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先天性および若年性の視覚聴覚二重障害の原因となる難病の診療マニュアル(第1版)

視覚聴覚二重障害となる可能性のある主な疾患

チャージ(CHARGE)症候群(指定難病105)(小児慢性特定疾病 24)

疾患の概要:Coloboma(眼の異常)、Heart defects(心臓の異常)、Atresia of choanae(口腔と鼻腔のつながりの異常)、Retarded growth and development(成長や発達が遅いこと)、Genital abnormalities(性ホルモンが不十分であること)、and Ear anomalies(耳の異常)の頭文字より名付けられる症候群、すべての症状がそろわない例もある。多くは孤発例であり、約70%にCHD7遺伝子変異またはSEMA3E遺伝子変異が確認される。

【眼】 片側ないし両側性の虹彩・網膜・脈絡膜・乳頭のコロボーマ(先天性)
【耳】 耳垂の無又は低形成などの耳介奇形、感音・伝音又は混合性難聴

【診断基準】難病情報センター http://www.nanbyou.or.jp/entry/4138

確定診断例と臨床診断例を対象とする。

〔診断のカテゴリー〕
(1)確定診断
症状のいずれかから本症を疑い、原因遺伝子(CHD7遺伝子)に変異を認める。
(2)臨床診断
必発症状を有し、大症状2つ以上有する。
又は、必発症状を有し、大症状1つと小症状2つを有する。

必発症状:
①耳介奇形を伴う両側性難聴
②低身長
③精神発達遅滞

大症状:
①眼コロボーマ(種類を問わない。)
②後鼻孔閉鎖又は口蓋裂
③顔面神経麻痺又は非対称な顔

小症状:
①心奇形
②食道気管奇形
③矮小陰茎若しくは停留精巣(男児)又は小陰唇低形成(女児)

コルネリアデランゲ(Cornelia de Lange)症候群(小児慢性特定疾病 16)
先天異常症候群(指定難病310)

特徴的な顔貌(濃い眉毛、両側眉癒合、長くカールした睫毛、上向きの鼻孔、薄い上口唇、長い人中など)を主徴とする先天異常症候群

【眼】 近視、眼振、内斜視、視神経萎縮、眼瞼下垂、乳頭コロボーマ、先天性鼻涙管閉塞、虹彩コロボーマ、瞳孔偏位、角膜混濁、白内障(多くは先天性)
【耳】 両側感音難聴(先天性)

【診断基準】(難病研究資源バンクより)
https://raredis.nibiohn.go.jp/malformation/diagnostic_criteria/daiagnostic_criteria_161229_42.pdf

DefiniteおよびProbableを対象とする

A 主症状
1.眉毛癒合
2.知的障害
3.成長障害(身長ないし体重が3パーセンタイル未満)

B 小症状
1.長い人中または薄い上口唇
2.長い睫毛
3.小肢症または第5指短小または乏指症

C 遺伝学的検査
NIPBL・SMC1A・SMC3・RAD21・HDAC8遺伝子等の原因遺伝子に変異を認める

〔診断のカテゴリー〕
Definite:Aの3項目+Cを認めるもの
Probable:Aの3項目+Bの3項目を認めるもの

スティックラー(Stickler)症候群

皮膚や骨、筋肉、内臓などの各器官を結びつけ、また、支持している結合組織に先天異常を認める疾患である。下顎の後退による呼吸障害や嚥下障害、口蓋裂の合併、骨や関節の異常等がみられる。遺伝性網膜剥離の原因として最も多い疾患である。

【眼】 高度近視(進行性)、硝子体変性、緑内障、白内障、網膜剥離(後天性、早期発見で治療可能)
【耳】 伝音・感音難聴(先天性)

【診断基準】(難病研究資源バンクより)
https://raredis.nibiohn.go.jp/malformation/diagnostic_criteria/daiagnostic_criteria_161229_8.pdf

DefiniteおよびProbableを対象とする

A 主症状
1.低身長
2.関節変形または拘縮

B 小症状
1.小顎症または顔面中部低形成
2.U字型口蓋裂
3.進行性近視または網膜硝子変性
4.難聴

C 単純X線検査
1.脊椎・骨端・骨幹端の全てまたはいずれかの異形成
2.椎体または恥骨の骨化遅延

D 遺伝学的検査
1.2型コラーゲン遺伝子変異
2.9型または11型コラーゲン遺伝子変異

〔診断のカテゴリー〕
Definite:Aのうち1つ以上+Cのうち1つ以上+Dのうち1つ以上を認めるもの。
Probable:Aの2項目+Bのうち1つ以上+Cのうち1つ以上を認めるもの。

ピエールロビンシークエンス(Pierre Robinシークエンス)

胎生9週前に下顎の成長が制限されることで、舌が正常よりも後方に位置することが原因となり、U字型の口蓋裂と小さい下顎を特徴とする疾患である。原因不明の下顎低形成単独例もあるが、他の症状、疾患を伴うことも多い。Pierre Robinシークエンスの20-25%はStickler症候群であり、視覚障害や聴覚障害を伴う例は、Stickler症候群等の疾患と考える。
https://rarediseases.info.nih.gov/diseases/4347/pierre-robin-sequence

トリーチャーコリンズ症候群(Treacher Collins症候群)

第1、第2鰓弓由来の先天性奇形症候群。常染色体優性遺伝疾患であるが、その約60%は突然変異である。視覚・聴覚障害の他に、下顎や頬骨の低形成により咀嚼・嚥下・呼吸困難、睡眠時無呼吸、容貌などの多くの問題が生じうる。

【眼】 眼瞼の異常、下眼瞼の睫毛欠損、斜視、虹彩部分欠損(先天性)
【耳】 小耳症、外耳道閉鎖症、耳小骨奇形等による両側伝音難聴(小耳症や外耳道閉鎖は一側性の場合もある)

【診断基準】(難病研究資源バンクより)
http://www.nanbyou.or.jp/upload_files/h28-1-005.pdf

DefiniteおよびProbableを対象とする

A 大症状
1.頬部低形成
2.眼瞼裂斜下
3.小顎症
4.小耳症・外耳奇形

B 小症状
下眼瞼のコロボーマ

C 遺伝学的検査
TCOF1、POLR1D、POLR1C遺伝子等の原因遺伝子に変異を認める。

〔診断のカテゴリー〕
Definite:Aのうち2つ以上+Cを認めるもの。
Probable:Aのうち3つ以上+Bを認めるもの。

ゴールデンハー(Goldenhar)症候群

顔面の低形成(片側のことが多いが10-33%は両側性)眼球結膜類皮腫、脊椎奇形を来す疾患で、第1・第2鰓弓の発生異常が原因と考えられているが、原因は不明である。
https://rarediseases.info.nih.gov/diseases/6540/goldenhar-disease

【眼】 眼球結膜類皮腫(70%)、眼瞼欠損(25%)、小眼球症、無眼球症、眼瞼下垂、瞼裂狭小(先天性)
【耳】 無耳、小耳、耳介変形、外耳道の狭窄・閉塞、伝音難聴(多くは一側性)

【診断基準】(難病研究資源バンクより)
https://raredis.nibiohn.go.jp/malformation/diagnostic_criteria/daiagnostic_criteria_161229_11.pdf

DefiniteおよびProbableを対象とする

A 大症状
1.頬部低形成
2.小顎症
3.小耳症・外耳形態異常

B 小症状
1.先天性心疾患
2.腎形態異常
3.脊椎形態異常
4.顔面形態異常の非対称性

〔診断のカテゴリー〕
Definite:Aの3項目+Bのうち1つ以上を認めるもの。
Probable:Aの2項目+Bのうち2つ以上を認めるもの。

頭蓋骨早期癒合症
クルーゾン(Cruzon)症候群(指定難病181)(小児慢性特定疾病 32)
アペール(Apert)症候群(指定難病182)(小児慢性特定疾病 31)
ファイファー(Pfeiffer)症候群(指定難病183)(小児慢性特定疾病 27)
アントレー・ビクスラー(Antley-Bixler)症候群(指定難病184)(小児慢性特定疾病 8)

頭蓋・顔面骨縫合早期癒合を来す疾患群であり、頭蓋・顔面の異常、頸部・気管の異常及び四肢の異常を認め、疾患ごとに症状が異なるが、視覚聴覚障害の発生機序はほぼ同じである。

【眼】 眼球突出、斜視、下眼瞼内反症、うっ血乳頭、視神経萎縮(先天性)
【耳】 外耳道狭窄・閉鎖、伝音難聴

【診断基準】は、以下を参照

クルーゾン症候群http://www.nanbyou.or.jp/entry/4673
アペール症候群http://www.nanbyou.or.jp/entry/4679
ファイファー症候群http://www.nanbyou.or.jp/entry/4676
アントレー・ビクスラー症候群http://www.nanbyou.or.jp/entry/4670

それぞれの症候群において確定診断例を対象とする。本症は症候群ごとに、さらに同じ症候群でも症状が異なることから、以下により総合的に診断する。確定診断は遺伝学的検査による。

クルーゾン症候群
(1)症状
1.頭蓋頭蓋縫合早期癒合、水頭症、小脳扁桃下垂
2.顔面眼球突出、斜視、上顎骨低形成、上気道閉塞、後鼻孔狭窄/閉塞、外耳道狭窄/閉鎖、伝音性難聴
3.頸部脊髄空洞症、環軸椎脱臼、頚椎癒合、喉頭気管奇形
4.四肢臨床上の表現型において指趾の異常はないことが原則であるが、橈尺骨癒合や表現型の異なる亜型が存在する。
5.精神運動発達遅滞を認めることがある。
(2)検査所見
1.画像検査所見単純頭部X線写真、CT、MRI、脳血流シンチグラフィー、頭部X線規格写真、オルソパントモ写真などで頭蓋内圧亢進、頭蓋縫合早期癒合、顔面骨の低形成を認める。
2.眼科的所見視力、眼球突出度、両眼視機能、眼底検査などで頭蓋内圧亢進、斜視、眼球突出を認める。
3.耳鼻科的所見単純頭部X線写真、CT、ポリソムノグラフィーなどで上気道閉塞を認める。聴力検査、CT、鼓膜所見などで滲出性中耳炎、外耳道狭窄/閉鎖を認める。
(3)遺伝学的検査

ほとんどがFGFR2のIgIIIa/cドメイン(エクソン7-9)に集中している。また、皮膚に黒色表皮症(acanthosis nigricans)を伴うクルーゾン症候群では、FGFR3遺伝子のtransmembrane domainに異常(FGFR3Ala391Glu)が認められる。

アペール症候群
(1)症状
1.頭蓋頭蓋縫合早期癒合、水頭症、小脳扁桃下垂
2.顔面眼球突出、斜視、高口蓋、口蓋裂、上顎骨低形成、上気道閉塞、後鼻孔狭窄/閉塞、外耳道狭窄/閉鎖、伝音性難聴
3.頸部脊髄空洞症、環軸椎脱臼、頚椎癒合、喉頭気管奇形
4.四肢 骨性合指/趾症、肩関節形成不全、肘関節形成不全
5.心・血管ファロー四徴症など先天性心疾患
6.精神運動発達遅滞を認めることがある。
(2)検査所見

クルーゾン症候群に準ずる。

(3)遺伝学的検査

約5つのFGFR2変異が報告されているが、IgIIドメインの変異Ser252Trpが2/3、IgIIIドメインの変異Pro253Argが約1/3に認められ、他の変異はまれである。

ファイファー症候群
(1)症状
1.頭蓋頭蓋縫合早期癒合、水頭症、小脳扁桃下垂、クローバーリーフ頭蓋
2.顔面眼球突出、斜視、幅広く平坦な鼻根、小さな鼻、耳介低位、上顎骨低形成、上気道閉塞、後鼻孔狭窄/閉塞、外耳道狭窄/閉鎖、伝音性難聴
3.頸部脊髄空洞症、環軸椎脱臼、頚椎癒合、喉頭気管奇形
4.四肢幅広で短く外反した母指/趾、皮膚性合指、肘関節拘縮
5.重症例では精神運動発達遅滞を認める。
(2)検査所見

クルーゾン症候群に準ずる。

(3)遺伝学的検査

FGFR1の変異Pro252ArgFGFR2ではIgIIIドメインに集中している。FGFR2遺伝子内の変異の一部はクルーゾン症候群と同一の異常である。

アントレー・ビクスラー症候群
(1)症状
1.頭蓋頭蓋縫合早期癒合を認める。
2.顔面西洋梨様と表現される鼻、耳介奇形、外耳道閉鎖、上顎低形成、後鼻孔狭窄を認める。
3.四肢クモ状指、上腕骨・橈骨の骨性癒合、多発関節拘縮
4.腎・泌尿器生殖器先天性副腎皮質過形成を認めることがある。女児では外性器の男性化、男児では外性器の発育不全を来たす。
5.精神運動発達遅滞を認めることがある。
(2)検査所見
1.画像検査所見クルーゾン症候群に準ずる。
2.血液検査所見17α水酸化酵素/17,20-lyase及び21水酸化酵素の複合的機能低下を認める。
3.尿検査所見尿中ステロイドホルモンの異常を認める。
(3)遺伝学的検査

POR(Cytochrome P450 oxidoreductase)異常あるいは稀にFGFR2異常を認める。

OPA1遺伝子変異を有する優性遺伝性視神経萎縮

OPA1遺伝子はミトコンドリア内膜に存在する蛋白であり、OPA1遺伝子変異により視神経萎縮等がみられる。その中に聴覚障害が認められる場合がある。

【眼】 視神経萎縮(先天性)、視力障害(0.2程度)、色覚異常(青黄異常)
【耳】 Auditory neuropathy spectrum disorder
【診断基準】OPA1遺伝子変異と家族歴で診断

主に進行性に視覚聴覚二重障害を呈する可能性のある疾患

アッシャー(Usher)症候群(指定難病303)

疾患の概要:難聴に目の病気(網膜色素変性症)を伴う疾患で、タイプ1~3に分類され、原因遺伝子や症状の進行が異なるが、いずれも進行性である。

【眼】 網膜色素変性症(進行性)
【耳】 感音難聴(先天性あるいは後天性、進行性)

【診断基準】難病情報センター http://www.nanbyou.or.jp/entry/4624
(アッシャー(Usher)症候群に関する調査研究班による)

1.自覚症状
A.夜盲、視野狭窄、視力低下などの視覚障害(網膜色素変性症)。
B.両側性感音難聴、めまいなどの耳症状(蝸牛・前庭症状)。
2.臨床検査所見
A.網膜色素変性症に関する所見(以下のうち、網膜電位を含めて2つ以上を満たす。)

(1)眼底所見:網膜血管狭小、粗造胡麻塩状網膜、骨小体様色素沈着、多発する白点など

(2)網膜電位の異常(振幅低下、又は消失)

(3)蛍光眼底造影所見で網膜色素上皮萎縮による過蛍光又は低蛍光

(4)光干渉断層像で中心窩におけるIS/OSの異常(不連続又は消失)

B.感音難聴に関する所見(以下の全てを満たす)

(1)純音聴力閾値検査(気導・骨導)の閾値上昇

(2)中枢性疾患、Auditory Neuropathy、伝音難聴が否定できる

3.疾患のタイプ分類
タイプ1:先天性の高度~重度難聴を呈する。両側前庭機能障害を伴う例が多く、視覚症状は10歳前後より生じる。
タイプ2:先天性の高音障害型の難聴を呈する。視覚症状は思春期以降に生じる。前庭機能は正常である例が多い。
タイプ3:難聴、視覚症状とも思春期以降に生じ、難聴は徐々に進行。
4.遺伝学的検査

原因遺伝子としては現在までに10遺伝子が同定されている。タイプ1はMYO7A、USH1C、CDH23、PCDH15、USH1G、CIB2であり、タイプ2はUSH2A、GPR98、DFNB31、タイプ3はCLRN1である。

〔診断のカテゴリー〕

「1-Aと2-A」及び「1-Bと2-B」の双方を満たす場合、もしくは「1-Aと2-A」又は「1-Bと2-B」のいずれかを満たし、4.遺伝学的検査により特異的な遺伝子変異を認める場合にアッシャー症候群と診断する。

ミトコンドリア病(指定難病21)(小児慢性特定疾病86, 87, 88, 89, 90, 91, 92, 93, 94)

ミトコンドリア病は、核DNA上の遺伝子の変異またはミトコンドリアDNA(mtDNA)の異常により、ミトコンドリア機能が障害され、臨床症状が出現する病態を総称している。ミトコンドリア病における機能異常の主体はエネルギー産生低下と考えられており、あらゆる臓器に様々な症状が出現する可能性がある。

【眼】 視神経萎縮、眼瞼下垂、外眼筋麻痺、網膜色素変性症、白内障(多くは進行性)
【耳】 感音難聴(多くは進行性)

【診断基準】難病情報センター http://www.nanbyou.or.jp/entry/335

Definite、Probableを対象とする。

1.主要項目
  • (1)主症状
    ① 進行性の筋力低下、横紋筋融解症又は外眼筋麻痺を認める。
    ② 知的退行、記銘力障害、痙攣、精神症状、一過性麻痺、半盲、皮質盲、ミオクローヌス、ジストニア、小脳失調などの中枢神経症状のうち、1つ以上を認める。または、手足のしびれなどの末梢神経障害を認める。
    ③ 心伝導障害、心筋症などの心症状、肺高血圧症などの呼吸器症状、糸球体硬化症、腎尿細管機能異常などの腎症状、強度の貧血などの血液症状又は中等度以上の肝機能低下、凝固能低下などの肝症状を認める。
    ④ 低身長、甲状腺機能低下症などの内分泌症状や糖尿病を認める。
    ⑤ 強度視力低下、網膜色素変性などの眼症状、感音性難聴などの耳症状を認める。
  • (2)検査・画像所見
    ① 安静臥床時の血清又は髄液の乳酸値が繰り返して高い、又はMRスペクトロスコピーで病変部に明らかな乳酸ピークを認める。
    ② 脳CT/MRIにて、大脳基底核、脳幹に両側対称性の病変等を認める。
    ③ 眼底検査にて、急性期においては蛍光漏出を伴わない視神経乳頭の発赤・腫脹、視神経乳頭近傍毛細血管蛇行、網膜神経線維腫大、視神経乳頭近傍の出血のうち1つ以上の所見を認めるか、慢性期(視力低下の発症から通常6カ月以降)における視神経萎縮所見を両眼に認める。
    ④ 骨格筋生検や培養細胞又は症状のある臓器の細胞や組織でミトコンドリアの病理異常を認める。必要に応じて、以下の検査を行い、
    ⑤ ミトコンドリア関連酵素の活性低下又はコエンザイムQ10などの中間代謝物の欠乏を認める。または、ミトコンドリアDNAの発現異常を認める。
    ⑥ ミトコンドリアDNAの質的、量的異常又はミトコンドリア関連分子をコードする核遺伝子変異を認める。
2.参考事項
  • (ア)病理検査

    特異度が高い。骨格筋病理における、酵素活性低下又は赤色ぼろ線維(ゴモリ・トリクローム変法染色におけるragged-red fiber:RRF)、高SDH活性血管(コハク酸脱水素酵素におけるstrongly SDH-reactive blood vessel:SSV)、シトクロームc酸化酵素欠損線維、電子顕微鏡によるミトコンドリア病理学的異常を認める。または、骨格筋以外でも症状のある臓器や細胞・組織のミトコンドリア病理異常を認める。核の遺伝子変異の場合は、培養細胞などでミトファジーの変化や融合・分裂の異常を確認する。

  • (イ)酵素活性・生化学検査

    特異度が高い。罹患組織や培養細胞を用いた酵素活性測定で、電子伝達系、ピルビン酸代謝関連及びTCAサイクル関連酵素、脂質代謝系関連酵素などの活性低下(組織:正常の20%以下、培養細胞:正常の30%以下)を認める。または、ミトコンドリアDNAの転写、翻訳の低下を認める。

  • (ウ)DNA検査

    特異度が高い。病因的と報告されている、又は証明されたミトコンドリアDNAの質的異常である欠失・重複、点変異や量的異常である欠乏状態(正常の20%以下)があること、又は、ミトコンドリア関連分子をコードする核遺伝子の病的変異を認める。

  • (エ)心症状の参考所見

    心電図で、房室ブロック、脚ブロック、WPW症候群、心房細動、ST-T異常、心房・心室負荷、左室側高電位、異常Q波、左軸偏位を認める。心エコー図で、拡張型心筋症様を呈する場合は左心室径拡大と駆出率低下を認める。肥大型心筋症様を呈する場合は左室肥大を認める。拘束型心筋症様を呈する場合は、心房の拡大と心室拡張障害を認める。心筋シンチグラムで、MIBI早期像での取り込み低下と洗い出しの亢進、BMIPPの取り込み亢進を認める。

  • (オ)腎症状の参考所見

    蛋白尿(試験紙法で1+(30mg/dL)以上)、血尿(尿沈査で赤血球5/HPF以上)、汎アミノ酸尿(正常基準値以上)を認める。血中尿素窒素の上昇(20mg/dL以上)、クレアチニン値の上昇(2mg/dL以上)を認める。

  • (カ)血液症状の参考所見

    強度の貧血(Hb6g/dL以下)もしくは汎血球減少症(Hb10g/dL、白血球4000/µL以下、血小板10万/µL以下)を認める。

  • (キ)肝症状の参考所見

    中等度以上の肝機能障害(AST、ALTが200U/L以上)、血中アンモニア値上昇(正常基準値以上)を認める。

  • (ク)糖尿病の参考所見

    血糖値(空腹時≧126mg/dL、OGTT2時間≧200mg/dL、随時≧200mg/dLのいずれか)とHbA1c(国際標準値)≧6.5%(hA1c(JDS値)≧6.1%)

  • (ケ)乳酸値

    安静臥床時の血中乳酸値もしくは髄液乳酸値が繰り返して、2mmol/L(18mg/dL)以上であること、又はMRスペクトロスコピーで病変部に明らかな乳酸ピークがある。

3.ミトコンドリア病の診断のカテゴリー
Definite(1)①~⑤のうち1項目あり、かつ(2)①~⑥のうち、2項目を満たすもの(全体で計3項目必要)
Probable(1)①~⑤のうち1項目あり、かつ(2)①~⑥のうち、1項目を満たすもの(計2項目必要)
神経線維腫症I型(NF1)(指定難病34)(小児慢性特定疾病 14)

カフェ・オ・レ斑と神経線維腫を主徴とし、その他骨、眼、神経系、(副腎、消化管)などに多彩な症候を呈する母斑症であり、常染色体性優性の遺伝性疾患である。

【眼】 虹彩小結節(Lisch nodule 80%)、視神経膠腫、脈絡膜腫瘍、眼窩腫瘍(後天性)、眼窩骨の変形・欠損
【耳】 感音難聴(5%)

【診断基準】難病情報センター http://www.nanbyou.or.jp/entry/3992

1.主な症候
  • (1)カフェ・オ・レ斑

    扁平で盛り上がりのない斑であり、色は淡いミルクコーヒー色から濃い褐色に至るまで様々で、色素斑内に色の濃淡はみられない。形は長円形のものが多く、丸みを帯びた滑らかな輪郭を呈している。

  • (2)神経線維腫

    皮膚の神経線維腫は思春期頃より全身に多発する。この他末梢神経内の神経線維腫(nodular plexiform neurofibroma)、び漫性の神経線維腫(diffuse plexiform neurofibroma)がみられることもある。

2.その他の症候
① 皮膚病変−雀卵斑様色素斑、大型の褐色斑、貧血母斑、若年性黄色肉芽腫、有毛性褐青色斑など。
② 骨病変−頭蓋骨・顔面骨の骨欠損、四肢骨の変形・骨折、脊柱・胸郭の変形など。
③ 眼病変−虹彩小結節(Lisch nodule)、視神経膠腫など。
④ 脳脊髄腫瘍−神経膠腫、脳神経及び脊髄神経の神経線維腫など。
⑤ Unidentified bright object(UBO)
⑥ 消化管間質腫瘍
⑦ 褐色細胞腫
⑧ 悪性末梢神経鞘腫瘍
⑨ 学習障害・注意欠陥多動症
3.診断のカテゴリー

カフェ・オ・レ斑と神経線維腫がみられれば診断は確実である。小児例(pretumorous stage)ではカフェ・オ・レ斑が6個以上あれば本症が疑われ、家族歴その他の症候を参考にして診断する。ただし、両親ともに正常のことも多い。成人例ではカフェ・オ・レ斑が分かりにくいことも多いので、神経線維腫を主体に診断する。

神経線維腫症II型(NF2)(指定難病34)

両側性に発生する聴神経鞘腫(前庭神経鞘腫)を主徴とし、その他の神経系腫瘍(脳及び脊髄神経鞘腫、髄膜腫、脊髄上衣腫)や皮膚病変(皮下や皮内の末梢神経鞘腫、色素斑)、眼病変(若年性白内障)を呈する常染色体優性の遺伝性疾患である。

【眼】 若年性白内障(30%)、網膜前膜、網膜過誤腫(後天性)
【耳】 両側聴神経鞘腫による難聴(後天性、後迷路性難聴)

【診断基準】http://www.nanbyou.or.jp/entry/3992

1.診断のカテゴリー

MRI又はCTで両側聴神経腫瘍(前庭神経鞘腫)が見つかれば神経線維腫症II型と診断する。また、親・子ども・兄弟姉妹のいずれかが神経線維腫症II型のときには、本人に①片側性の聴神経腫瘍(前庭神経鞘腫)、又は②神経鞘腫・髄膜腫・神経膠腫・若年性白内障のうちいずれか2種類が存在すれば診断が確定する。

2.検査所見

造影MRI、聴力検査、眼科的検査が必要で、特に造影MRIと聴力検査は毎年1~2回定期的に行う必要がある。

頭部造影MRIでは、前庭神経鞘腫・三叉神経鞘腫を始めとする各脳神経鞘腫、髄膜腫、脳室内髄膜腫や眼窩内腫瘍もみられる。また、脊髄造影MRIでは、多発する脊髄神経鞘腫と髄内腫瘍(多くは上衣腫)がみられる。これらの腫瘍は、成長せずに長期間同じ大きさでとどまることもあるが、増大することもあり、成長の予測は困難である。

聴力検査としては、純音聴力検査、語音聴力検査、聴性脳幹反応検査を行う。聴力レベルと前庭神経鞘腫の大きさは必ずしも相関せず、聴力レベルが長期間不変のことや急に悪化することもある。眼科的には白内障検査と視力検査を行う。若年性白内障(posterior subcapsular lenticular cataract)は外国では80%と高率に報告されている。

コケイン(Cockayne)症候群(指定難病192)(小児慢性特定疾病 57)

紫外線性DNA損傷の修復システム、特にヌクレオチド除去修復における転写共益修復(転写領域のDNA損傷の優先的な修復)ができないことにより発症する常染色体劣性遺伝性の早老症。症状は乳児期に出現し年齢とともに進行する。

【眼】 白内障、視神経萎縮、眼振、外斜視、帯状角膜変性(先天性)、網膜色素変性症(進行性)
【耳】 感音難聴(遅発性進行性)

【診断基準】http://www.nanbyou.or.jp/entry/4436

コケイン症候群の診断基準
①CSの各種症状

主徴候
  • (1)著明な成長障害

    ・2歳で身長、体重、頭囲が5パーセンタイル以下。

    ・2歳以降はさらにパーセンタイル値が減少する。I型、XP合併型では生後1歳前後から、II型では出生時から確認できるが、III型では成人期以降に出現あるいはみられないこともある。

  • (2)精神運動発達遅滞

    ・言葉や歩行の発達が極めて遅いなどで気づかれる。

  • (3)早老様の特徴的な顔貌*1

    ・2歳前後で傾向が始まる、III型ではみられない場合あり。

  • (4)日光過敏症状

    ・臨床像はサンバーン様の紅斑、浮腫、水疱形成。
    ・既往歴含む、思春期以降は軽減傾向あり。

副徴候*2(乳児期には稀で幼児期以降に始まることが多い。)

(5)大脳基底核石灰化、(6)感音性難聴、(7)網膜色素変性症

その他の徴候(年齢とともに出現、進行するが、CSに対する特異性は低い。)

(8)白内障(II型では生下時から)、(9)足関節拘縮(II型では生下時から)、
(10)視神経萎縮(II型では生下時から)、(11)脊椎後弯、(12)齲歯、
(13)手足の冷感、(14)性腺機能低下、(15)睡眠障害、(16)肝機能障害、
(17)耐糖能異常

予後に影響する合併症

(18)腎機能障害、(19)呼吸器感染、(20)外傷、(21)心血管障害

〔診断のカテゴリー〕

前述の症状の中で(1)~(4)のうち2項目以上の主徴候があればCSを鑑別疾患として検討する。

A.遺伝子検査でCS関連遺伝子に病的変異*3が同定される:CSと確定診断(Definite)
B.遺伝子検査でCS関連遺伝子の病的変異*3が未確定あるいは遺伝子解析未実施の場合

a.症状(1)~(4)のうち2項目以上あり、DNA修復試験*4での異常所見(修復能の低下があり、その低下は既知のCS関連遺伝子*3導入で相補あり)を認めればCSと確定診断する(Definite)。

b.主徴候(1)~(4)を全てみたし、DNA修復試験での異常所見(修復能の低下があり、その低下は既知のCS関連遺伝子導入で相補せず、あるいは相補性試験未実施)を認めればCSと確定診断する(Definite)。

c.DNA修復試験未実施の場合
以下の1)に加え、2)又は3)があればDNA修復試験が未実施であってもCSと確定診断できる(Definite)。

1) 主徴候(1)~(4)全て、副徴候(5)~(7)のうち2項目以上。

2) その他の臨床所見、血液・画像など各種データで他疾患(色素性乾皮症、ポルフィリン症など)が否定される。

3) 同胞が同様の症状からCSと確定診断されている

  • *1 くぼんだ眼と頬、鳥の嘴様の鼻など一見老人様に見える顔貌
  • *2 副徴候に関して、(5)~(6)は典型例では2歳前後までには確認できるが、(7)は年長になって出現することが多い。
  • *3 CS関連遺伝子とはCSA(5q12.1)、CSB(10q11.23)、XPB(2q14.3)、XPD(19q13.32)、XPG(13q33.1)
  • *4 DNA修復試験:紫外線感受性試験、宿主細胞回復を指標にしたDNA修復能測定、相補性試験、紫外線照射後RNA合成試験など
スタージ・ウェーバー症候群(指定難病157)(小児慢性特定疾病 27)

疾患の概要:脳内の軟膜血管腫と、顔面のポートワイン斑、緑内障を有する神経皮膚症候群の1つであり、難治性てんかん、精神発達遅滞、運動麻痺が生じる。50,000~100,000人に1人出生。難聴の報告論文は1報のみで、内耳神経の圧迫による内耳循環障害から内耳障害が発生した可能性が提唱されているが、軟膜血管腫下の脳皮質が虚血に陥るため運動麻痺などの局所症状を呈することもあるといわれ、虚血による影響も考えられる。本疾患における難聴の発症機序、頻度は不明である。

【眼】 血管腫(結膜、虹彩、脈絡膜)、漿液性網膜剥離、緑内障(進行性で時に失明を来す)
【耳】 通常は聴覚障害なし(報告例は一側性難聴)

【診断基準】難病情報センター http://www.nanbyou.or.jp/entry/4308

確定診断例を対象とする。

〔診断のカテゴリー〕
(1)確定診断
出生時よりポートワイン斑(毛細血管奇形)を認め、2歳までに緑内障、画像検査で以下の所見を認める場合に確定診断される。
全てがそろわない場合にはポートワイン斑(毛細血管奇形)、緑内障、画像検査で以下の所見のいずれかを満たし、遺伝子変異を有する場合に確定診断される。

A 症状

1.てんかん
2.精神運動発達遅滞
3.片頭痛
4.ポートワイン斑(毛細血管奇形)
5.緑内障

B 検査所見

1.画像検査所見
MRI:ガドリニウム増強において明瞭となる軟膜血管腫、罹患部位の脳萎縮、患側脈絡叢の腫大、白質内横断静脈の拡張
CT:脳内石灰化
SPECT:軟膜血管腫部位の低血流域
FDG-PET:軟膜血管腫部位の糖低代謝

2.生理学的所見
脳波:患側の低電位徐波、発作時の律動性棘波又は鋭波

C 鑑別診断

その他の神経皮膚症候群

D 遺伝学的検査

GNAQ遺伝子の変異

ダンディー・ウォーカー症候群(小児慢性特定疾病 70)

疾患の概要:第4脳室と連続した後頭蓋窩正中の嚢胞と小脳虫部の完全あるいは部分欠損を認める先天的病変で、水頭症による症状と全身合併症による症状を呈する。頭痛、嘔吐などの頭蓋内圧亢進症状、頭囲拡大が多く、半数に精神運動発達の遅れを認める。失調や眼振などの小脳症状は少なく、水頭症の合併は約90%である。25,000~35,000人に1人出生。水頭症に伴う眼症状がみられる。難聴を合併する報告はあるが、現時点では発症機序には不明な点が多くその頻度も不明である。

【眼】 落陽現象、眼瞼下垂、外転神経麻痺、視神経乳頭萎縮、白内障、網膜形成不全、脈絡膜コロボーマ
【耳】 稀に感音難聴(詳細は不明)

【診断基準】小児慢性特定疾病情報センターより
https://www.shouman.jp/disease/instructions/11_03_009/

A 症状

1.無症状から小脳・脳幹の障害による神経症状を呈する例まで、症状は様々である。大脳の形成異常を伴えば運動発達遅滞など大脳の症状を呈することがある。

2.水頭症は伴いやすいが、新生児などには水頭症を呈さないことがある。

B 検査所見

診断には画像診断ではMRI(矢状断像と水平断像)が望ましい。

1.ダンディー・ウォーカー症候群
次の①~③の形態的な特徴を持つ。新生児期に水頭症を呈さない例もあるため、水頭症の所見は必須ではない。また、第4脳室から大槽への髄液経路の閉鎖の所見も必須ではない。
① 後頭蓋窩の拡大(静脈洞交会や小脳テントの挙上)
② 小脳虫部の様々な程度の低形成
③ 第4脳室の嚢胞状の拡大

2.Dandy-Walker variant(正式な日本語病名はない)
ダンディー・ウォーカー症候群の画像検査所見の中で、②、③は呈するがその程度は軽く、①は伴わないが、水頭症の所見を伴う例がある。

3.Blake's pouch cyst(正式な日本語病名なし)
胎生期にBlake's pouch(ブレイクス・ポーチ)がくも膜下腔に開放されず、嚢胞状に拡大するために発生し、水頭症を呈する場合がある。Blake's pouchは胎生期に第4脳室の脈絡叢よりも尾側のarea membranacea inferiorから発生するため、造影検査で増強効果を受ける脈絡叢は小脳虫部の底部に認める。この点で、大槽部くも膜嚢胞や巨大大槽と鑑別できる。

アクセンフェルト・リーガー症候群

疾患の概要:前眼部の異常(虹彩前癒着に虹彩萎縮,瞳孔偏位,偽多瞳孔などの虹彩異常)がみられ、約半数は緑内障を発症し視力障害、失明に至る。特徴的な顔貌を呈し、歯牙異常を伴うことが多い。その他心疾患や尿道下裂などを認めることがある。Type1~3に分類され、それぞれ原因遺伝子が報告されている。20万人に1人出生。

【眼】 虹彩の異常、緑内障(乳児期に発症することもあるが、思春期に発症することもある)
【耳】 感音難聴(詳細は不明)
Type1:PITX2遺伝子変異による優性遺伝 難聴の報告は渉猟できず
Type2:原因遺伝子は不明(13番染色体上の遺伝子)難聴の報告あり
Type3:FOXC1遺伝子変異による優性遺伝 感音難聴の合併の報告が多い

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