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先天性および若年性の視覚聴覚二重障害の原因となる難病の診療マニュアル(第1版)

小児人工内耳

  • (1)視聴覚二重障害児に対する人工内耳

    視聴覚二重障害児の場合、視覚および聴覚のそれぞれの障害程度により異なるが、聴覚のみの障害児に比較し、視覚から入力される刺激情報が制限されるため、人工内耳による聴覚提供は特に有効な手段である。ひとつの単語を理解する際も、視覚情報が制限される場合、単語に関連する音の情報は極めて重要である。たとえば、「車」という単語を理解するにあたり、車のおもちゃに触れ、車に乗って、車の音を聴くということにより理解が深まる。言語獲得は小児の思考・記憶・認知など高次の活動が形成をもたらし、視聴覚二重障害児においても高度もしくは重度の聴覚障害を認め、補聴器装用効果に限界がある場合は、人工内耳は積極的な選択肢となりうる。

  • (2)人工内耳の適応と時期

    人工内耳が適応となる基準は、基本的には現行の小児人工内耳適応基準(2014)に準じることになる(表1)。すなわち医学的条件として、適応年齢は原則として1歳以上で体重8kg以上、裸耳での平均聴力レベルが90dB以上、もしくは補聴器装用効果が一定レベル(平均聴力レベル45dBに達しない、または最高語音明瞭度が50%未満)まで得られない場合である。

    表1.視聴覚二重障害における人工内耳適用条件

    視聴覚二重障害児の人工内耳では、手術前から術後の療育に至るまで、家族および医療施設内外の専門職種(耳鼻咽喉科、眼科、小児科)との一貫した協力体制がとれていることを前提条件とする。

    医療機関における必要事項

    A)乳幼児の聴覚障害について熟知し、その聴力検査、補聴器適合について熟練していること。

    B)地域における療育の状況、特にコミュニケーション指導法などについて把握していること。

    C)言語発達全般および難聴との鑑別に必要な他疾患に関する知識を有していること。

    D)乳幼児の視覚障害について熟知し、その視覚検査および支援法について熟練していること。

    療育機関に関する必要事項

    聴覚および視覚を主体として療育を行う機関との連携が確保されていること。

    家族からの支援

    幼児期からの人工内耳の装用には長期にわたる支援が必要であり、継続的な家族の協力が見込まれること。

    適応に関する見解

    IIに示す医学的条件を満たし、人工内耳実施の判断について当事者(家族および本人)、医師、療育担当者の意見が一致していること。


    II.医学的条件
    手術年齢

    A)適応年齢は原則1歳以上(体重8kg以上)とする。上記適応条件を満たした上で、症例によって適切な手術時期を決定する。

    B)言語習得期以後の失聴例では、補聴器の効果が十分でない高度難聴であることが確認された後には、獲得した言語を保持し失わないために早期に人工内耳を検討することが望ましい。

    聴力、補聴効果と療育

    A)各種の聴力検査の上、以下のいずれかに該当する場合。

    1.裸耳での聴力検査で平均聴力レベルが90dB以上。

    2.上記の条件が確認できない場合、6カ月以上の最適な補聴器装用を行った上で、装用下の平均聴力レベルが45dBよりも改善しない場合。

    3.上記の条件が確認できない場合、6カ月以上の最適な補聴器装用を行った上で、装用下の最高語音明瞭度が50%未満の場合。

    B)音声を用いてさまざまな学習を行う小児に対する補聴の基本は両耳聴であり、両耳聴の実現のために人工内耳の両耳装用が有用な場合にはこれを否定しない。

    例外的適応条件

    A)手術年齢

    1.髄膜炎後の蝸牛骨化の進行が想定される場合。

    B)聴力、補聴効果と療育

    1.既知の、高度難聴を来しうる難聴遺伝子変異を有しており、かつABR等の聴性誘発反応および聴性行動反応検査にて音に対する反応が認められない場合。

    2.低音部に残聴があるが1kHz~2kHz以上が聴取不能であるように子音の構音獲得に困難が予想される場合。

    禁忌

    中耳炎などの感染症の活動期
    慎重な適応判断が必要なもの

    A)画像診断で蝸牛に人工内耳が挿入できる部位が確認できない場合。

    B)反復性の急性中耳炎が存在する場合。

    C)制御困難な髄液の噴出が見込まれる場合など、高度な内耳奇形を伴う場合。

    D)重複障害および中枢性聴覚障害では慎重な判断が求められ、人工内耳による聴覚補償が有効であるとする予測がなければならない。

    一方で、実施する医療機関については、乳幼児の視覚障害についても熟知し、耳鼻咽喉科、眼科、小児科などの関連各科の連携がとれている施設において行うべきである。主体としての療育機関についても同様で、聴覚のみならず、視覚についても療育を行う機関との連携が確保されるべきである。また、当然ながら継続的な家族からの支援は欠かせない。

    人工内耳植込術を行うタイミングであるが、視聴覚二重障害児における人工内耳装用後の言語発達は、手術時年齢よりも、それぞれの患児における発達程度に関連するとされており1)、決して早ければよいというものではない。従って、小児科、眼科とも連携して、患児の発達程度を評価しつつ、手術時期を総合的に判断するのがよい。

    両耳装用は雑音下聴取や音源定位など視覚障害を伴う場合でも利点があるが、原疾患や発達段階などを考慮しながら、症例ごとにその適応を検討する。

    聴力レベルによっては、いわゆる残存聴力活用型人工内耳(Electro-acoustic stimulation: EAS)も適応となる場合があるが、Usher症候群(Ⅲ型)や先天性サイトメガロウイルス感染症をはじめ、進行性難聴の形態をとる原疾患もあるため、短期間の聴力経過のみで安易にEASを選択しない方がよい。

  • (3)術前説明

    手術手技や合併症等については一般的な人工内耳手術に関するインフォームド・コンセントと大きく変わるものではないが、聴覚障害のみを認める先天性難聴児に行う場合と、異なる点もあるので留意したい。視聴覚二重障害の人工内耳装用児における受容性言語力を評価した検討(1)では、32%の児が音響検出可能となり、21%が単語を理解しており、22%が機能的操作を伴うような指示を理解できている。その一方で、4%の患児は人工内耳装用後も音に対する反応が得られていない。人工内耳装用効果は、視聴覚二重障害の原因となる疾患によってかなり差があり、上述のとおり手術時年齢よりもむしろ患児の発達程度に左右されるため、術後の人工内耳装用効果については、保護者や関係者に過度な期待をもたせるべきではなく、慎重なインフォームド・コンセントが求められる。

  • (4)手術の実際

    中耳・内耳に形態異常がない場合は、手術手技は一般的な人工内耳手術と同様であるが、視聴覚二重障害の原因となる疾患の中には、形態異常を伴うものもあるため注意が必要である。代表的な視聴覚二重障害の原疾患と聴器形態異常(表2)であるが、CHARGE症候群では蝸牛低形成、耳小骨形態異常、半規管無不全、正円窓/卵円窓閉鎖、前庭水管拡大、内耳道低形成、顔面神経走行異常の合併があり、その他に蝸牛神経欠損、乳突導出静脈の走行異常、S字状静脈洞の局在異常も伴うことがある。Usher症候群(Ⅲ型)では、蝸牛・前庭系膜迷路両者の完全または部分欠損(Bing-Siebenmann奇形)、Down症候群では前庭水管拡大、外耳道狭窄、耳介形成異常、Dandy-Walker症候群では耳介低位、Goldenhar症候群では小耳症・外耳形態異常、中耳形態異常をそれぞれ合併することがある。また、Down症候群やStichler症候群では口蓋裂や小顎を伴うことがあるため、中耳炎のマネージメントや全身麻酔時に注意が必要である。

    表2. 視聴覚二重障害の主要原疾患における主な聴器関連形態異常
    疾患 合併する主な形態異常
    CHARGE症候群 蝸牛低形成、耳小骨形態異常、半規管無不全、正円窓/卵円窓閉鎖、前庭水管拡大、内耳道低形成、顔面神経走行異常
    Usher症候群(Ⅲ型) 蝸牛・前庭系膜迷路両者の完全または部分欠損(Bing-Siebenmann奇形)
    Down症候群 前庭水管拡大、外耳道狭窄、耳介形態異常、口蓋裂、小顎
    Stichler症候群 口蓋裂、小顎、小舌
    Dandy-Walker症候群 耳介低位
    Goldenhar症候群 小耳症・外耳形態異常、中耳形態異常、顔面神経走行異常
    髄膜炎 蝸牛骨化

    中耳・内耳の形態異常については、既知の異常を念頭に置きつつ術前の画像検査において精査しておくことはもちろんのこと、小児科や麻酔科とも連携し、他臓器合併症の有無や全麻リスクを評価し、安全に手術に臨めるよう配慮したい。

    また、原疾患の治療薬剤についても気をつけたい。特に自己免疫性疾患においては、生物学的製剤が投与されていることが多く、たとえば視聴覚二重障害をきたすCINCA症候群では、抗IL-1β抗体製剤が用いられるため、薬剤の血中濃度が低いタイミングで手術を行うよう調整が必要であり、術後も感染兆候(熱発、白血球数やCRPの上昇など)がマスクされるため、小さな変化を見逃さないようにしないといけない。

  • (5)術後のマッピング、ハビリテーション

    視覚障害をはじめとする重複障害児の場合、音反応の確認に若干苦労することが少なくない。体幹の不安定さがあったり、眼振があることもあり、人工内耳装用時に「笑う」「少し動きを止める」などの反応を見極め、音場をとるといった工夫を要する。家族からの情報も大切である。たとえば、装用した瞬間に笑顔になる、装用時に家族が話しなどをしていると本人が静かにしていて、家族が話し終わると体動をはじめる、など病院以外での様子を医療関係者も共有していくことが、術後のマッピングやハビリテーションを進めるうえで肝要である。

    視聴覚二重障害児に音や言葉を伝える際には、合図(手を軽くタップするなど)をしながら伝えるのもよい。また、声を出しているときには声の長さを表すために、発声時間と同じ時間だけ手の甲をなでるなどの方法で、音がしている時のサインを予め決めておき、それに対する反応を見ていくといった工夫も有用である。運動発達障害を伴う場合は、どういった刺激が伝わりやすいのか、どのような体幹姿勢がいいかなど、療育機関の理学療法士や作業療法士といったリハビリスタッフとも連携をとり、情報を共有していく必要がある。

    視聴覚二重障害児における人工内耳治療は、耳鼻科、小児科、眼科の各科の協調もさることながら、言語聴覚士をはじめとするリハビリ専門スタッフ、そして家族も含めてひとつのチームとして、長期にわたり継続的に患児に関わっていくことが大切であると考える。

参考文献

  • 1) Wiley S, Meinzen-Derr J, Stremel-Thomas K, Schalock M, Bashinski SM, Ruder C. Outcomes for children with deaf-blindness with cochlear implants: a multisite observational study. Otol Neurotol. 2013; 34: 507-15.

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