耳鼻咽喉科治療・リハビリテーション
検査や診療の過程で視覚障害と聴覚障害を伴っているということを告げられたご家族は、何をどのように情報収集していけばよいのか、これから我が子に何をしてあげるのがよいのか、ということに途方にくれていることを念頭においておくべきです。
本稿では、視覚、聴覚どちらも障害がある可能性があるお子様に対してどのようなアドバイスをしてあげられるのか、を中心に述べていきたいと思います。
視覚障害、聴覚障害を重複する場合に特別に考慮すべき点
視力障害は眼科、聴覚障害は耳鼻科、とそれぞれ独立して診療を行っていますが、それ以外に発達の遅れ、全身の合併疾患の有無、などフォローしていかなければならない事柄も多いです。このため全体を見渡すことのできる存在が必要です。
重要なことは子どもの状態をしっかりと把握すること、親へのサポート、環境調整(他科との連携や受診紹介なども含めて)です。言語、コミュニケーションの発達促進のためには聴覚や視覚能力の評価はもちろん必要ですが、その他に子どもの得意な運動および感覚機能の把握が必要です。子どもの好きな感覚を手がかりとしてコミュニケーション手段の獲得に繋げていくためです。
このためには
①聴覚
②触覚
③固有覚
④運動感覚
の4つをフルに評価し、活用していくことが重要です。
身体を触ってあげて、子どもが「もっとやってほしい」と表情を変えたり、声を出すなどのサインを出してくることがあります。これを読み取り、コミュニケーションのきっかけにします。
もし、口の中を刺激することが好きな子どもでは、自分の手や玩具をなめる経験を励行してあげ、探索する意欲を高めてあげましょう。口腔内マッサージをとおして感覚に慣れる練習も行うとよいかもしれません。
こうした評価と併せて、補聴器や人工内耳などを用いて活用できる聴力を把握しながら指導してあげるのがよいでしょう。
どんな音が好きか、検査音には反応しなくても慣れ親しんだ音で反応するものはないか
体のどこを触られることが好きか
体のどの部分を動かしてあげると喜ぶか
強く抱っこされたり、抱っこで揺れる感覚は好きか
親へのサポート
こうした評価や指導方法を御両親と共有するためには、十分な面接の時間が必要です。聴覚・視覚ともに障害があるといずれの刺激への反応も初期には、判定しづらいこともあります。聴力・視覚・その他の面について、子どもの評価を、得意なこと・できることを中心に親に伝え、理解してもらえるよう、長期的に子どもの発達を一緒に支援する必要があると思います。
環境調整
子どもの生活範囲が広がると同時に関わる人も増えると思います。どのようにしたらコミュニケーションがとりやすいのかを、子どもに関わる人や所属先の人に、よく理解してもらう必要があると思います。
医師・セラピストは下記の項目について親と話し合い、サポート用紙を作成し、様々な人に渡せるよう用意するのもよいかもしれません。
サポート用紙作成項目(例)
項目 | 内容 |
子どもの特徴 | どんな性格か |
---|---|
視覚 | どのくらい判別できるか |
聴力 | どのくらいの大きさの音に反応するか |
好きな遊び/好きなこと | 好きなあそびは何か |
トイレ | 配慮点 |
水分補給 | 好きな飲み物/摂取方法 |
好きな食べ物/嫌いな食べ物 | |
コミュニケーション 表出 | 方法 |
コミュニケーション 理解 | 方法 |
以下に発達時期ごとの耳鼻咽喉科治療・リハビリテーションの要点を示します。
新生児・乳児
親を中心に周囲のおとなが子どもの反応を丁寧に読み取り、意味を付けてあげ、コミュニケーションの基礎となる互いの信頼関係を、遊びを通して成立させていきます。補聴器を装用し、大きな音を聞かせ、音に合わせて手や腕を動かしたり、音のリズムに併せて緩急つけたダンスなどを行うことで、体で音を体感させてみます。
補聴器の効果はわかりにくいですが、つけることが重要であることをよく理解してもらいます。体のパーツなどはお互いに触ることで理解させ、口形は手のひらで感じさせます。物は一緒に触ってみることで、その物体の形や振動などを感じさせましょう。
幼児
自分から発信できるコミュニケーション手段が少しずつ確立できるようにコミュニケーション手段(手話、聴覚口話、触手話…等)を選択し、指導する必要があります。視覚を用いて、口形を読み取ったり、手話を読み取ることが困難です。
軽度・中等度難聴では、補聴器の効果が認められるため、早期から補聴器装用により音声を介したコミュニケーション方法を指導するのが良いでしょう。ただし、補聴器をつけてどの程度音が聞こえているのかを把握することが、視力障害があると正確に行うことが難しいです。何回か繰り返し検査することや検査の方法などを教え、家での反応などをご家族と共有しながら補聴器を調整していく必要があります。
聴覚障害が高度の場合は、早期に補聴器を両耳に装用し、聴能訓練を行う必要があります。通常であれば、視覚を活用したジェスチャーや聴力検査などを用いて評価を行いますが、フラッシュ光を用いた条件付けや一つ一つの音の違いに対する眉間のしわなどの表情を観察して評価を行っていくため、判断が難しいです。
視覚も聴覚も不自由な場合、手が一つの場所にとどまったような姿勢をしていることがよくみられます。このため、音が聞こえたら手や腕を動かすことで音を体で感じさせるなどの工夫が必要です。補聴器の効果が乏しければ人工内耳を考慮します。
聴覚障害が重度の場合は、本当に人工内耳が必要なのか、難聴の評価や発達の評価をしっかりと行う必要があります。視覚が弱い分、目からの情報が乏しくなるため、人工内耳により耳からしっかりと情報がはいることは重要です。ただし盲ろう二重障害と人工内耳手術は術後の聴覚リハビリテーションの方法は現在のところ確立しておらず、難しい課題です。
音入れなどの調整については、手話などを用います。視覚や聴覚が不自由な場合、ものの名前も理解できないことも少なくありません。手をとって体の一部などを触らせることで、体の一部の名前や、顔のパーツの理解、口の形などを理解させてみます。二人羽織のように手をとって、顔や体の周りを触れることで伝えたい言葉を教え込むのもよいでしょう。
また、手話の手の形を手のひらに押しつけることで、指文字や手話を覚えさせるようにし、それにより音入れを完成させることもあります。
小児
文字を覚える頃になると、点字などで文字の読み書きを覚えるようになります。視覚障害が軽度・中等度の場合は、点字盤をみながら点字をうつことができますが、視覚障害が高度以上の場合は、点字盤を見ることが難しく、点字タイプライターを使用することもあります。
学校教室などでは、このライターの金属音がかなりうるさく、数人がこれを使用することにより教師の声などがかき消されてしまう恐れがあります。難聴があり、補聴器を装用している場合、騒音下での音声の聞き取りが非常に困難になるため、FM 補聴器やロジャーなどの補聴援助システムを活用することが有効です。これは、トランシーバーの要領でFM周波やブルートゥースを使用するもので、教師の声が教師についているマイクを通して直接補聴器に伝わるようにセットできるものです。
これによって、教室内でのどうしても抑えることのできないタイプライターの音が耳に入ってくるのを最小限にとどめ、教師の声を聞き逃さなくなります。ざわざわした騒音下での会話は聞き取りにくく難しくなります。子どもの環境を整備することが重要ですので、学校の先生とよく話し合う必要があります。
例えば、いろいろなことを複数言うよりも、明確に単文を伝える方が理解しやすいこと、また口元が見えないので構音が不明瞭であることなど、2つの障害があってもどのように生活しやすくするかをお伝えするのが良いでしょう。
成人
聴覚障害が軽度あるいは中等度であれば補聴器の効果が期待できます。
コミュニケーション手段を確認していき、調整に必要な教示を十分確認して調整を行うことも重要です。聴覚障害が高度あるいは重度で補聴器の効果が低い場合は、人工内耳を検討します。
すでに聴覚言語を獲得後難聴が合併した成人には人工内耳手術の効果は大きく、Q.O.Lを大幅に改善するので、人工内耳手術が薦められます。2つの障害のうち1つが改善されることで、心理的にも社会的にもQ.O.Lが著しく向上することが期待できます。
さらに知的障害、肢体不自由を重複する場合に特別に考慮すべき点
難聴を伴う重複障害児であっても重複障害の成人であっても補聴器の装用は望ましいと考えます。重複障害では聴覚障害の方は主たる疾患の中に見逃されやすい傾向がありますので注意しましょう。難聴は補聴器で補い、コミュニケーションに役立つようにします。
装用指導は言語聴覚士の担当が望ましいです。重複障害の小児の人工内耳手術は、術後の聴覚リハビリテーションは難しく、手術例はCHARGE症候群のような一部の重複障害に限られています。成人の重複障害で補聴器の効果がない場合は人工内耳手術が薦められていますが、既に何らかのコミュニケーション方法を利用しているため、手術例は今のところほとんどないのが現状です。
基本となる耳鼻咽喉科治療・リハビリテーション
軽度・中等度の聴覚障害は、大きめの声で話すと反応があり、聴き取ることができる程度です。発声や発語があるので見逃されやすいです。放置しておくと同年齢の健聴児に比べ、小学校上級学年から中学校の各学年に進むと語彙(単語)の量が少なくなりがちです。
周囲の雑音で聴き取りが低下するので、小児耳鼻科の専門医と言語聴覚士の指導を受けて、低年齢より両耳補聴下の聴覚学習をすすめることが望ましいです。
聴覚障害が高度の場合は、早期の年齢より両耳補聴下の聴能学習を受ける必要があります。言葉の聴き取りが著しく低下していることがあり、その場合、人工内耳手術を考慮します。もし補聴器などを装用せずに放置されると聴覚・言語の発達が著しく制限されてしまいます。
従って早期難聴診断、高度難聴用補聴器を早期に装用し、聴覚・言語学習の徹底した教育を受ける必要があります。なるべく早くから聴覚・言語学習ができるような環境調整が大切です。
聴覚障害が重度の場合は、補聴器の効果が乏しいことが多いです。その場合は聴覚の獲得のためには人工内耳手術を考慮します。
以下に発達時期ごとの耳鼻科治療・リハビリテーションの要点を示します。
乳児
新生児聴覚スクリーニングでreferとなった場合は、生後3カ月までに精密検査を行い、難聴と診断された場合は補聴器装用による療育を生後6カ月までに開始します。
幼児
VRA、COR、遊戯聴力検査を用いて、補聴器、人工内耳を装用した装用閾値がスピーチバナナに入ることを目指します。太鼓、鈴や強大音で不快音がないように調整します。日常生活で常用できているかを確認します。
重度難聴では、一般に補聴器では効果が乏しいですが、高い効果が得られる例もあります。補聴器装用効果が認められない場合は、人工内耳手術が最も良い効果を上げることができると考えられ、人工内耳埋込み術が行われます(小児人工内耳基準参照)。その場合は術後のマッピングおよび聴覚リハビリテーションを理解し、受け入れられるように指導する必要があります。
言語訓練は、軽度~中等度難聴では補聴器装用し、聴覚を用いたコミュニケーション方法を指導されます。高度~重度難聴では、補聴器装用の場合は聴覚口話、手話併用(Total communication)と手話言語のみの3 通りの方法で療育を受けていることが多いです。人工内耳装用の場合は、聴覚口話のみで指導される場合と、手話を用いながら聴覚を活用する方法の2通りで指導されていることが多いです。
小児
補聴器装用ではなるべく会話域に装用閾値が入るようにします。人工内耳装用では全周波数25-40dB 程度の装用閾値とします。太鼓、鈴や強大音で不快音がなく、日常生活で常用できているか確認します。
語音検査(67S、57S、CI2004)で評価します。
成人
聴覚障害が軽度・中等度の場合は、補聴器の効果が大きく表れます。従ってQ.O.Lの向上のために病院の耳鼻科で評価を受けた後、補聴外来で両耳補聴器の装用指導を受けることが望ましいでしょう。それによってQ.O.Lが向上します。
補聴器の調整では、不快音や、装用して不快音がないことなどで評価します。補聴器装用閾値が会話域になるべく入るように徐々に上げていきます。読話を併用しての訓練を行っていきます。
聴覚障害が高度、重度の場合は、放置されると心理的に孤独になりやすい傾向があり、社会活動も制限されてしまいます。Q.O.Lの向上のために両耳補聴を補聴器の適合検査を受けて適切な補聴器を両耳に装用することが必要です。補聴器の効果が低い場合は、人工内耳を考慮します。
人工内耳装用では、太鼓、鈴や強大音で不快音や、装用して不快音がないことを確認しながら、全周波数25-40dB程度の装用閾値になるように徐々に音が聞こえるように調整していきます。
語音検査(67S、57S、CI2004)で評価します。