厚生労働科学研究費補助金(難治性疾患政策研究事業)
日本医療研究開発機構(AMED)(難治性疾患実用化研究事業)
視覚聴覚二重障害の医療

先天性および若年性の視覚聴覚二重障害の原因となる難病の診療マニュアル(第1版)

療育

幼小児期における視覚聴覚二重障害療育について

先天性または、幼児期初期からの視覚聴覚障害をもつ小児では、早期に障害の程度と状況について的確に把握し、保有する感覚や能力を活用して、対人交流やコミュニケーション基盤の形成が緊急の課題になります。

それは、乳幼児期から視覚・聴覚経由の感覚刺激が乏しいことによって、外的世界や周囲の状況、あるいは他者に係わる機会が制限され、学習に関わる動機付けを持ちにくく、探索・運動・社会・生活・言語の発達のあらゆる面に影響を及ぼすことになるからです。運動覚、触覚、味覚、嗅覚など全感覚を駆使して、外界の認識や他者理解などを進める養育や教育・療育が基本的支援になります。知的障害を併せ持つ場合には、とくに食事・排泄・衣服着脱・身辺自立などのセルフケアや社会的行動についての発達指導に基盤をおき、個々の状況にあわせた発達課題について家族への助言の視点が必要になります。

幼児の学習の基盤は、家族など周囲との人的関係にありますので、遊びや生活指導を通じてコミュニケーションがとれるよう積極的な関わりを始めます。基礎的な人間関係ができた後には、聴覚障害が重度であれば手話やサイン、軽中等度であれば聴覚と音声を用いた学習が有効に進められます。
知的障害児では、視覚と聴覚とどちらの学習が容易であるかを観察し、可能な会話法について検討します。

言語学習については、認知的観点からことばの意味を担う概念形成の指導、さらに意味の表象としてのシンボルの形成を重視して、繰り返し丁寧な指導段階の積み重ねが求められます。幼小児期の指導計画は、発症年齢、言語習得の有無、認知機能、運動機能、感覚障害の重症度の個別状況の検討が重要です。養育には家族の負担が多大になり、家族中心の支援サービスで構成することが前提になります。

なお、視覚聴覚二重障害児の障害状況は個人差が大きく、通常発達と対応した教育が行える小児も半数近く含まれ、初等中等教育、さらに高等教育に繋げる発達支援の系統性に注意が必要です。言語獲得開始後には、初語から書記言語への移行や感覚補償機器導入に徹底した教育・指導の体制を必要とします。

早期発見と早期介入

先天性の小児や、言語習得前に発症した児については、乳幼児期からの早期介入が重要です。早期に障害の程度と状況について的確に把握し、補聴器や人工内耳、眼鏡の装用により、保有する感覚や能力を最大限に活用して、乳幼児期の発達課題を充実させ、養育をベースに介入・指導を行うことが目標になります。また、早期介入により、行動や情緒・学習面についての二次障害の発生を減じることができます。そこで、医療・保健・療育・教育の各種関係者の協力と家族の啓発が欠かせないといえます。

障害の機能による分類

障害状況の理解と支援法の検討のためには、障害の発症時期による障害の機能分類が用いられています。先天的に視覚聴覚二重障害を発生した小児の他、先に視覚障害があり遅れて聴覚障害が併発する例があります。

また、その逆の順で障害を併発する例があり、それぞれで主な発達課題が異なっています。指導・支援では、感覚障害が幼児期の言語発達等幼児期の学習全般に及ぼす影響や、中途障害による受障後の会話・移動などの障害補償学習の困難さに注目します。

感覚の感受期・言語獲得の適時期などから発症時期による観点(表3-a)では、①先天性盲ろう、②後天性盲ろうに分けられます。また、先行して発症した障害の観点(表3-b)では、③盲ベース盲ろう、④ろうベース盲ろうの分類があります。盲ベースでは、点字学習など視覚障害幼児としての教育指導、ろうベースでは、手話・指文字など聴覚障害児としての教育指導を受けていることが多く、既習の会話モードを活用した支援を行います。小児期の言語獲得は高次の認知機能として、通常、聴覚と音声回路を介して学習されます。そこで、言語獲得の適時期である0~3歳以前に、聴覚障害を発症した先天性盲ろう児や、ろうベース盲ろう児では、言語獲得の指導を徹底する必要があります。

さらに、感覚器障害の程度の組み合わせによる観点(表4)では、①全盲ろう、②弱視ろう、③全盲難聴、④弱視難聴の分類があります。乳幼児早期からのコミュニケーション法の獲得に、補装具の積極的な利用によって有効な残存する感覚を活用し、活用に関する教育指導の体系性を必要とします。Usher症候群のように、視覚障害が先行して発症し、徐々に聴覚障害を併発する予後が想定される場合には、本人と家族の理解と心の準備を支援すると同時に、会話法の移行の学習を長期的に支援することが重要になります。

表3-a 二重障害の発症時期による分類

表3-a 二重障害の発症時期による分類

表3-b 先行する障害による分類

表3-b 先行する障害による分類

表4 感覚器障害の重症度による分類

表4 感覚器障害の重症度による分類

家族支援

乳幼児期の早期介入は、主に家庭で保護者が担うことになります。しかし、感覚器障害のある小児とのコミュニケーションは取りにくく、しつけや養育などに難渋したり育てにくいと感じることも少なくありません。

母子間の密接な相互交渉や愛着関係の形成に根気強い支援が要請されます。また、障害が重篤な場合に、家族が孤立し困惑した状況に居ることも多く、診断後は直ちに、療育・教育施設・家族会・同障家族に紹介するなど、心理的サポートが重要になります。家族が子供の障害状況の理解を深め、子どもの成長に希望を抱き、子どもの成長のために協力を得られるよう、家族中心のケアサポートを構成します。家族同士の積極的交流の機会をもつなどして、継続的に家族の気持ちを支え、息の長い粘り強い養育・教育を支援します。

視覚聴覚二重障害児数は少なく、個人差が大きいことから、単一での専門的支援は困難であり支援体制は乏しい状況にあります。そこで、診断後には、養育と早期介入に向けて、診断期・療育期・就学期・学校教育期の各時期に、家族が地域で活用可能な社会的資源と必要な情報へのアクセスを配慮する必要があります。また、乳児期・幼児期・学童期の発達課題について、適切な助言指導ができるよう医療・保健・療育・教育の社会的連携と専門的支援内容の共有化が喫緊の課題といえます。

コミュニケーションの形成と言語獲得

視覚聴覚二重障害児では、感覚器の障害状況の組合せ、さらに併せ持つ障害により、コミュニケーションと言語獲得の支援法と指導課題の設定は多様になりますが、主要な点を示します。

  • (1)聴覚障害については、補聴器・人工内耳を装用して音声と聴覚の活用を促します。視覚障害については、眼鏡、杖、義眼などの適応を検討し、限られた視野で手話・ジャスチャーや、大きめの文字などを使い、保有する感覚を最大に活用します。
  • (2)先天性盲ろう児や全盲ろう児では、乳幼児初期に、とくに歩行・睡眠・摂食・排泄・身辺自立など基本的生活動作・習慣の形成を進めます。養育時には、直接、触れ合い、身振りや実物などの前言語的手段を用いて、人との愛着・交流を楽しめる関係をつくります。歩行・動作・接触等は、環境や事物、人との関係把握に重要であり、大人が積極的に介入して自由な活動を促します。
  • (3)言語シンボルの獲得やコミュニケーション法の形成には、先行して発症した感覚障害の一貫した活用指導が必要です。ろうベース盲ろう児では言語獲得に課題が生じ、実物等の認知から、それを抽象化するオブジェクトキューや身振りサイン、さらに手話へと、段階的に高次のコミュニケーション法を形成します。盲ベース盲ろう児では聞こえていれば、補聴器による聴覚音声の活用支援を第一とします。補聴や視覚活用ができない場合には、年長時期に点字筆記や指点字などへ移行するよう指導を行います。
  • (4)言語獲得によって、小児の思考・記憶・認知など高次の活動が形成されます。そこでコミュニケーション場面で体験や実物を題材に触察などで概念を形成し、サイン等と対応させて生活場面で語彙を獲得等の習得を図ります。視覚障害教育等の特別支援教育で蓄積された教育手法を用いて、文・談話・書記言語へと体系的に言語獲得を進めます。

初期コミュニケーション行動の支援の基本的姿勢

先天性の盲ろう児や全盲ろう児、他障害を重複する児の認知コミュニケーション発達の支援では、まず、大人と子どもが一体となって活動をする段階(a co-active stage)から、大人が子供の横に並んで、活動を共にする段階(the co-operative stage)、さらに、子供が一人で活動をする(the reactive stage)段階へ、徐々に発達を支援し、自立的な行動を形成し、活動の動機付けと幼児の有する外界への興味と学習力を育成していきます。以下の基本的姿勢が指摘されています。

  • (1)できるだけ一緒にいる
    盲ろう児は、視覚と聴覚からの情報が乏しく暗黒の孤独な世界に閉じ込められており、周囲の気配に気づかず、いつも突然、事態が生じています。そこで大人が介在し、窓口となって事態の変化や人物との交流について知らせ、外界を感じ予知させます。そして能動的に察知したり、探索する態度を育みます。保護者とともに様々な経験を体験し、周囲で起きていることの理解を促します。
  • (2)人に感情があることを分からせ、相互の感情交流の姿勢を形成する
    盲ろう児は、周囲の人の表情や音声へのアクセスができずに、他者の感情を感受することが困難です。また、自身の感情も、他者と共有できないと希薄になり消失してしまいます。積極的に子どもの感情を受け止め、大人自身の感情を伝えて、色々な感情がわき起こる豊かな体験を、子どもと共有することが大切です。
  • (3)コミュニケーションの基本的な情報を伝える
    盲ろう児では事態や事象が唐突に起きて不安な気持ちを抱えています。状況理解に必要な情報を分かりやすい方法を一貫して共有し、独自の状況把握の姿勢を形成します。
    • 1) そばにきたことを伝える:腕を軽く叩く等の合図をします。
    • 2) 誰であるかを伝える:固有に印や合図をきめて、会う都度必ずそれを使い知らせます。
      (例:色が見える事例には、同じ色の服を着て見せたり、特徴的な持ち物や髪型、眼鏡、時計等)
    • 3) 活動や移動場所を予告する:ジャスチャーや関連する持ち物などを示して見通しを持たせます。
      (例:プールに行こうと予告する際に、水着を触らせ、泳ぐ身振りに手を添えてさせる等)
    • 4) 遊びを止めて離れることを予め伝え、離れる様子を確認できずに放置されないようにする:近くにいて関わりがないのか、本当にいないのか等が分かるように、伝えます。
    • 5) 子どもに何かを指示したり、離れるときに、その「理由」も伝える:物事や事象の因果関係の理解が進み、納得して行動の切り替えを行いやすくなります。
      (例:「上着を着て」と服を子どもに触らせるだけでなく、「寒いから(体を震わす)」あるいは、「私も着てるから(服を触らせる)、この上着を着よう。」と伝える。子どものそばを離れる時に、買い物袋を持っているところを触らせる。帰ってきたら、買い物袋が食べ物で一杯になっているところを触らせる。)
    • 6) 活動の始まりと終わりを伝える:明確な合図やジャスチャーを決めて行動の切り替えを納得させます。

    (参照: 中澤恵江:盲ろう教育における教員の専門性向上のための研究報告書,2009,一部改変)

コミュニケーション法の移行支援

視覚聴覚二重障害児の成長過程で、一方の障害が進行・発症する場合、使用していたコミュニケーション法から、利用可能な方法への移行が重要であり、障害状況の経過を予測した円滑な指導計画と対応が必要です。手話を使っていた聴覚障害児者であれば、失明後には触手話(手話に触れて読み取る)に移行します。音声言語や読話を使っていた場合には、失明した後には、コミュニケーションに手のひらに文字を書いたり(手書き文字)、指点字、点字タイプでの筆談に移行する指導が必要になります。日本手話で会話をしていた場合には、指点字や手書き文字のような仮名の音韻対応情報の使用は難しいので、触手話が基本となります。

視覚障害児者で重度難聴が生じた後には、人工内耳埋込術や補聴器によって聴覚を活用し、中等度~高度難聴が生じた後には、補聴器によって残存する聴覚を活用し、コミュニケーションの回復を支援します。書記言語(読み書き)については、点字、墨字、拡大文字など残存する視覚障害状況により選択されますが、パソコンのOCRや音声読み上げ機能、点字筆記(ブリスタなどのタイプライターや点字ディスプレイ)などのICTも使用されています。

地域生活の支援

視覚聴覚二重障害児の成長過程での生活上のニーズは、発症時期、障害の程度や組み合わせが異なるので状況も多様ですが、屋内外での地域生活や、周囲の状況把握のための移動支援や社会的資源の利用など、発症後直ちに、そして長期的な展望でリハビリテーション計画が必要になります。

聴覚障害児者で、視覚障害を併発した場合には、それまで聴覚の代替として使用していた読話や手話等に支障を来たし、直ちにコミュニケーションに困難を生じます。視覚による情報入手の制限は日常生活や学校・職業・社会生活を送る上で、移動・状況理解と場面への参加、また精神保健上も極めて深刻な事態を招くことになります。視覚障害に、聴覚障害を併発した場合には、視覚の代替として用いられていた聴覚情報に支障を来たし、同様な状況になります。

視覚聴覚二重障害児者では、生活の遂行の障害は言うまでもなく、外界からの隔絶、地域での孤立、自己喪失、疾病発症、精神保健についても過酷な状況を招くことになります。小児であれば、自己の確立など人格形成に及ぼす影響は大きく、関連職種による早期発見と地域での支援連携の体制化が喫緊の課題といえます。

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