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先天性および若年性の視覚聴覚二重障害の原因となる難病の診療マニュアル(第1版)

スタージ・ウェーバー症候群

疫学

スタージ・ウェーバー症候群1)とは顔面片側のポートワイン斑(図12)、それと同側の側頭葉・後頭葉の脳軟膜血管腫、てんかん、対側の片麻痺、精神発達遅滞、自閉症3)、同側の眼症状(眼瞼・結膜の異常、緑内障、脈絡膜血管腫、脳障害による対側の半盲)を伴う症候群です。年間50,000~100,000出生に1人の発症率と推定されています。性差はありません。本邦での正確な患者数は不明です。近年の本邦における出生数から計算すると年間10~20人の発生となります。よって、0~19歳まででは約300人の患者数と推定されます。本疾患の平均寿命も不詳ですが、成人までを含めるとおおよそ1,000人の患者数が推定されます。予後に影響を与える難治性てんかんや精神運動発達遅滞を有する患者は約50~80%と考えられるため、本邦には500~800人の医療支援を必要とする患者が存在すると考えられます。

原因

明らかな病因は不明ですが、胎生初期の原始静脈叢の退縮不全と考えられています。胎生5~8週に原始静脈叢は静脈系の発生とともに退縮しますが、スタージ・ウェーバー症候群では静脈発生不全があるために原始静脈叢が遺残する事になります。頭蓋内では静脈灌流障害による脳血流低下より、局所神経症状やてんかん発作、精神運動発達遅滞が生じます。顔面を中心とした軟部組織においても静脈系灌流障害により軟部組織の腫脹やポートワイン斑が、眼においても眼圧上昇が生じると考えられます。遺伝子異常としてはGNAQ遺伝子の変異によって細胞増殖が刺激され、かつアポトーシスが抑制されるとする説があります4)

視覚障害の自然歴

  • (1)緑内障
    眼症状で最も重要なものは緑内障です。スタージ・ウェーバー症候群では全体の30-70%に合併するといわれます。緑内障は眼球の内圧(眼圧)が上昇する疾患です。眼圧の正常値は21mmHgまでです。高眼圧により視神経(目でみた情報を脳に伝える神経(図2)が傷害される疾患を緑内障と呼び(図3)、進行性の視野狭窄や視力低下が起こります。スタージ・ウェーバー症候群の緑内障は先天性が6割を占めます。先天性の緑内障を伴えば角膜や眼球自体が拡大します(牛眼)。これは胎児期の眼球は柔らかいので、内圧が高くなると膨らむからです。先天性緑内障では既に高度の視力視野障害を伴っています。後天性の場合は乳幼児期や小児期、青年期に緑内障を発症するので、眼圧や視力・視野等の視機能のチェックが必要ですが、小児の場合や、精神発達遅滞を伴う場合には必ずしも容易ではなく、発症(発見)時既に高度の視野欠損を来してしまっている場合も少なくありません。治療には眼圧を下げる点眼、内服、手術がありますが、スタージ・ウェーバー症候群の場合は薬物・手術などへの反応が不良であり、手術をしてもなお眼圧管理・視機能維持が難しいことが多いといわれます。通常、線維柱体切開術という手術が行われますが、無効例も多くその場合は、緑内障濾過手術やチューブシャント手術が選択されることもあります。

  • (2)脈絡膜血管腫
    脈絡膜血管腫とは眼底にできる血管の異常な塊であり、癌化はしません。スタージ・ウェーバー症候群の20-70%に合併するといわれます。脈絡膜とは光や色を感じる網膜の裏打ちをしている血管に富んだ膜です。血管腫は一般に平坦な腫瘍で大きさは大小さまざまですが、大きいものが多いといわれます。色調はトマトケチャップ様と称される暗赤色が特徴的です。無症状のことが多く、その場合は経過観察のみでよいのですが、黄斑(網膜の中心部)を含めば視力障害を来します。血管腫を形成しないまでも脈絡膜の血流は僚眼(健康な方の眼)より豊富であり、僚眼と比較すると眼底の色調は赤味が強くなっています。血管腫から水分やタンパクが漏れ出せば黄斑部の浮腫(腫れ)や網膜剥離を来し、レーザー治療、放射線治療などが必要となります。また血管腫から出血を起こして視力を障害する場合もあります。

  • (3)その他の眼病変
    片側眼瞼(上下両方が多いが上のみの場合もあり)のポートワイン斑(図1)、結膜発赤、隅角異常(血管新生)などがあります。

聴覚障害の自然歴

難聴を合併することはまれであり、報告例としてR. Bovo5)による33歳女性の進行する一側感音難聴例があるのみでした。この例は内耳道内で肥厚した軟膜が聴神経、内耳動脈を圧迫したためとされています。小児においては中耳炎を反復することが多いようですが、遷延する中耳炎に対してはTubingで対応できており、難聴が問題になることはないという報告があります6)

その他の障害、疾患の自然歴

頭蓋内軟膜血管腫、顔面ポートワイン斑(毛細血管奇形)、緑内障の三所見が重要とされますが、全てが揃う必要はありません。毛細血管奇形を有する組織下で血液うっ滞とそれに伴う虚血変化が起こるため、病変の広い例がより重度の障害を呈することになります。

てんかん発作は75~90%の患者に生じ、その約50%は数種の適切な抗てんかん薬治療を行ってもコントロールができない難治性てんかんです。乳児期に発作を初発しますが、幼児期に発作が軽快する群と難治に経過する群に分かれます。発作型は血管腫部位より推定される焦点発作ですが、動作停止のみなどのわずかな症候であることも多く、注意深い観察が必要です。また一旦発作が起きると重積になる傾向があります。てんかん発作は適切な抗てんかん薬の投与により約50%で抑制が可能です。幼児期から学童期にかけて発作が寛解してくる傾向があるという報告もありますが、原因となっている静脈灌流障害は残存しているため、抗てんかん薬の減薬や中止は慎重に行った方が望ましいです。てんかん発作のコントロールは頭蓋内軟膜血管腫の罹患部位の広さに相関するため、軟膜血管腫の広範囲例では早期の外科治療を行った方が予後は良好になります。両側大脳半球に軟膜血管腫をもつ例に対して、完全に発作を抑制する治療方法は確立されていません。

精神運動発達遅滞は50~80%に見られ、てんかん発作の重症度および軟膜血管腫範囲に比例します。軟膜血管腫に覆われた直下の脳は萎縮をしていることが多く、局所的な機能不全が生じているため、罹患部位が広い程発達遅滞の程度も強くなると考えられます。てんかん発作にともなった発達遅滞か虚血そのものによる症状かの鑑別は重要であり、てんかんに伴い発達遅滞や退行が生じている際には、てんかんの治療を優先させるべきです。知能障害、自閉傾向、行動異常は約80%に見られますが、てんかんに対する治療の他は有効な治療法は報告されていません。教育機関や小児心理士との連携が必要です。思春期以降にも自閉傾向、行動異常、発達障害が残存することが多くの例で見られるため、就労が困難になるなどの社会生活への不適応が生じています。

軟膜血管腫下の脳皮質が虚血に陥るため運動麻痺などの局所神経症状を呈します。症状は脳可塑性により修飾を受けますが、虚血の進行とともに緩序に進行する傾向があります。また、てんかん発作も虚血を進行させるため、局所症状の進行を抑えるためにも発作をコントロールすることが肝要です。

顔面皮膚のポートワイン斑(毛細血管奇形)は、三叉神経第1枝および第2枝領域に生じることが多いです。また、ポートワイン斑がある群では脳内血管腫、知的障害、言語発達遅滞、緑内障の合併が有意に高いと報告されています3)。また両側顔面にポートワイン斑を認める例が約10%あるのに対し、約15%では顔面血管腫を認めない例が存在します。顔面ポートワイン斑を認める部位には軟部組織の腫脹が併存することが多く、口腔内では咬合不全、摂食不全の原因となります。顔面ポートワイン斑は早い治療介入が治療効果に対する良好因子とされます。

眼科診療の注意点

顔面片側のポートワイン斑を認める場合診断は容易です。先天性・後天性の緑内障の管理に加え、脈絡膜血管腫のからの滲出性変化の発症に注意が必要です。緑内障の精査には視野検査が必要ですが、その詳細については前項(アッシャー症候群)を参照ください。

耳鼻咽喉科診療の注意点

特にありません。

その他の障害、疾患の診療の注意点

頭蓋内軟膜血管腫とてんかん焦点診断には客観的な検査が必要になります。軟膜血管腫の有無と脳萎縮や石灰化などの付随所見の有無を確認するためには以下の検査が必要になります。

1)画像検査所見
MRI:ガドリニウム増強において明瞭となる軟膜血管腫、罹患部位の脳萎縮、患側脈絡叢の腫大、白質内横断静脈の拡張
CT:脳内石灰化
SPECT:軟膜血管腫部位の低血流域
FDG-PET:軟膜血管腫部位の糖低代謝
2)生理学的所見
脳波:患側の低電位徐波、発作時の律動性棘波または鋭波

MRI撮影の条件として、ガドリニウム増強を用いたFLAIR像や3D Susceptibility Weighted Imaging(SWI)はそれぞれ軟膜血管腫の範囲や白質内横断静脈の描出に優れています。生後6カ月未満でのMRI検査では適切な条件で撮影しても偽陰性や過小評価される事があり、繰り返し検査を行う必要があります。FDG-PETでは発作後数日に渡り高代謝領域が描出されることが知られており、陽性所見が得られた際には病勢を知る指標になります。

発作間欠期の脳波では棘波や鋭波は出現頻度が低く、罹患領域が低電位となる事のみが記録される事が多いです。そのため、てんかん発作の確定と病態把握にはビデオ脳波同時記録を行うと良いです。発作時の症候では動作停止や呼吸抑制のみといった僅かのものであるため、注意深く観察をする必要があります。またその際の発作波も遅い周波数の律動波が長時間に渡り出現といった特徴的なものが多く見られます。

顔面ポートワイン斑のないスタージ・ウェーバー症候群はMRIなどの画像診断をしない限りには診断にいたりません。同様に小児の視力・視野障害出現時にも頭蓋内の画像診断を必要とします。

てんかん発作症候は軽微で分かりづらい場合があります。てんかん発作の重症度と精神運動発達遅滞は相関するため、進行性の発達遅滞を生じているときには、てんかん発作の存在を疑う必要があります。知能障害、自閉傾向、行動異常は約80%に見られ、てんかん発作がコントロールされた後にも継続、進行することがあります。頭蓋内軟膜血管腫に対する根治的な治療法はなく、臨床的に問題となるてんかんに対する治療が主体です。抗てんかん薬にて発作が抑制されるのは約50%と考えられています。その他の抗てんかん薬に抵抗性の例にはてんかん外科治療が考慮されます。基本的にてんかん焦点は軟膜血管腫下の皮質にあるため、血管腫部位が手術のターゲットです。てんかん発作を抑えることで発達を促すことが主目的であり、その為には脳の可塑性を考慮した積極的な焦点切除術が用いられることもあります。てんかん手術にはその他に脳梁離断術や迷走神経刺激療法といった緩和的治療法も選択に入ります。

顔面ポートワイン斑(毛細血管奇形)に対しては、レーザー治療が用いられています。年少期よりレーザー治療を行った方が、母斑の消退には効果を認めるとされています。数回にわたるレーザー治療を必要とするため、皮膚科専門医、形成外科専門医と相談をして治療計画を組むことが望ましいです。

運動麻痺などに神経症状が長期に渡ることより上下肢の関節拘縮や肢長の左右差が加わることがあり、装具装着やリハビリテーションを要します。

文献

  • 1) Mantelli F, Bruscolini A, ILa Cava M, et al: Ocular manifestations of Sturge-Weber syndrome: pathogenesis, diagnosis, and management. Clin Ophthalmol 2016;10:871-878.
  • 2) Oster AS, Rosa RH Jr: Congenital Retinal Anomalies. Atlas of Ophthalmology, Parrish II RK (eds). Current Medicine Inc; 2000;307-312.
  • 3) Powell S, Fosi T, Sloneem J, Hawkins C, et al: . Neurological presentations and cognitive outcome in Sturge-Weber syndrome.
  • 4) Shirley MD, Tang H, Gallione CJ, et al: Sturge-Weber syndrome and port wine stains caused by somatic mutation in GNAQ. N Engl J Med 2013;368:1971–1979.
  • 5) Bovo R, Castiglione A, Ciorba A, et al: Hearing impairment in the Sturge-Weber syndrome. Eur J Clin Invest 2009;39:837–838.
  • 6) Irving ND, Lim JH, Cohen B, et al: Sturge-Weber syndrome: ear, nose, and throat issues and neurologic status. Pediatr Neurol 2010;43:241-244.

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