視覚聴覚二重障害の医療(盲ろう,視覚聴覚重複障害)盲ろう医療支援情報ネット

厚生労働科学研究費補助金(難治性疾患政策研究事業)
日本医療研究開発機構(AMED)(難治性疾患実用化研究事業)

ホーム 診療マニュアル > 疫学

先天性および若年性の視覚聴覚二重障害の原因となる難病の診療マニュアル(第1版)

疫学

疫学的統計

視覚・聴覚二重障害児(child of deafblindness)は、100,000人に2~3人(ろう者の約1.2%)の割合といわれています(the Gallaudet Research Institute,2013:2011-2012、the Colorado Department of Education,2007)。

我が国では、18歳未満の当該児は1,200人(厚労省,2008)と推定されていますが、米国の全域調査では、小児例は毎年、1万人程度(0~21歳)と報告されています。ただし、個々の障害状況は多様で、発達支援には、注意深く個別状況の理解が必要です。

視覚・聴覚二重障害が生じる原因(表1)として、米国全域調査では、遺伝性症候群が44%と半数を占め、代表的なものとして、チャージ症候群、ダウン症候群、アッシャー症候群があります。

表1 視覚聴覚二重障害発症の疫学的統計(0~21歳,米国,2016)

病因頻度%
1)遺伝性症候群および障害 4,277 44.4
チャージ症候群 924 9.6
ダウン症候群(トリソミー21症候群) 305 3.2
アッシャー症候群(Ⅰ,Ⅱ, Ⅲ) 296 3.1
スティラー症候群 133 1.4
ダンディウォーカー症候群 111 1.2
ゴールデンハール症候群 107 1.1
その他 2,401 24.9
2)先天性合併症1,37914.3
サイトメガロウイルス(CMV) 292 3.0
水頭症 213 2.2
小頭症 208 2.2
その他 666 6.9
3)出生後の非先天性合併症1,137 11.8
窒息 199 2.1
重度の頭部損傷 161 1.7
髄膜炎 135 1.4
その他 642 6.7
4)未熟児の合併症1,02810.7
5)病因不明1,81418.8
9,635 100.0

National Center Deaf-Blindness,<https://nationaldb.org/library/page/1944>(最終アクセス 2016年9月11日)

アッシャー症候群では、特にⅢ型は進行性難聴を示す例があり、発達経過に注意が必要です。原因としては、遺伝性症候群のほか、先天性合併症や、出生後に発生の合併、さらに未熟児の合併症がほぼ同率を示しています。

視覚・聴覚二重障害のある小児の発症時期としては、出生時から2歳までの言語習得前期が6%、3歳から5歳の言語習得中の幼児期が12%であり、6歳から11歳の言語習得後の学童期が28%、12歳から17歳の思春期に36%が発症と報告されています。

学童期までに半数(46%)、思春期までの小中学校期に82%が発症していますので、教育的課題は大きいといえます。

障害程度

視覚・聴覚二重障害児は、単一の障害によって生じる社会的機能の制約とは大きくかけ離れていることから、感覚障害(impairment)のみでなく、日常生活機能(function)で障害状況を理解することが必要とされており、様々な視点での障害評価が提唱されています。

図1a, bでは、上記の米国全域調査において基礎的な感覚器情報によって、小児の分布を示します。聴覚障害については、高度・重度難聴が39%で、中等度難聴と軽度難聴では27%になり、補聴器や人工内耳による聴覚活用の対象児が多いといえます。

視覚障害については、全盲児が17%、法的盲児(重度視覚障害児)24%と合わせると41%であり、ロービジョン(弱視)21%になります。

視覚聴覚二重障害児といっても、全盲ろう児は1%に過ぎず、それ以外は、いずれかの感覚が残存するとされており、コミュニケーション支援として残存する感覚器の活用の重要性について指摘できます。

しかしながら、視覚矯正は42%、補聴器装用48%、人工内耳10%の装用にとどまっています。現在では、小児専門機関では乳幼児期から、目や耳の障害の早期診断と、有効な感覚補償機器(補聴器や眼鏡他)の処方が可能です。

また、小児発達には早期の感覚補償機器の活用に基づいた療育支援が重要です。単一の感覚器双方の障害状況の差異を把握し、どちらの感覚を優位に活用できるのかについて検討して、コミュニケーション法の選択と指導法の検討が喫緊の課題になります。

図1 感覚器障害程度分布

感覚器障害程度分布

併せ持つ障害

視覚聴覚二重障害児の89%が、感覚器障害の他に1~2種の他の障害を併せ持つとされ、とくに、認知障害(知的障害)を併せ持つ小児が66%、肢体不自由が57%と多く、いずれも過半数を占めています(表2)。さらに、40%以上が4種かそれ以上の障害を併せ持つといいます。従って、複雑な健康状況にかかわるケアを要する小児も多く、健康管理を基盤においた早期からの養育・教育支援が必要です。

表2 併せ持つ障害

併せ持つ障害%
認知障害66%
肢体不自由57%
複合的健康ケアー38%
行動変容9%
その他30%

Killoran J, et al; The national deaf-blind child count: 1998-2005, 2007.

一方で、感覚器に二重障害のある小児では、影響として言語獲得や基本的な学習行動の形成が妨げられ、全般的な発達遅滞の行動や心理状況を呈している場合も少なくありません。そこで、乳幼児期の発達評価や予後の予測・助言では、これらの感覚器障害による影響を検討して慎重な鑑別と発達への期待が求められます。

指導教育方法や、教育施設の選択・進路の方針、見通しをもった支援についての助言には、診断後の早期から経過観察を行い、各発達段階でのアセスメントによる障害状況の理解が必要になります。

ページ先頭へ