視覚聴覚二重障害の医療

厚生労働科学研究費補助金(難治性疾患政策研究事業)
日本医療研究開発機構(AMED)(難治性疾患実用化研究事業)

厚生労働科学研究費補助金
(難治性疾患政策研究事業)
日本医療研究開発機構(AMED)
(難治性疾患実用化研究事業)
視覚聴覚二重障害の医療

先天性および若年性の視覚聴覚二重障害の原因となる難病の診療マニュアル(第1版)

盲ろう者支援機関で対応する視覚聴覚二重障害の代表的疾患と
福祉的対応

典型例

本項目では、盲ろう者を支援する機関(行政、障害者相談支援事業所、盲ろう者団体等)において、対応するケースが比較的多いと考えられるアッシャー症候群を典型例として取り上げ、相談援助における関わりや福祉制度の活用における配慮や留意点について記します。

対応の注意点

  • (1)疾患の概要
    アッシャー症候群は、典型的には両側性感音性難聴と網膜色素変性症による視覚障害(視野狭窄、視力低下など)を併発します。聴覚障害の発症時期や進行、前庭機能障害によるめまいやふらつきの状況など、患者により相違があり、それらの相違により、3つのタイプに分類されています。
    それぞれのタイプごとに、社会参加と自立を考えるうえで重要なコミュニケーションや移動に関する対応が異なってきます。それぞれの特性を見極めたうえで、支援の方向性を見極める必要があります。

  • (2)コミュニケーション
    タイプⅠ・Ⅱは先天性の比較的高度な難聴により、音声(聴覚と発話)が難しく、手話や筆談をコミュニケーション手段とするケースが少なくありません。その一方で、視野狭窄や視力低下により、手話や文字の見えづらさを抱えている可能性もあります。網膜色素変性症においては、周辺から徐々に視野が狭まり中心部分の視力が残る「求心性視野狭窄」になることが特徴的で、見え方に応じた手話や文字の大きさなどに配慮が必要になります()。
    一方、タイプⅢは中途の軽度難聴であるため、音声をコミュニケーション手段とするケースが多いと考えられます。ただし、このタイプにおいても、視野狭窄や視力低下により、「話しかけられた相手が誰かがわからない」、「周囲の状況がつかめず、その場に応じた意思疎通が難しい」など、コミュニケーション上の困難を抱える可能性があります。そのため、「本人と目が合ってから話し始める」、「話し始める際には名前を言う」「会話の途中でも、必要に応じて周囲の状況も伝える」などの配慮が必要になります。

    図 求心性視野狭窄の見え方と手話を提示するうえでの配慮

  • (3)移動
    いずれのタイプでも、視野狭窄や視力低下の進行により、「路上の障害物につまづく」、「トラックのサイドミラーに頭をぶつける」、「横切って走ってきた子供に衝突する」など、単独での安全な歩行に支障をきたす場合があります。特にタイプⅠ・Ⅲでは、前庭機能障害により歩行時のふらつきが見られる場合もあります。
    また、日中は支障がなくとも、夜盲により夕方以降や暗い場所で視力が低下するという場合もあります。移動に際しては、保有視野・視力があったとしても、白杖を使用することにより、障害物の感知や周囲への注意喚起を図ることが有効になります。ただし、視野・視力が残存していることや白杖に抵抗感があること等により、白杖の使用に至らないケースもあり、本人の心理的な変化を見極めながら、中長期的に関わっていくことが必要になります。

  • (4)福祉制度の活用
    先述した、コミュニケーションと移動の困難やニーズに対応するための福祉制度の活用の観点から、人による支援(人的支援)と機器やツールによる支援(物的支援)に分けて整理すると、表に示すようになります。
    それぞれの制度・事業は障害者総合支援法に位置付けられています。アッシャー症候群は、障害者総合支援法の対象となる疾病であり、視覚や聴覚の障害が等級に該当していなくとも、診断書等で疾病に該当することが確認することができれば、これらの制度を利用することが可能です。

    表 コミュニケーションと移動における物的支援と人的支援
    物的支援人的支援
    コミュニケーション補装具費支給制度
    ・補聴器
    日常生活用具給付等事業
    ・屋内信号装置
    ・携帯用信号装置
    ・ファックス等
    手話通訳者派遣事業
    要約筆記者派遣事業
    盲ろう者向け通訳・介助員派遣事業
    同行援護事業
    移動補装具
    ・白杖
    ・眼鏡
    盲ろう者向け通訳・介助員派遣事業
    同行援護事業
    1)物的支援
    機器やツールの購入を補助する制度として、市町村により実施されている補装具費支給制度、日常生活用具給付等事業があります。これらの制度を利用することで、1割程度の自己負担で必要な機器やツールを購入することが可能です(所得や自治体独自の施策によるさらなる減免もあり)。
    補聴により聴覚の活用の可能性があれば、補装具の種目の一つである補聴器は最も重要なコミュニケーションツールになります。このほか、日常生活の音(ドアフォンや電話の着信音等)を振動や光に伝える屋内信号装置、病院や窓口での呼び出しを振動で伝える携帯用信号装置等が日常生活用具の品目として多くの自治体で認められています。
    安全な移動に関しては視覚の活用が不可欠です。アッシャー症候群の患者の中には、羞明(まぶしさ)を訴える人も少なくありません。日中の野外や照明が多用されている施設を移動する際に、コントラストを保ったまま、眩しい光のみを遮る眼鏡(遮光眼鏡)も補装具として認められています。

    2)人的支援
    補聴機器等を活用しても、音声で他者とコミュニケーションが円滑に取ることが難しい場合、人的支援の活用を検討することになります。
    手話や筆談を用いる場合で、視覚障害に対する配慮の必要がなく、かつ移動にも問題がない(もしくは移動を必要とする場面ではない)場合、使用するコミュニケーション手段に応じて、手話通訳者派遣事業や要約筆記者派遣事業を活用することが考えられます(それぞれ市町村が実施)。
    その一方で、手話や筆談の際に視覚障害に対する特別な配慮が必要な場合、また、移動にあたっての介助が必要になる場合は、それら両方の支援を提供する通訳・介助員派遣事業の活用が考えられます(都道府県で実施)。
    盲ろう者向け通訳・介助員派遣事業は自治体によって利用可能時間数が限られており、在住自治体によっては、ニーズを満たすことができない場合があります。その場合、同行援護事業(市町村で実施)の利用も検討することになります。同行援護事業は視覚障害者向けの移動の支援が主たるサービス内容になりますが、事業所によっては、手話や筆談等のコミュニケーション手段に対応できる盲ろう者向け通訳・介助員が所属している場合があります。

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