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先天性および若年性の視覚聴覚二重障害の原因となる難病の診療マニュアル(第1版)

視覚聴覚二重障害の代表的疾患の遺伝カウンセリングの実際

遺伝カウンセリングとは

日本医学会の「医療における遺伝学的検査・診断に関するガイドライン」によれば、遺伝カウンセリングとは、疾患の遺伝学的関与について、その医学的影響、心理学的影響および家族への影響を人々が理解し、それに適応していくことを助けるプロセスであり、
1)疾患の発生および再発の可能性を評価するための家族歴および病歴の解釈
2)遺伝現象、検査、マネージメント、予防、資源および研究についての教育
3)インフォームド・チョイス(十分な情報を得た上での自律的選択)
およびリスクや状況への適応を促進するためのカウンセリングなどが含まれます1)。同ガイドラインには、遺伝学的検査を行う際には、適切な時期に遺伝カウンセリングを行うことが明記されており、遺伝カウンセリングの重要性が日々高まっています。視覚聴覚二重障害を来す疾患の多くが遺伝性疾患であり、遺伝学的検査がその診断に有用であることから、遺伝カウンセリングの重要性は論を待ちません。本稿では、視覚聴覚二重障害を来す代表的な遺伝性疾患であるダウン症候群およびチャージ症候群を例として、遺伝カウンセリングを行う際の留意点について記載します。

ダウン症候群における遺伝カウンセリング

  • (1)概要
    ダウン症候群とは21番染色体が通常より1本多く存在し、計3本(トリソミー)になることで発症する先天性疾患群です。ダウン症候群は他の染色体異常と比べ生命予後もよく、人種や国家間で大きな差はなく、おおよそ出生児700〜1,000人に1人の割合でみられます。このようにダウン症候群は一般人口に占める頻度が高いため、その遺伝相談、療育相談、健康管理などについて、産婦人科医、小児科医だけではなく一般の医師が様々な相談を受けることもまれではありません。

  • (2)原因
    染色体異常としてのダウン症候群の原因は図1に示すように大きく3つに分類されます。前子のダウン症候群患児がすでに染色体検査を受けている場合、その核型により次子での再発率が異なります。

    文献2)より引用
    1)標準型
    ダウン症候群の大部分を占める標準型は21番染色体が3本ある状態(21トリソミー)です。そのほとんどは、配偶子(父親由来の精子、母親由来の卵子)が形成される減数分裂(46本の染色体が半数の23本になる)の際、何らかのエラーにより片方の配偶子のみに21番染色体が2本とも分配され(染色体不分離)、この配偶子が受精して21番染色体が3本となった受精卵が出生に至ったものです。21トリソミーの95%程度は母親の卵巣での染色体不分離によります。また、その発生は母親の年齢に強く依存しています(表1)が、絶対数では大部分のダウン症候群患児が25〜29歳の母親から生まれています。父親年齢では、55歳を超えると発生頻度が高くなります。

    表1
    母体年齢とダウン症候群出生率
    25歳1/1,350
    30歳1/890
    35歳1/355
    40歳1/90
    45歳1/40
    文献2)より引用
    2)モザイク型
    モザイク型は、正常核型の細胞と21トリソミーの細胞とが1人のダウン症候群患者体内に混在するもので、受精卵の段階では1種の核型であったものが細胞分裂を繰り返すうちに、両者が混在する状態になったと考えられます。この場合、発育とともに正常核型の占める割合が増えてくることがほとんどであり、通常は標準型や転座型と比して症状は軽微です。標準型およびモザイク型の場合、両親の染色体には異常がなく、精子や卵子などを形成する減数分裂時の何らかのエラーが原因と考えられています。これらは基本的に遺伝するものではないため、両親の染色体検査の必要はありません。ただ、標準型ダウン症候群患児の次子におけるダウン症候群の発生率は一般の2〜3倍程度高くなるというデータがあり、これは母体高年齢化によるものか(表1参照)、減数分裂時にエラーを生じやすい要因が両親いずれかにあるのか、その原因については諸説あります。

    3)転座型
    転座とは、染色体の一部が切断され他の染色体と結合した状態です。臨床的にしばしば問題になるのはロバートソン転座であり、短腕の非常に短い端部着糸型の染色体(13、14、15、21、22番染色体)のいずれかにおいて動原体付近で切断が起こり、2本の長腕どうしが結合した状態です。例えば、一方の親が14番染色体と21番染色体のロバートソン転座保有者である場合、児の核型は、①正常、②親と同じロバートソン転座保有者、③21トリソミー、④14トリソミー、⑤21モノソミー、⑥14モノソミーの6通りが考えられますが、④⑤⑥は通常致死的で出生に至らないため、理論上はダウン症候群患児が生まれる確率は1/3となります。しかしながら実際には、21トリソミーの受精卵の出生率が正常核型の受精卵に比べ低いことなどから、次子に再度ダウン症候群患児が生まれる確率は経験的に、母親が転座保有者の場合約10%、父親が保有者の場合約2.5%とされます(例外的に21番染色体ロバートソン転座の場合は100%となります)。

  • (3)再発率についての説明
    ダウン症候群の前子がいる両親に再発の可能性を尋ねられた場合は、まず患児の染色体分析を行い、標準型、モザイク型の場合は母親年齢が35歳くらいまでは約1%(年齢がそれ以上の場合は表1を考慮)、転座型の場合は両親の染色体検査を行い、転座の由来に応じて再発率を答える必要があります(ただし、どちらの親が転座保因者であるかを知りたくないという場合もあり、染色体検査の実施前後の説明には注意が必要です)。

  • (4)医学的な管理

    • 1) 視覚聴覚二重障害
      他稿を参照ください。
    • 2) 先天性心疾患
      頻度が高く重要であり、軽微なものも含めて約66%の児が先天性心疾患を合併します。心室中隔欠損症、心内膜床欠損症、心房中隔欠損症、ファロー四徴症などの頻度が高く、児の生命予後に直結します。
    • 3) 内分泌系
      先天性甲状腺機能低下症はダウン症候群の新生児の1〜10%に認められるとの報告があります。また年長になるに従い甲状腺機能低下症の頻度は高くなり、成人期のダウン症候群に甲状腺ホルモンの検査を行うと、約7%に甲状腺機能低下症を認めます。
    • 4) 整形外科的問題
      環軸関節の不安定性があり、約15%に頚椎の異常が見つかります。就学前に一度は頚椎のX線写真をとり、評価することが重要です。
    • 5) 消化器系
      鎖肛などの消化管の先天的な閉塞が時にみられます。緊急手術が必要となり、大部分は新生児期に発見されます。
    • 6) 造血器系
      ダウン症候群に白血病を合併しやすいことはよく知られています。その頻度は一般小児の約15〜50倍という記載が多いですが、ダウン症候群全体としては約1%にすぎません。新生児期に一過性骨髄増殖症をきたす症例も10%程度あります。

  • (5)身体・精神の発達
    一般に、ダウン症候群患児の運動機能の発達は健常児に比べ遅れますが、大部分の児は一人歩きができるようになります。身長や体重の増加もやや遅れがちです。近年の日本人ダウン症候群患者の身長は、18歳男子で平均150cm前後、女子で145cm前後と報告されています。体重に関しては近年肥満が問題になっており、成人期以降のダウン症候群の人々では肥満の頻度が高く、高血圧、糖尿病、高脂血症などの生活習慣病の早期発症が危惧されています。平均寿命は1996年の報告で55歳ですが、83歳以上生存している例もあります。精神発達遅滞は、その程度に個人差があるもののほぼ必発です。知能指数(IQ)は30〜70の間であることが多いです。また性格には特徴があり、人なつこい、物まねが好き、陽気で社交的と言われています。その反面、主に思春期以降に頑固さが顕在化する場合も多く、気分の落ち込みや退行もしばしば認められます。

  • (6)病名告知について
    原則として、ダウン症候群であるという告知は父母両方に対して同時に行われるべきです。祖父母等も含めた家庭環境にも充分配慮し、より早く子育てに前向きに関われるような安定的な精神環境を作り出すことも重要な課題です。また、染色体不分離はすべての人に起きている普通のことで、それがたまたま21番染色体だったこと、21トリソミー受精卵の大部分が流産するのに、胎児に流産せずに育つだけの生命力があり、出生まで立派に育て上げたからこそ、この児がいるのだという事実を伝えるとよいでしょう。

チャージ症候群における遺伝カウンセリング

  • (1)概要
    チャージ症候群とは眼コロボーマ(C)、心疾患(H)、後鼻孔閉鎖(A)、成長障害と発達遅滞(R)、外性器低形成(G)、耳介の変形と難聴(E)の頭文字を取った疾患名です。必ずしも全症状が揃うわけではなく、これらの多くをもつことを特徴とします。1〜2万人に1人の割合で出生すると推定されていますが、未診断例も相当数存在すると思われます。

  • (2)原因
    8q12.1-q12.2に存在するCHD7遺伝子のハプロ不全によって発症し、常染色体優性遺伝形式を取ります。CHD7遺伝子の病的バリアントは典型例の90%、部分症状を持つ疑い例の60%以上で検出されます。塩基配列解析でバリアントが同定されることが多いですが、陰性例ではMLPA法やマイクロアレイ法による欠失の解析も重要です。ほとんどが新生突然変異による孤発例であり、同胞再発率は経験的に1-2%ですが、性腺モザイクに留意する必要があります。ごく軽症の家族例も報告されているので、両親に軽微な症状(外耳奇形や無嗅覚症)がないか注意します。

  • (3)医学的な管理
    成長、発達面での問題が予見されるため、早期介入と継続的なフォローが必要です。視覚聴覚二重障害の評価は特に幼少期では困難であり、知的発達が過小評価されている場合も多いです。

    • 1) 視覚聴覚二重障害
      他稿を参照してください。
    • 2) 先天性心疾患
      軽微なものも含めて約75〜85%の児が先天性心疾患を合併します。心室中隔欠損症、動脈管開存、ファロー四徴症などの頻度が高いです。
    • 3) 食道閉鎖・気管食道瘻
      約15〜20%に発生し、出生後早期に摂食障害および呼吸困難を悪化させる原因となります。早期診断と誤嚥の予防が重要です。
    • 4) 顔面神経麻痺
      約50%に認められ、特に両側性の顔面神経麻痺は表情の欠如を招き、対人コミュニケーション障害の原因となります。
    • 5) 尿生殖器異常
      約50%〜60%に停留精巣、尿道下裂、陰唇低形成、二次性徴の欠如を認めます。
      外表形態所見としては、顔面の非対称性、耳介の低形成、第2-3指間に入り込む手掌横線(hockey stick sign)が特徴的であり、診断に有用と思われます。

Webページ・文献

  • 1) 日本医学会「医療における遺伝学的検査・診断に関するガイドライン」,
    http://jams.med.or.jp/guideline/genetics-diagnosis.pdf
  • 2) 新川詔夫(監修):遺伝カウンセリングマニュアル 改訂第2版, 南江堂;2003

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