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先天性および若年性の視覚聴覚二重障害の原因となる難病の診療マニュアル(第1版)

眼科検査

視覚障害と聴覚障害を併せ持つ可能性のある疾患は多岐に渡ります。例えばアッシャー症候群のように、診断名からすぐに重複障害が推定される疾患もあれば、視覚障害の存在が一見して分からないような患者さんもいます。発達期の子供にたとえ軽度の視野障害や視力障害があっても、本人は症状を訴えないことも多く、かなり重症化するまで障害に気付かれないケースも多く見られます。

特に重複障害者にとってはより早期の治療やリハビリテーションが望まれるため、周囲の者が少しでも早く視覚障害の兆候に気付き、適切な診断を行い、効果的な治療やリハビリテーションに結び付けていくことが重要です。

視覚障害に聴覚障害を重複する患者で特に考慮すべき点

聴覚障害を併せ持つ患者さんについても、眼科検査についての基本的な内容および方法は変わりません。ただし、重複障害を有する患者さんに対して、以下の点に注意をして検査を行う必要があります。まず、重複障害者の検査では、視覚障害のみの患者に比べ、集中力、努力を多く要するため検査に疲労を伴いやすいと考えられます。また、どのような検査が行われるのか、検査前の不安も大きいと考えられます。

このため、検査の内容や掛かる時間をあらかじめ伝え、また、程度にかかわらず侵襲のある検査を行う前には患者に触れて検者の存在を知らせ、患者の不安や疲労を最小限にする必要があります。

さらに検査の侵襲度を考え、弱い光から強い光の検査、遠くから可能な検査から近距離の検査、圧迫感のない検査から圧迫感のある検査へと、検査の順番を工夫する必要があります。視力検査や視野検査など、検査者と患者の受け答えが重要な検査では、患者の応答や反応を正確に把握できるように、より注意深く、時間を掛けて患者を観察する必要があります。

また、照明や騒音レベルへの配慮や、検査が長時間に及ぶ場合には検査日を複数回に分けることなどの工夫が必要です。さらに、視覚障害、聴覚障害の程度により、コミュニケーションの手段、必要な事柄には個人差が大きく、それぞれの障害レベルに合った個々の対応が必要であることを念頭に入れる必要があります。そして同一の患者でも年月と共に変化する可能性があることも予期すべきです。知的障害を合併する場合は、身体年齢ではなく知的発達の程度に応じた視力検査方法と基準を用いる必要があります。

新生児

可能な検査は検眼鏡検査のみのため、特別な対応は特にありません。

乳児、幼児、小児

コミュニケーションの取れる同伴者に検査の説明を行い、可能な検査を行っていきます。 視反応、選択視法、視運動性眼振など非侵襲の検査は機嫌のよい覚醒時であれば支障は少なく行えます。

視力検査、両眼視機能検査、視野検査は侵襲はないですが、自覚的検査であるため被検者が検査を理解する必要があります。眼圧検査、眼底検査など圧迫感や羞明などの不快感を伴う検査で、患児の理解、協力を得るのが難しい場合には、自然睡眠下もしくはトリクロールシロップなどの眠剤を使用します。

小児期以降、蛍光眼底検査や周辺部までの眼底検査、網膜電図などさらに強い催眠を必要とする場合には、小児科医の管理下で鎮静薬の静脈注射を行うか、全身麻酔下で行います。

成人

一人で来院された場合、筆談、手話などを交えて問診や説明を行い、可能な検査を進めます。


一般的な眼科検査の概略(視覚障害のみの患者)

  • 患者が小児の場合、子供がどの程度見えているか、どのような点に不自由を感じているか、保護者からも詳しく意見を聞きます。
  • 患者の見え方に関わる解剖学的、および機能的な評価を行います。
  • 基本となるのは、視力検査、視野検査、前眼部検査、および眼底検査などです。
  • 必要に応じて、画像診断、電気生理学的検査などの特殊な診断機器を用いた詳しい検査を行います。

以下に各検査の要点を発達時期別に示します。

(1)自覚的検査

(1)視力検査
(年齢に応じた視力検査法と視力値の基準に応じた適切な評価を行います)

新生児 1 カ月未満

視力測定は極めて困難であり、この段階で視機能の測定はほぼ不可能です。

3カ月未満:視力 0.02~0.03

視力を数字として表すことが困難な時期ですが、光に対する反応、追視の有無、おもちゃを動かして見せた時の反応、保護者と目が合うかどうか等を確認します。追視は生後2カ月ころから可能で、玩具やライトなど患児の気を引くものを用いて追視ができているかを確認します。

3カ月~12カ月:視力 0.03~0.2

心理物理学的方法による視力検査を用います。よく利用されるのはTeller Acuity Card (TAC)です。選択視法(PL法:Preferential Looking法)も用いられます。これらは、首が座る生後3カ月ころから可能です。

乳児はパターン化刺激を好んで注視するという特徴を利用したもので、縞指標とグレーの無地の指標を表示し、どちらを見ているかを観察者が確認します。

視運動性眼振による検査も生後3カ月ころから可能です。回転ドラムの表面に描かれた縞模様を回転させることで眼振が誘発されるかを観察することにより、視力を測定します。

乳児期(1カ月以上~1歳未満)には以下の点に注意が必要です。

嫌悪反応 眼を遮蔽した時の嫌がり方の左右差で見え方を推測します。
眼振

眼疾患による視覚障害では生後3カ月ころより出現します (感覚欠陥型眼振)。先天性眼振と区別しにくいこともある。

指眼現象 先天盲の患児にみられ、自分の指で眼を押さえる特異な現象です。

1~2歳:視力 0.2~0.3

この年齢では、TAC に対する反応が不安定になるので、視力を推測する良い方法はありません。片目を交互に隠したときに、どのような反応をするかで左右の視力の違いを推定することができます。

固視反応 生後1歳半ごろから可能

2~3 歳:視力 0.3~0.5

自覚的視力検査が徐々に可能になり始める時期です。標準的なランドルト環を使った検査はむずかしいので、絵視標や図形視標やドットカードなど動物の絵や図形が描かれたカードを見せて視力を測定します。

検査距離は標準では5mですが、幼い子どもは5mも離れた先の視標にうまく反応できないことが多いので、検査距離を2.5m以下に短縮して(検査者が子どもに近寄って)検査します。

視標が並べて表示された成人用の検査機器では、読み分け困難のため検査できないので、カードに視標がひとつずつ表示された単一視標を用います(字ひとつ視力検査)。

3歳以降:視力 0.5~

3歳半では、5mの距離でランドルト環単一視標による自覚的視力検査できる割合が約80%に増えます。3歳半での平均視力は0.6となります。これ以降成人の標準である1.0以上の視力に向けて徐々に発達が進みます。

5歳以降:視力 1.0以上

ランドルト環単一視標による視力がほぼ1.0に達します。ただし、子ども特有の読み分け困難という現象のため、字づまり視力(指標が並べて表示されたものを見分ける能力)はまだ不良です。

8歳以降:視力 1.0以上

字ひとつ視力と字づまり視力の乖離がなくなり、成人と同等の視力を獲得するため、通常の大人と同様の検査ができます。

(2) 視野検査

通常の手動視野計の代表であるゴールドマン動的視野計を用いた検査は小児では困難で、5歳頃から徐々に慣らしながら可能となります。ハンフリー自動視野計などを用いた自動視野検査も普及していますが、集中力を要するので小児で使用可能になるのは手動視野検査よりも後になり、使用可能な年齢の個人差も大きくなります。

(3)眼位検査

乳児期においても、対面しながらペンライトにて眼位を確認することができます(Hirschberg法)。幼児期からはプリズム遮蔽テスト、大型弱視鏡(シノプト)を用いた眼位の検査が可能となります。乳児で視覚障害が片眼のみの場合には外見上に表出する他の所見がなければ気付かれにくいですが、斜視で発見される場合も多いです(感覚性斜視) 。幼少期の発症では内斜視を呈することが多く、両眼視機能の完成以降の発症では外斜視を呈することが多いです。

(4)立体視テスト(両眼視機能検査)

3歳頃の幼児期から、Titmus stereo test(フライテスト)、Lang stereo test、Randam dot stereogramなどを用いて立体覚を測定することができます。

(2)他覚的眼科検査

(1)屈折検査

近視、遠視、乱視等の屈折異常を発見し、弱視を予防するための検査です。スキアメーターによる手動の検査と、レフラクトメーターによる自動の検査がありますが、通常は幼児期から測定可能です。

検査が困難な乳児では、調節麻痺剤を点眼した上で、薬物による鎮静下、麻酔下にて正確な測定を行います。スポットビジョンスクリーナーを用いれば1秒程度で非侵襲的に生後6カ月ころからスクリーニングが可能。

(2)前眼部検査(スリット細隙灯)
白内障、緑内障、前眼部先天奇形等の確認を行います。診察の難易度は異なりますが、乳児から大人まですべての年齢で可能です。

(3)眼底検査
検眼鏡や眼底カメラで網膜疾患、視神経疾患等の確認を行います。診察の難易度は異なりますが、乳児から大人まですべての年齢で可能です。新生児ではおとなしく寝ていることが多いですが、眼を開けてくれない場合は麻酔薬の点眼後に開瞼器を用いてから検査をします。

(4)眼圧検査
高眼圧症、緑内障の確認を行います。乳幼児期での検査は困難ですが、通常、5-6歳頃から可能です。乳幼児期で必要な場合は、自然睡眠下、あるいは薬物による鎮静下、麻酔下で正確な測定を行います。

(5)画像診断
眼底写真、光干渉断層計、眼底自発蛍光、蛍光眼底造影等によって、網膜の異常を詳細に評価します。通常、機械に頭部を固定できる4-5歳から測定可能です。必要な場合は、自然睡眠下、あるいは薬物による鎮静下、麻酔下で測定を行います。

(6)電気生理学的検査

網膜電図(ERG)、視覚誘発電位(VEP)などを用いて、網膜、視神経、後頭葉視覚中枢の機能を評価します。通常は6歳頃から測定可能です。乳幼児期で必要な場合は、麻酔下で測定を行います。

VEPは視覚刺激に対して後頭葉第一次視覚野で誘発される電位(脳波)を測定する他覚的検査です。通常は市松模様を連続で反転させた画像を見させて行いますが、ゴーグル型のLED光刺激装置を用いれば首が座る前の乳児も検査可能です。

ERGは光刺激によって網膜全体から発生する電位を記録する検査法です。網膜全体の機能の判定に役立ちます。遺伝性網膜疾患が疑われる場合や、原因不明の視力低下や、小児の視機能を他覚的に知りたい場合に有効。角膜電極によるものが通常ですが、侵襲撃を伴うため、小児には皮膚電極によるものを用いることがある。暗所で20分ほど待つ必要があるため、どちらも3歳以下では鎮静が必要です。

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