視覚聴覚二重障害の医療

厚生労働科学研究費補助金(難治性疾患政策研究事業)
日本医療研究開発機構(AMED)(難治性疾患実用化研究事業)

厚生労働科学研究費補助金
(難治性疾患政策研究事業)
日本医療研究開発機構(AMED)
(難治性疾患実用化研究事業)
視覚聴覚二重障害の医療

先天性および若年性の視覚聴覚二重障害の原因となる難病の診療マニュアル(第1版)

神経線維腫症

疫学

神経線維腫症はⅠ型とⅡ型に分かれます。

神経線維腫症Ⅰ型:
神経線維腫症Ⅰ型(neurofibromatosis type1:NF1、レックリングハウゼン病)は、カフェ・オ・レ斑と神経線維腫を主徴とし、その他 骨、眼、神経系、(副腎、消化管)などに多彩な症候を呈する母斑症であり、常染色体性優性の遺伝性疾患です(指定難病34)。神経線維腫症Ⅰ型は1882年にvon Recklinghausenが報告しました。神経線維腫症Ⅰ型の有病率は出生3000人に1人とされ、日本国内に40000人ほどの患者がいると推計されています1)

神経線維腫症Ⅱ型:
神経線維腫症Ⅱ型(neurofibromatosis type2:NF2)は、両側性に発生する聴神経鞘腫(前庭神経鞘腫)を主徴とし、その他の神経系腫瘍(脳及び脊髄神経鞘腫、髄膜腫、脊髄上衣腫)や皮膚病変(皮下や皮内の末梢神経鞘腫、色素斑)、眼病変(若年性白内障)を呈する常染色体優性の遺伝性疾患です(指定難病34)。1822年、Sandifortが両側聴神経腫瘍について報告しました。その後1902年にHemneberg & Koch、1917年にCushingが報告しています。補聴器の効果が少なく、視神経に腫瘍が生じると盲ろう状態になる深刻な疾患です。神経線維腫症Ⅱ型は33000人から40000人に1人発症し、有病率は100000人に1人とされており2)、国内に1000~2000人ほどの患者がいると推計されています。

原因

神経線維腫症Ⅰ型:
Ⅰ型の原因遺伝子は17番染色体長腕(17q11.2)に位置し、ニューロフィブロミン(neurofibromin)をコードし、Ras蛋白の抑制機能により腫瘍の発生と増殖を抑制すると考えられています。NF1遺伝子に変異を来した神経線維腫症I型では、Ras蛋白の抑制機能の障害によって神経線維腫をはじめ多種の病変を生じると推測されているものの、詳しい機構については不明な点も少なくありません3)、4)、5)、6)

神経線維腫症Ⅱ型:
責任遺伝子は22番染色体長腕(22q12)に存在し、この遺伝子が作り出す蛋白質であるmerlin(又は schwannomin)は腫瘍抑制因子と考えられています。merlin遺伝子変異は、神経線維腫症Ⅱ型以外の一般の神経鞘腫・髄膜腫・脊髄上衣腫などでも同定されます3)、7)、8)、9)

視覚障害の自然歴

神経線維腫症Ⅰ型:
神経線維腫の発生場所・重症度により、視力障害の有無・重症度が異なります。虹彩小結節:虹彩前面にみられる小結節(過誤腫)は2.5歳までに3分の1、5歳までに半数、15歳の4分の3、21歳以上の成人患者のほぼすべての患者に細隙灯により同定されます10)、11)。通常、虹彩小結節が直接視力障害の原因となる事はありません3)。神経線維腫よりも早期に発生する為、早期診断の有用なマーカーとなりえます10)、11)。神経線維腫:眼窩神経線維腫は一般的に進行性の眼窩内腫瘍として同定されます。この際、眼球突出、眼位異常、眼球運動障害、眼瞼下垂、感覚障害を伴う事があります。叢状神経線維腫は10代まで発症する事が多いのに対し、限局性神経線維腫は30〜50代で発症します。視神経膠腫は低悪性度であり6歳未満の子供に発症し、視神経、視交叉、その他の視路に影響を与える可能性がありえます12)

神経線維腫症Ⅱ型:
白内障、網膜過誤腫、網膜前膜、視神経腫瘍の発生場所・重症度により、視力障害の有無・重症度が異なります。30%以上で何かしらの視力低下を来すという報告も存在します13)。半数以上の症例で壮年期以前の後嚢下白内障、皮質白内障が存在すると報告されています14)、15)、16)。その他先天白内障、小児期発症白内障の発症も報告されており、混濁の部位・程度により症状(羞明、視力低下等)も様々です。30歳以下で発症する後嚢下白内障、皮質白内障が早期診断に役立ちます17)。6-22%に網膜・網膜色素上皮過誤腫(眼底後極が好発)が発生します3)。網膜前膜が1%の症例に発症し、視力障害を伴わない事も多いです3)。視神経鞘髄膜腫が発生した場合は、視力低下を伴います3)

聴覚障害の自然歴

神経線維腫症Ⅰ型:
神経線維腫症Ⅰ型の聴力障害は神経線維腫による外耳道の圧排に伴う伝音難聴および内耳道から脳幹部に至る部位における神経線維腫による感音難聴や神経性難聴によるものでありますが、Ⅱ型と比較すると頻度は低く、症例ごとのバリエーションが大きいです。

神経線維腫症Ⅱ型:
頭蓋内に神経腫瘍が生じますが、最も頻度が高いのが両側の前庭神経腫瘍で、蝸牛神経が圧迫され神経性難聴が生じます。95%の症例で両側前庭神経鞘腫を発症し、60%の症例で進行性の感音難聴や神経性難聴を認めます18)

その他の障害、疾患の自然歴

神経線維腫症Ⅰ型:
皮膚にCafé au lait spotと呼ばれるミルクコーヒーあるいは褐色の盛り上がりのない斑を呈します。皮膚由来の神経線維腫が思春期頃より全身に多発します。ただし小児の場合は直径1.5cm以上のCafé au lati spotが6個以上あると本症例が疑われます。

神経線維腫症Ⅱ型:
神経のSchwann細胞の腫瘍化により全身の神経にneurofibromaが生じます。両側性前庭神経鞘腫の他には脊髄神経鞘腫、三叉神経鞘腫を伴うことが多いです。Meningiomaを約半数令で合併します。腫瘍の生じた部位に対応する神経症状が生じます。

眼科診療の注意点

神経線維腫症Ⅰ型:
虹彩小結節が早期診断に有用であり、その後の適切な中枢神経系スクリーニング、遺伝学的検査の実施に繋がる為、細隙灯による前眼部検査による適切な診断が必要となります。限局性神経線維腫は、画像診断では辺縁整の卵形病変として観察され19)、CTでは外眼筋に等密度または低密度を呈します。MRIでは、TIで低・中程度シグナル、T2で中・高程度のシグナルとなります。腫瘍組織内に血管成分が混在しているものは、病変内にはシグナル強度が不均一となります。叢状神経線維腫は、画像診断では辺縁が不明瞭であり、浸潤する神経のびまん性肥厚を伴います20)。限局性神経線維腫と同様に、CTで低密度、MRIT1で等シグナル、MRIT2で高シグナルを示します。限局性神経線維腫の治療法は、臨床症状の重症度によって異なります。外科的除去は、血管成分の少ない、偽カプセルを伴った病変の限定されたものに対して、根治を目指して選択されます。叢状神経線維腫は、除去がより困難の場合が多いです。

神経線維腫症Ⅱ型:
前庭神経鞘腫切除後の顔面神経麻痺の眼所見(兎眼性角膜障害等)の管理が必要となる場合も多く、診療科横断的ケアが必要となります21)

耳鼻咽喉科診療の注意点

神経線維腫症Ⅰ型:
外耳道の圧排による伝音難聴は腫瘍摘出術、腫瘍減量術など症例に応じた適切な手術介入により改善することができます。一方、感音難聴の場合は手術による改善が難しいため、両側性の場合は補聴器などを用いたコミュニケーションの維持が重要です。

神経線維腫症Ⅱ型:
多症例の解析より腫瘍が大きさと聴力は相関しないことが知られており、画像検査とは別に聴力のフォローを行い、補聴器などの適切な介入を行うことでコミュニケーションを維持することが重要です。難聴の進行を止めるために腫瘍摘出術が行われます。両型ともに補聴器の装用効果が期待できない重度難聴の場合は、Auditory Brainstem Implant(ABI)によって聴覚を回復させることができますが、今のところ健康保険に採用されていません。しかし人工内耳が効果のある場合があり、人工内耳埋込術も検討するに値します。

文献

  • 1) 高木廣文,稲葉裕,高橋月容,他:レックリングハウゼン病と結節性硬化症の2次調査の重複率と全国患者数,厚生省特定疾患神経皮膚症候群調査研究 昭和62年度研究報告書.1988;11-15.
  • 2) Evans DG, Huson SM, Donnai D, et al: A genetic study of type 2 neurofibromatosis in the United Kingdom. I. Prevalence, mutation rate, fitness, and confirmation of maternal transmission effect on severity. J Med Genet 1992;29:841–846.
  • 3) Grigg JRB, Jamieson RV: Phakomatoses [including the neurofibromatoses]. Taylor and Hoyt’s Pediatric Ophthalmology and Strabismus 5th Edition, Section 5, Chapter 68. Lambert SR, Lyons CJ(eds) Elsevier; 2017:pp700-714.
  • 4) Gutmann DH: Neurofibromin in the brain. J Child Neurol 2002;17:592–601.
  • 5) Legius E, Marchuk DA, Hall BK, et al: NF1-related locus on chromosome 15. Genomics 1992;13:1316–1318.
  • 6) Shannon KM, O’Connell P, Martin GA, et al: Loss of the normal NF1 allele from the bone marrow of children with type 1 neurofibromatosis and malignant myeloid disorders. N Engl J Med 1994;330:637–639.
  • 7) Rouleau GA, Merel P, Lutchman M, et al: Alteration in a new gene encoding a putative membrane-organizing protein causes neurofibromatosis type 2. Nature 1993;363:515–521.
  • 8) Trofatter JA, MacCollin MM, Rutter JL, et al: A novel moesin-, ezrin-, radixin-like gene is a candidate for the neurofibromatosis 2 tumor suppressor. Cell 1993;75:826.
  • 9) Xiao GH, Chernoff J, Testa JR: NF2: the wizardry of merlin. Genes Chromosomes Cancer 2003;38:389–399.
  • 10) Ragge NK, Falk R, Cohen WE, et al: Images of Lisch nodules across the spectrum. Eye 1993;7:95–101.
  • 11) Lubs ML, Bauer MS, Formas ME, et al: Lisch nodules in neurofibromatosis type 1. N Engl J Med 1991;324:1264–1266.
  • 12) Avery RA, Fisher MJ, Liu GT: Optic pathway gliomas. J Neuroophthalmol 2011;31(3):269-278.
  • 13) Ragge NK, Baser ME, Klein J, et al: Ocular abnormalities in neurofibromatosis 2. Am J Ophthalmol 1995;120:634–641.
  • 14) Bouzas EA, Freidlin V, Parry DM, et al: Lens opacities in neurofibromatosis 2: further significant correlations. Br J Ophthalmol 1993;77:354–357.
  • 15) Kaye L, Rothner A, Beauchamp G, et al: Ocular findings associated with neurofibromatosis type 2. Ophthalmology 1992;99:1424–1429.
  • 16) Kaiser-Kupfer MI, Freidlin V, Datiles MB, et al: The association of posterior capsular lens opacities with bilateral acoustic neuromas in patients with neurofibromatosis type 2. Arch Ophthalmol 1989;107:541–544.
  • 17) Ragge NK, Baser ME, Klein J, et al: Ocular abnormalities in neurofibromatosis 2. Am J Ophthalmol 1995;120:634–641.
  • 18) Ferner RE: Neurofibromatosis 1 and neurofibromatosis 2: a twenty first century perspective. Lancet Neurol 2007;6(4):340-351.
  • 19) Kottler UB, Conway RM, Schlötzer-Schrehardt U, et al: Isolated neurofibroma of the orbit with extensive myxoid changes: a clinicopathologic study including MRI and electron microscopic findings. Orbit 2004;23(1):59-64.
  • 20) Santaolalla F, Sanchez JM, Ereño C, et al: Severe exophthalmos in trigeminal plexiform neurofibroma involving the orbit and the infratemporal fossa. J Clin Neurosci 2009;16(7):970-972.
  • 21) Kartush JM, Lundy LB: Facial nerve outcome in acoustic neuroma surgery. Otolaryngol Clin North Am 1992;25:623–647.

Webページ

  • 1) 指定難病34,
    http://www.nanbyou.or.jp/upload_files/File/034-201704-kijyun.pdf
  • 2) American academy of Ophthalmology EYE Wiki Neurofibroma,
    https://eyewiki.aao.org/Orbital_Neurofibroma

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