視覚聴覚二重障害の医療

厚生労働科学研究費補助金(難治性疾患政策研究事業)
日本医療研究開発機構(AMED)(難治性疾患実用化研究事業)

厚生労働科学研究費補助金
(難治性疾患政策研究事業)
日本医療研究開発機構(AMED)
(難治性疾患実用化研究事業)
視覚聴覚二重障害の医療

先天性および若年性の視覚聴覚二重障害の原因となる難病の診療マニュアル(第1版)

染色体異常

21トリソミー症候群(ダウン症候群)

疫学

ダウン症児の全世界的な出生児に占める割合は約660分の1です1)。出生頻度は母親の年齢上昇につれ高くなります。本邦では母年齢が徐々に高くなっており、ダウン症患児数は横ばいか増加傾向とされています2)。ダウン症は、染色体異常の中で最も頻度が高く、特異的顔貌、精神運動発達遅滞の他に様々な合併症を呈します。合併症には白内障や難聴の他、先天性心疾患や甲状腺機能低下症、てんかん、アルツハイマー病等を伴うことがあります。先天性心疾患の有無が生命予後に影響します。医学の進歩によりダウン症患者の寿命は延び、現在は50歳を超えており、ライフステージに応じて必要とされる医学的管理を行っていきます3)

原因

21番染色体が過剰であるために引き起こされ、ダウン症候群決定領域(Down syndrome critical region;DSCR)中のDYRK1A遺伝子とDSCR1遺伝子が遺伝子量効果により発症に関連すると考えられています。標準型(95%)、転座型(3~4%)、モザイク型(1~2%)に分かれ、標準型は染色体不分離が原因です。転座型は、13番、14番、15番、21番、22番染色体のRobertson型転座によるものが大部分です。モザイク型は染色体不分離と受精卵以降の細胞分裂異常が原因となります。

視覚障害の自然歴

ダウン症候群は小児期より、様々な眼科疾患のリスクが高く、一般的に同年齢の平均よりも視力不良となります。眼科疾患の有病率は46~100%と報告されており、年齢と共に発生率が上昇します。瞼裂斜上(上向きの眼瞼裂)のように治療不要の所見もある一方で、医療介入を必要とする眼科疾患を有する割合は1歳未満では38%ですが、5~7歳では80%となります。

視機能と直接関わりのある眼科疾患は斜視(主に内斜視)、白内障(先天性・後天性)、睫毛内反症、眼振です。

  • (1)屈折異常
    近視、乱視などが多く、乳児期以降の屈折異常の増加の原因として、正視化の障害が推測されています4)。強度近視の発生頻度は同年齢の約3倍といわれ、乱視は26~54.8%が斜乱視となります5)、6)、7)

  • (2)斜視
    ダウン症候群の小児における斜視の罹患率は5~47%で、主に内斜視が認められます。

  • (3)眼振
    水平眼振がしばしば認められ、視力低下の原因になると考えられます。

  • (4)眼瞼疾患
    睫毛内反症、免疫異常や皮膚の過敏性が原因と思われる眼瞼炎などが認められます。

  • (5)円錐角膜
    慢性眼瞼炎の罹患に伴い目を擦ったり、21染色体上の遺伝子との関連から発症頻度が多いです8)、9)

  • (6)涙管閉塞
    罹患率の高さは顔面形態に関連しており、鼻涙管を閉塞する膜または骨の異常な持続性が原因となっている可能性があります10)

  • (7)白内障
    先天性、後天性とあり、ダウン症候群患者における先天性白内障の頻度は、対照よりも約10倍高いと報告されています。

聴覚障害の自然歴

純粋な感音難聴は少なく、難聴の多くは伝音難聴もしくは混合難聴です。乳幼児期には、外耳道狭窄や滲出性中耳炎によるものも多く、成長過程で聴力改善がみられるものも少なくありません。また乳児期、ABR波形分離不明瞭な症例の中に蝸牛神経の髄鞘化不全によるものがあり、この場合は通常1歳過ぎ頃に改善を認めます。感音難聴症例や改善傾向のみられない伝音難聴症例等では、聴力レベル等に応じて補聴器装用を検討します。成長とともに聴力の改善がみられ一時的な補聴器装用となる症例もあります。

米国で聴力検査が施行されたダウン症児1088名の報告11)では、その内921名(84%)に聴力検査で異常を認め、両側難聴91.1%、一側難聴8.9%でした。その内訳は伝音難聴11.4%、感音難聴2.7%、混合難聴7.8%、(まだ骨導検査施行困難なため)分類不能な難聴73.4%でした。ダウン症児は外耳道狭窄や滲出性中耳炎、慢性中耳炎、中耳真珠腫の合併もあり、感音難聴以外の難聴症例では成長とともに聴力の閾値改善傾向がありました。難聴症例の聴力レベルは、16-25dB以内の軽微40.8%、26-40dBの軽度29.8%、41-55dBの中等度11.8%、56-70dBの比較的高度4%、71-90dBの高度2.1%、90dBを超える重度0.9%と報告されています。自験例の3歳未満のダウン症児63名の聴力精査結果12)では、37%は難聴を認めず、難聴を認めたのは40例(63%)でした。その内訳は、伝音難聴70%、感音難聴20%、髄鞘化不全(成長とともに改善)10%でした。この解析では対象が3歳未満と幼少で気骨導左右別の聴力検査は施行不可であり、伝音難聴とした群の中に混合難聴症例が含まれている可能性があります。伝音難聴症例の半数に滲出性中耳炎、半数に外耳道狭窄を認めました。外耳道狭窄症例は鼓膜観察困難であり、滲出性中耳炎合併の可能性もあります。伝音難聴症例では滲出性中耳炎や外耳道狭窄の他に耳小骨奇形等、他の伝音難聴要因がある可能性も否定しえません。尚、自験例の感音難聴症例では側頭骨CTで蝸牛神経管狭窄を認めました。側頭骨CTにより難聴原因が判明することがあり、施行可能な難聴症例では検討します。

眼科診療の注意点

ダウン症候群の患者にとって視覚障害が社会的、行動的、および精神的困難とならないよう、小児眼科医による精査および管理が健康や発達を含めたQOLの向上につながり、早期および定期的な検査と治療によって、弱視による視力低下を最小限に抑えることができます。

視力検査は知的障害のある子供では困難になる場合があり、ランドルト環による測定ができない場合はTAC等の縞視力を使用します。

アメリカ小児科学会では、ダウン症候群を有する小児に対し、以下の管理が推奨されています7)、13)

  • (1)生後6カ月以内に、斜視、白内障、および眼振の検査と共に視力検査を行う。
  • (2)屈折異常、斜視、弱視をきたす可能性についての評価を行うため、5歳までの年1回の経過観察
  • (3)新たな眼科疾患の発症を評価するため、5~13歳は2年に1回の経過観察。

実際の診療では以下の点を配慮します。

  • (1)屈折異常と調節力
    屈折異常は眼鏡装用を考慮します。個人により装用が困難な場合もありますが、眼鏡装用のコンプライアンスは高いです。調節力低下を合併することがあるため、近見を伴う学習を助けるため二重焦点眼鏡装用が有用となる場合もあります。

  • (2)眼振
    細かく急速な水平眼振が頻繁に合併しますが、一般的に安定もしくは自然軽快し悪化はしないため特別な検査、治療は不要です。

  • (3)涙道閉塞
    一般的な小児の場合、閉塞の原因は鼻涙管の膜様閉塞に伴うためプロービング法は高い成功率を示しますが、ダウン症候群では細管狭窄および閉鎖が原因となることが多く、閉塞の原因によってはステントやバルーン拡張など、より積極的な初期治療が効果的な場合があります。

  • (4)斜視、眼瞼疾患、角膜など
    診察、治療は一般小児集団に準じます。

耳鼻咽喉科診療の注意点

聴力精査を進める際に新生児期、乳児期早期の児では髄鞘化遅延症例があり、難聴診断の際に可能性を考慮し注意します。多くは外耳道狭窄や滲出性中耳炎合併に伴う伝音難聴でありますが、中には蝸牛神経管狭窄に伴う感音難聴もあり、慎重に精査を進め、補聴器適応のある児には進めていきます。幼少時には難聴の病態を正確に把握することが困難な場合もあり、病態によっては成長過程での改善があるため、注意して経過観察を行い対応していく必要があります。

文献

  • 1) Madan-Khetarpal S, Arnold GL: Down syndrome. Zitelli and Davis’Atlas of Pediatric Physical Diagnosis 7th edition. Zitelli BJ, McIntire SC, Nowalk AJ(eds). Elsevire;2017:pp1-43.
  • 2) 梶井正:わが国の高齢出産とDown症候群増加傾向の分析. 日児誌2007;111:1426-1428.
  • 3) 芳賀信彦:オーバービュー:ダウン症の現在. J of Clin Rehabil 2011;20(6):516-552.
  • 4) Doyle SJ, Bullock J, Glay C, et al: Emmetropisation, axial length, and corneal topography in teenagers with Down’s syndromw. Br J Ophthalmol 1998;82:797-796.
  • 5) Antonela L, Vladimir T. Refractive erroes in children and young adults with Down’s syndrome. Acta Ophthalmol 2011;89:324-327.
  • 6) Haugen OH, Hovding G, Lundstrom I: Refractive development in children with Down’s syndrome: a population based, longitudinal study. Br J Ophthalmol 2001;85:714-719.
  • 7) Cregg M, Woodhouse JM, Stewart RE, et al: Development of refractive error and strabismus in children with Down syndrome. Investig Ophthalmol Vis Sci 2003;44:1023-1030.
  • 8) Burdon KP, Vincent AL: Insights into keratoconus from a genetic perspective. Clin Exp Optom 2013;96:146-154.
  • 9) Nielsen K, Hjortdal J, Pihlmann M, et al: Update on the keratoconus genetics. Acta Ophthalmol 2013;91:106-113.
  • 10) Baran F, Kelly JP, Finn LS, et al: Evaluation and treatment of failed nasolacrimal duct probing in Down syndrome. J Am Assoc Pediatr Ophthalmol Strabismus 2014;18:226-231.
  • 11) Kathryn L. Kreicher, Forest W. Weir, Shaun A. Nguyen, et al: Characteristics and Progression of Hearing Loss in Children with Down Syndrome. J Pediatr 2017;193:27-33.
  • 12) 有本友季子, 仲野敦子, 金子由佳, 他:聴覚評価目的に3歳未満で当科初診となったダウン症児の検討. Audiology Japan 2014;57(5):453.
  • 13) Bull MJ: Health supervision for children with down syndrome. Pediatrics 2011;128:393-406.
18トリソミー症候群(エドワーズ症候群)

疫学

出生頻度は3500~8500人に1人であり、ダウン症候群、22q11.2欠失症候群に次いで多い常染色体異常症候群です1)。性差では女児に多いです1)。胎児期発育不良があり、18トリソミーの約半数は子宮内胎児死亡または分娩時に亡くなります。下顎の後退、耳介低位といった特異的顔貌を呈します。他に、先天性心疾患、口唇口蓋裂、握った手指の重合、揺り椅子状の足底、小顎症、難聴、小眼球症等の眼科疾患、腎嚢胞等の泌尿生殖器の異常、食道閉鎖等の消化器異常等の複数臓器の多発奇形、Willms腫瘍、成長障害、哺乳困難、重度の精神運動発達遅滞も生じます1)。生命予後は典型的には2、3カ月で、ほぼ全員が1年未満の寿命で1年生存率は5~10%と書かれている成書もあります2)が、最近では適切な時期に心臓手術を行うことにより1年生存率が20~30%に達し生命予後が長くなってきているとの報告もあります3)

原因

18番染色体が過剰であるために引き起こされ、大多数(93.8%)は配偶子形成過程の減数分裂時または受精卵形成後の細胞分裂時における染色体不分離現象により生じるフルトリソミーです。モザイク型(4.5%)、不均衡型相互転座の結果生じる部分トリソミー(1.7%)もあります。

視覚障害の自然歴

本症の50%に眼症状の合併を認めるが、全身症状に比して軽度です。両眼隔離、内眼角贅皮が最も多いですが、瞼裂狭小、眼瞼下垂、斜視、小眼球、虹彩欠損、角膜混濁、視神経低形成、青色強膜、硝子体動脈遺残なども報告されており、視覚障害をきたす頻度も高いです。

聴覚障害の自然歴

海外の報告では1年生存率0~26%であり、聴覚障害についての詳細は不明です。外耳道狭窄もしくは閉鎖の症例があったとの文献もあります。聴覚障害については、感音難聴もありえますが、他に多発奇形で口唇口蓋裂の合併も言われており、それに伴う滲出性中耳炎等での伝音難聴や、前述した外耳道狭窄もしくは閉鎖に伴う伝音難聴や、また混合難聴も生じえます。また、乳児では高率にあやし笑いがみられたとの報告もあります。近年では新生児集中治療の有用性が言われるようになり、それによって1年生存率も25%程度へ上昇がみられることから、今後聴覚障害についての報告が増え、その実態が解明される可能性が期待されます。

眼科診療の注意点

生命予後不良の代表的な先天異常症候群として知られていますが、ここ数年、日本を中心に積極的治療の有効性を示す報告が相次ぎ、重度の精神発達遅滞を呈しても生存する限り少しずつ発達を遂げることが示されており、治療のあり方が大きく変わってきています。深刻な予後(生命、神経学的)を医療者と家族が共有し、児にとっての最善の利益を目指して、刻々と変化する病状に合わせたきめ細やかな医療ケアや家族の心理的支援を行っていくことが必要です4)

耳鼻咽喉科診療の注意点

生命予後が短いため、全身状態の確認や保護者の希望を考慮しながら、必要時は新生児科や小児科医師と連携し安全に十分留意して聴力精査等を検討していきます。

文献

  • 1) 古庄知己:13トリソミー、18トリソミーの予後. 小児外科2008;40(10):1126‐ 1132.
  • 2) 横井貴之, 黒沢健司(訳):染色体異常と性染色体異常.第6章 染色体及びゲノムの量的変化にもとづく疾患, トンプソン&トンプソン遺伝医学 第2版. 福嶋義光監訳, Nussbaum RL, Mclnnes RR, Willard HF(eds). Elsevier,メディカル・サイエンス・インターナショナル;2017:94頁.
  • 3) 高木紀美代, 廣間武彦:染色体異常(18トリソミー). Neonatal Care 2013;26(11):22-30.
  • 4) Kosho T, Kuniba H, Tanikawa Y, et al: Natural history and parental experience of children with trisomy 18 based on a questionnaire given to a Japanese trisomy 18 parental support group. Am J Med Genet Part A(in press)
13トリソミー症候群 (パトウ症候群)

疫学

出生頻度は5000~12000人に1人です1)。胎児期より始まる成長障害、重度の発達遅滞の他に様々な奇形を呈します。前脳・嗅神経・視神経の低形成を伴う全前脳胞症は60~70%にみられ、他に痙攣、無呼吸発作、前額の後方傾斜を伴った小頭症、口唇裂、口蓋裂、小眼球症、虹彩コロボーマ、難聴、先天性心疾患、多嚢胞腎等の泌尿器系合併症、鼠径ヘルニア、手指の屈曲拘縮等の骨格系合併症、頭頂部・後頭部の皮膚欠損等の合併がみられます1)。生命予後は米国の大規模調査では1年生存率は5.61~8.6%であり、他の英国での調査では1年生存率0%で生存期間の中央値は4日との報告があります1)

原因

13番染色体が過剰であるために引き起こされ、大多数は配偶子形成過程の減数分裂時または受精卵形成後の細胞分裂時における染色体不分離現象により生じるフルトリソミーです。転座型トリソミーは約20%で多くは13番と14番のRobertson型転座です。モザイク型はわずかです。

視覚障害の自然歴

本症の88%に眼症状の合併を認めます。小眼球が最も多く、無、単眼球の場合もあります。網脈絡膜欠損も多く、隅角の発達異常はほぼ前例にみられ、生命予後の良い例では牛眼を合併します。その他には角膜混濁、白内障、第一次硝子体過形成遺残、虹彩欠損などがみられます。外眼部異常として瞼裂狭小、瞼裂斜上、斜視、睫毛内反症、眼瞼下垂、内眼角贅皮、両眼隔離、眉毛欠損などの報告があります。

聴覚障害の自然歴

生命予後が厳しく長期生存が困難なことから聴覚障害の詳細は不明です。しかし、側頭骨の解剖を検討した文献2)があり、20例中15例にモンディーニ型の内耳奇形を認め、蝸牛低形成は軽度から高度までさまざまであったことが報告されており2)、そこから少なくとも75%は感音難聴を呈していたことがわかります。また耳小骨の奇形を伴うものもあり、感音難聴、混合難聴ともに高率に生じると推測されます。

眼科診療の注意点

生命予後不良の代表的な先天異常症候群として知られていますが、ここ数年、積極的治療の有効性を示す報告が相次ぎ、重度の精神発達遅滞を呈しても生存する限り少しずつ発達を遂げることが示されており、治療のあり方が大きく変わってきています。

深刻な予後(生命、神経学的)を医療者と家族が共有し、児にとっての最善の利益を目指して、刻々と変化する病状に合わせたきめ細やかな医療ケアを行っていくことが必要です3)。眼疾患については新生児期とその後の眼科医による定期フォローが必要です。全身状態が許せば白内障、緑内障に対して手術を考慮します。

耳鼻咽喉科診療の注意点

生命予後の厳しい疾患であり、児の全身状態や保護者の希望等を考慮し、必要時には新生児科や小児科医師等と連携して安全に配慮して検査等を進める必要があります。

文献

  • 1) 古庄知己:13トリソミー、18トリソミーの予後. 小児外科2008;40(10):1126‐1132.
  • 2) 松井隆道, 大谷巌, 小川洋, 他:13トリソミー症候群の側頭骨病理―2症例の報告と文献的考察―. Otol Jpn 2004;14(2):201-205.
  • 3) Carey JC: Trisomy 18 and trisomy 13 syndromes. Management of genetic syndromes, 3rd Edition, Cassidy SB, Allenson JE (eds). Wiley-Liss;2010:pp807-823.

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