成人への移行における課題と眼科的対応
二重障害児はさまざまな学校・施設に在籍していますが、いずれであっても成人するまでに身辺自立、職業的自立といった将来的な見通しをもつことが目標となります。
また、成長期が終わり視覚障害や聴覚障害の病状がほぼ固定したようであっても、医学的管理を継続していくことは重要です。
ここでは、(1)医療、(2)教育(生活訓練や職業訓練などを含む)、(3)福祉制度の活用について述べます。
- (1)医療(眼科)
視力の発達は8~9歳でほぼ完了します。つまり小学校低~中学年までは、視力の発達を促し安定させることが眼科的治療の目的となりますが、それ以降の年齢になると、視機能(視力・視野)を維持すること、または低下していく視機能に対して生活の質を維持するためのケアを続けていくことが中心となり、これは成人以降も続きます。具体的には、病状によっては手術を行ったり、補装具の変更や追加を検討します。障害の程度、コミュニケーション手段等はひとりひとり異なるので、個々の病状やニーズを見極め、それに応じた医療を提供します。
- 1) 眼科への通院
視覚障害の主因となる疾患が治療困難であっても、緑内障、白内障など、加齢とともに合併しやすくなる疾患もあります。これらは進行したり、手術適応となることもありますので、視力の成長期が終わって成人したのちも、定期的な眼科検査と管理を受けることが重要です。また視覚障害の重症度・進行度を定期的に評価し、身体障害者手帳の交付・更新なども検討し、適切な福祉が受けられるようにします。
- 2) 眼鏡
視覚障害者の医学的管理として、疾病そのものの管理のみでなく屈折矯正(眼鏡)も重要です。小児期は体の成長に伴い眼軸が延長する(眼球が大きくなる)ため、屈折度数も変化していきます。通常、1~2年おきに眼鏡の度数の見直しをします。成人すると屈折の変化は小さくなりますが、近視は一般に20代後半まで進行するといわれていますし、白内障を発症すると近視の度数が強くなることもあるため、数年おきに眼鏡の作り替えを検討します。
- 3) 遮光眼鏡
視覚障害児は単眼鏡や拡大鏡、拡大読書器などの補助具を就学前から学童期にかけて使い始めることが多いですが、それ以降になると遮光眼鏡を使うようになる児もでてきます。
図1は視覚特別支援学校高等部の生徒に対するアンケートの結果ですが、視力障害や視野障害のほかに日常的に困難を感じることとして、羞明(まぶしい)が多いことがわかります1)。二重障害者は必ずしも「まぶしい」ということをはっきり表現できないかもしれませんが、羞明を訴える視覚障害者が多いことを念頭において、成人への移行に際しては遮光眼鏡の装用を検討してもいいでしょう。遮光眼鏡は特定の光波長をカットすることで眩しさを軽減するもので、目に優しい、見やすい環境をつくることができます。ただし遮光レンズにはさまざまな色があり、ひとりひとりによって適切な色は違いますし、室内か屋外かにより、また天候・季節によっても羞明の程度は異なります。可能であれば、複数のトライアルレンズを試すとよいでしょう。
図1. 視力・視野以外で日常的に困難に感じていること(複数回答) - 4) 視覚障害が進行する場合
視覚障害が進行している場合、またはその可能性がある場合は、残存している機能を活用して、補装具の追加や歩行訓練などを行い、生活の質が維持できることをめざします。たとえば白杖は、適切に使用することで安全の確保、歩行に必要な情報の収集、周囲への注意喚起になります。
- 5) 医療費助成制度(Ⅰ章 医療・療育の社会制度も参照)
二重障害の原因となる疾患の中には、小児慢性特定疾病や難病の指定を受けているものがあり、医療費の助成が受けられます。小児慢性特定疾病の対象は18歳までですが、申請により20歳まで延長されることもあります。
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小児慢性特定疾病センター
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難病情報センター
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- 1) 眼科への通院
- (2)教育
成人するまでに、身辺自立、職業的自立といった目標を立て、生活訓練、職業訓練等を行います。身辺自立とは他者の支援なしに日常生活動作が可能になることです。自立した社会生活を営むことができるようにするには、職業的自立も必要です。
- 1) 身辺自立
①食事:助けを借りずに食事できる、食欲を表現できる
②排泄:助けを借りずにトイレで排尿・排便できる
③衣服:衣服の着脱ができる
④衛生:身体を自分で清潔にできる、散髪を嫌がらない
⑤睡眠:起床・就寝時刻が一定している
⑥健康:診察や注射を嫌がらずに受ける、体調を表現できる
⑦安全:一人で移動できる、階段の昇降ができる
健康維持と安全面での対策は、特に課題となりやすいです。 - 2) 職業的自立
10代後半になってくると、将来の進路を見据えて、社会性の育成、作業能力の向上が重要となってきます。
視覚障害児は特に手の操作を必要とする場面や移動において困難さが目立ちやすく、それが職業的自立を困難にしています。個別に移行支援計画をたてて進路指導の充実を図りますが、高等部卒業後の進路については就学・就労とも選択肢が限られることも多く、その開拓が課題です。
<特別支援学校高等部卒業者の進路>・大学・短期大学の本科や通信教育部
・特別支援学校高等部専攻科、高等学校専攻科
・職業能力開発校、障害者職業能力開発校
・社会福祉施設(入所・通所)
児童福祉施設、障害者支援施設、更生施設、授産施設、医療機関
・就労継続支援型施設
- 1) 身辺自立
- (3)福祉制度の活用
- 1) 身体障害者手帳(Ⅰ章 福祉・生活支援も参照)
重複障害はどれかひとつの障害で身障者手帳を取得し、他の障害が加わっても身体障害者手帳の更新を受けないままになる人もいます。例えば視覚障害者用の補助具や日常生活用品の支給については視覚障害の認定が条件ですから、確認しましょう。
- 2) 障害基礎年金
障害の程度によっては成人後に障害基礎年金を受けることができます。20歳を過ぎたら国民年金の窓口や年金事務所で相談しましょう。
https://www.nenkin.go.jp/faq/jukyu/kokunen-kyufu/shougai-kiso/index.html
- 1) 身体障害者手帳(Ⅰ章 福祉・生活支援も参照)
参考文献
- 1) 平成22年度文部科学省「民間組織・支援技術を活用した特別支援教育研究事業」
高等学校段階における弱視生徒用拡大教科書の在り方に関する調査
研究成果報告書. 第6章 盲学校に在籍している弱視生徒に対するアンケート方式による拡大補助具等に関する実態調査(2010年度実施)
http://web.econ.keio.ac.jp/staff/nakanoy/research/largeprint/01_high_school/04_result/2010/index.html、参照(2018-12-17)