検査としてボタン押しが可能となればピープショウ検査6)が実施できるようになります。
小児の聴力検査に経験のある施設では、3歳頃よりヘッドホンを用いた遊戯聴力検査7)を実施できるようになり、左右別の聴力評価が可能となります。
発達状況に応じて検査を選択する必要があります。
6)ピープショウ検査 | 聴力検査で音刺激中にスイッチを押すと、覗き窓の中に絵が映る、ぬいぐるみが動く等の装置を用いて実施する検査です。視覚障害では条件付けが困難です。 |
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7)遊戯聴力検査 | 音が聞こえたらおはじきやサイコロなどの玩具を1つ移動させるように指示して実施する検査です。視覚障害で対象となる玩具が認識できない場合は、遊戯の種類を変更する必要があります。 |
小児期
行動反応聴力検査として遊戯聴力検査あるいは純音聴力検査が実施できます。
就学後であれば通常は骨導検査も可能ですが、信頼性のある結果を得られない場合もあります。20-30dB以上の域値があると聴覚障害と判定します。伝音難聴が疑われる場合は、ティンパノメトリーやあぶみ骨筋反射検査を実施します。
小児では、日常生活での音への反応や、言語発達と聴力検査結果に乖離がある場合は、ABR検査などの他覚的聴力検査も必要となります。
成人
純音聴力検査を実施し、聴力閾値、聴力型、気骨導差の有無などを確認します。伝音難聴が疑われる場合は、ティンパノメトリーやあぶみ骨筋反射検査を実施します。
参考文献
- 小川郁:診断 検査 聴覚検査.小児耳鼻咽喉科,第2版.小児耳鼻咽喉科学会編,金原出版;2017:87-92頁