厚生労働科学研究費補助金(難治性疾患政策研究事業)
日本医療研究開発機構(AMED)(難治性疾患実用化研究事業)
視覚聴覚二重障害の医療

先天性および若年性の視覚聴覚二重障害の原因となる難病の診療マニュアル(第1版)

耳鼻咽喉科身体所見

コミュニケーションが確立されていない乳幼児期において、聴覚障害や重複障害の存在に気づき、早期の診断・治療に結び付けるには、正確な身体所見を取ることが重要です。

月齢・年齢に応じた聴性行動反応や、聴覚障害を示唆する所見のみならず、普段から、聴覚障害を伴う症候群で見られる所見、視覚障害の合併を疑う所見にも気を配ることが望まれます。

視覚障害,聴覚障害を重複する原因疾患は複数あり、多面的な身体評価が必要となります。耳鼻科身体所見では、外耳・中耳だけでなく、口腔、咽頭、鼻腔、喉頭などの評価も大切です。気道の異常や嚥下機能の低下を認めることも多く、早期の治療が必要になることもあります。

正確な身体所見の評価を行うことは、原因疾患の早期発見、早期診断につながり、適切な治療を受ける機会をもたらしますので、とても重要です。また、耳鼻科診察は、耳鏡を用いた鼓膜観察などの患者さんにとって心理的負担となる手技を伴うため、その不安を取り除くための配慮が必要となります。視覚障害を併せ持つ患者さんには特に繊細な配慮をしなければなりません。

視覚障害、聴覚障害を重複する患者の身体診察における注意点

耳鼻科診察には、その性質上、恐怖感を伴いやすいものがあります。
視覚障害を伴う患者では、なおさらその不安が大きくなります。

継続した診察を可能とするには、信頼関係を築き、以下に注意して診察を行うことが望まれます。また、視覚障害、聴覚障害を重複する患者では、知覚発達の遅れを生じることがあります。

体に触られること(背中、顔、下肢、腕、手、指)に対する許容が困難となりやすく、急な移動も恐怖心を与えやすいため、身体所見を取る上で留意する必要があります。

聴覚障害が軽度・中度の場合は以下の点にも注意します。患者の見える範囲に入って安心させてから診察を行うこと、そして声かけをしながら診察を行うこと。視覚障害が高度・重度であれば、上記に加えて、薄暗かったりまぶしかったりすると見えにくい場合があるため、照明が適切かを確認すること。

聴覚障害が高度・重度の場合は上記に加えて、以下の点にも注意します。不安を取り除くため手話・筆談などで診察内容を説明すること、または保護者に伝えてもらった上で診察すること。視覚障害も高度・重度であれば、上記に加えて、自分の存在を知らせてから診察を行うこと(そっと手や肩に触れること)、不安を取り除くため手書き文字などで診察内容を説明すること(または保護者に伝えてもらった上で診察すること)。

視覚の関与する行動、運動、認知の発達の目安

下記に遅れや欠如が見られる場合は視覚障害を示唆することがある。

月齢 視覚の関与する行動 運動・言語・認知
1~2ヵ月共鳴動作
2~3ヵ月追視あやすと笑う
3~4ヵ月自分の手を注視する首がすわる、腹臥位で頭を挙上する
5~6ヵ月物に手を伸ばしてつかむ
顔にかけられた布をとる
寝返り
7~8ヵ月坐位、はいはい
物を片手から他方の手に持ちかえる
9~10ヵ月物を取って落とす
凹凸を指で触る
つかまり立ち
バイバイをする
11ヵ月ひとり立ち
手を出すと物を渡す
1歳遠くのものを指でさす独歩
ママ、パパなど有意語が言える
2歳穴をのぞく高いところから飛び降りる
二語文が表現できる
赤青などの色が分かる
3歳足を交互に出して階段を昇る
自分の名前が言える、○が書ける
ごっこ遊びができる

(仁科 幸子 眼科プラクティス20 小児眼科診療,2008)

視覚障害、聴覚障害をきたす疾患・症候群でみられる身体所見

新生児期

  • 関節変性,顔面正中部の低形成,脊椎体の不整,口蓋裂(Stickler症候群)
  • 耳介奇形,耳介形態の左右差、後鼻孔閉鎖、コロボーマ(CHARGE症候群)
  • 低出生体重、黄疸、出血斑、肝脾腫、小頭症(先天性CMV感染症)
  • 超低出生体重(未熟児網膜症、難聴)
  • その他視覚障害併存を疑う所見:眼球の位置・大きさ・対称性,結膜出血,水晶体混濁,虹彩色素異常,コロボーマ,落陽現象,青色強膜,眼振,眼瞼異常,眼位異常,頭位異常,白色瞳孔,瞳孔・虹彩異常,眼球運動制限,異常眼球運動

乳児期(上記に加えて)

  • その他視覚障害併存を疑う所見:眼振,固視・追視不良,嫌悪反応(健眼を手やアイパッチで 遮蔽すると嫌がる)

幼児期(上記に加えて)

  • その他視覚障害併存を疑う所見:目を細めて対象を見る,対象に極端に近づいて見る,首を傾けて対象を見る,顔を横にして対象を見る 
  • 難聴の診断があり判明していれば原因は何でしたか。
  • 小児期(上記に加えて)

  • 早老様顔貌、角膜混濁(Cockayne症候群)

知的障害、肢体不自由を重複する患者の診療で考慮すべき点

  • 小児科との連携の上、継続的な発達の評価、フォローアップを行うことが重要です。
  • 知的障害、肢体不自由を重複する場合には、その程度によって視覚障害、聴覚障害の正確な評価が制限されることがあり,経時的な評価が必要です。
  • 手指の形態異常や運動障害(麻痺、固縮、不随意運動など)、感覚障害(感覚脱失、感覚鈍麻、異常感覚)の有無は、手話や指文字、手書き文字などのコミュニケーション手段の選択において重要です。
  • 摂食・嚥下障害,呼吸障害(気道),筋緊張亢進に注意が必要です。

聴覚障害のみの患者

・聴覚障害を示唆する身体所見
聴覚障害を示唆する身体所見
方法 評価
新生児モロー反射,眼瞼反射,吸綴反射,呼吸反射なければ60~70dBHL以上の
聴覚障害を示唆
乳児1~3カ月モロー反射,眼瞼反射,
吸綴反射,呼吸反射
なければ60~70dBHL以上の
聴覚障害を示唆
3~7カ月驚愕反応,傾聴反応,
詮索反応,定位反応
なければ50~60dBHL以上の
聴覚障害を示唆
7~9カ月定位反応(左右方向)
詮索反応(下方向)
なければ40~50dBHL以上の
聴覚障害を示唆
9~12カ月定位反応(左右下方向)
詮索反応(上方向)
なければ30~40dBHL以上の
聴覚障害を示唆
幼児12~16カ月定位反応(左右下方向)
詮索反応(上方向)
なければ30~40dBHL以上の
聴覚障害を示唆
16~24カ月定位反応(上下左右方向)なければ20~30dBHL以上の
聴覚障害を示唆
小児~呼びかけに反応しない
話し手の口元を見ながら聞く
周囲の動作を見てから行動する
軽度以上の聴覚障害を示唆

(加我 君孝, 新生児・幼小児の難聴 遺伝子診断から人工内耳手術, 療育・教育まで, 2014)

・聴覚障害をきたす疾患・症候群でみられる身体所見
  • 外耳道狭窄・閉鎖
  • 鼓膜所見異常(鼓膜穿孔、中耳炎)
  • 耳瘻孔,頚部瘻孔(BOR症候群)
  • 下眼瞼の欠損,小顎症,小耳症,口蓋裂(Treacher Collins症候群)
  • 色素異常(白色の前髪,虹彩異色,白斑)、眼角隔離(Waardenburg症候群)
  • 四肢末端骨の融合(NOG-SSD)
  • 特徴的顔貌(濃く癒合した眉、上向きの鼻孔、薄い上口唇、長い人中など)、側彎、成長障害、口蓋裂(Cornelia de Lange症候群)
  • 青色強膜、易骨折性(van der Hoeve症候群)

聴覚障害のみの患者で確認すべき身体所見

新生児

  • 子宮内発育遅延
  • モロー反射・眼瞼反射・吸綴反射・呼吸反射不良
  • 視診:耳介低位・形成不全,副耳,耳瘻孔,頚部瘻孔,顔貌異常,口唇・口蓋裂,小頭症,頭蓋拡大,毛髪・皮膚の色素異常,四肢末端骨の融合,易骨折性,黄疸,出血斑,肝脾腫,筋緊張低下
  • 耳鏡検査:耳垢,耳漏,外耳道狭窄・閉鎖の有無,耳小骨形態
  • 内視鏡検査:後鼻孔閉鎖・狭窄,喉頭軟弱症,声帯異常,声門下狭窄
  • 低出生体重、顔貌異常、外耳奇形、口唇口蓋裂

乳児(上記に加え)

  • 驚愕反応・傾聴反応・詮索反応・定位反応不良
  • 耳鏡検査:急性・滲出性中耳炎
  • 運動発達、知的発達の遅れ、成長障害、難聴の進行

幼児(原始反射を除く上記に加え)

  • 呼びかけへの反応不良
  • 耳鏡検査:真珠腫性中耳炎所見
  • 視診:歯牙形成不全,骨形成不全症,四肢・脊柱・胸郭の変形,関節可動性の増大,腎機能低下
  • 歩行の遅れ、めまい・ふらつき

小児(上記に加え)

  • 話し手の口元を見る様子,周囲の動作を見ながらの行動,発達遅滞
  • 視診:早老様顔貌,角膜混濁,甲状腺腫大,脳卒中様発作,けいれん,反復性頭痛,反復性嘔吐

成人(上記に加え)

  • 上咽頭(腫瘍),顔面神経麻痺,皮疹

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