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先天性および若年性の視覚聴覚二重障害の原因となる難病の診療マニュアル(第1版)

クルーゾン症候群

疫学

クルーゾン症候群は、アペール症候群、ファイファー症候群、アントレー・ビクスラー症候群などとともに、症候性頭蓋縫合早期癒合症に含まれ、頭蓋変形、頭蓋内圧亢進、眼球突出などの他、上気道狭窄、中顔面低形成性などの多彩な症状を認めます。一方で、合指・趾症は伴いません。常染色体(顕性遺伝)(ときに孤発性)で、FGFR2変異が高率に認められるFGFR関連頭蓋骨縫合早期癒合症候群の代表的疾患です1)。約5%に黒色表皮症を伴うが、こうした症例ではFGFR3遺伝子の変異が同定されています2)。本疾患は、およそ出生60,000人あたり1人といわれ3)、性差は等しいです。

原因

クルーゾン症候群は頭蓋縫合早期癒合症のひとつです。主にfibroblast growth factor receptor2(FGFR2)の遺伝子異常が原因であり、変異はIgIIIa/cドメインに集中しています。常染色体優性遺伝、もしくは孤発例として発症します。詳細な発症の機序は不明です4)

視覚障害の自然歴

顔面の形成異常にともない、眼間乖離(左右の目の間が広い)、眼球突出が見られます。これにより、斜視および両眼視機能異常が生じます。また、極度の眼球突出により角膜障害を来すことがあります。さらに、頭蓋内圧亢進によって視神経障害を生じ、視力低下、色覚異常等を来す可能性があります5)、6)

聴覚障害の自然歴

本疾患の55%に難聴が認められるとされています3)。難聴は主として伝音難聴で、耳小骨形態異常(固着、融合、低形成)、卵円窓閉鎖、鼓室内骨性腫瘤、中耳貯留液、外耳道閉鎖、鼓膜萎縮などが認められます7)、8)。感音難聴や混合性難聴の報告9)、10)もありますが、本疾患に特異的であるかは明らかではありません。難聴の程度としては、通常軽度から中等度の伝音難聴です11)

眼科診療の注意点

眼球突出については眼球突出度計で定量化し、また眼球運動異常、眼位異常、立体視異常については、プリズムテスト、大型弱視鏡検査、立体視テスト等によって定量的な評価を行います。ただし、患者が乳児や幼児の場合は定量的な検査は困難です。また二次的な障害である角膜障害や、視神経異常による視機能低下については、それぞれ細隙灯検査による角膜障害の確認、眼底検査による乳頭浮腫の確認を行います。また、視力検査、視野検査等によって視機能を評価します。ただし、患者が乳児および幼児の場合は正確な検査が困難である場合があり、多面的な検査結果によって治療の必要性を評価します。治療として、重度の眼球突出に対しては顔面形成手術が、また斜視に対しては斜視手術が行われます。なお視覚障害については、良好な方の眼の矯正視力が0.3未満の場合に重症と認定され、指定難病(181)の対象となります。

耳鼻咽喉科診療の注意点

本疾患は指定難病です。重症度分類として、視覚障害は良好な眼の矯正視力が0.3未満、聴覚障害は70dBHL以上の高度難聴が対象です。同時に小児慢性特定疾病にも指定されており、運動障害、知的障害、意識障害、自閉傾向、行動障害(自傷行為又は多動)、けいれん発作、皮膚所見、呼吸異常、体温調節異常、温痛覚低下、骨折又は脱臼のうち一つ以上の症状が続く場合が該当基準です。耳鼻咽喉科医は聴覚評価の他、上気道評価を行い、呼吸障害や睡眠時無呼吸の合併にも留意する必要があります。気管狭窄による呼吸障害に対して、陽圧呼吸療法や気管切開による呼吸管理が必要となることもあります。

文献

  • 1) Agochukwu NB, Solomon BD, Muenke M: Impact of genetics on the diagnosis and clinical management of syndromic craniosynostoses. Child's Nerv Syst 2012; 28:1447–1463.
  • 2) Cunningham ML, Seto ML, Ratisoontorn C, et al. Syndromic craniosynostosis: from history to hydrogen bonds. Orthod Craniofac Res. 2007; 10: 67-81.
  • 3) Gopal KS, Sundaram MS, Kumar PM: Crouzon syndrome - a case report of rare genetic disorder with review of literature. SAJ Case Report 2017;4:1–4.
  • 4) 難病情報センター, http://www.nanbyou.or.jp/entry/4673, 参照(2019-06-23)
  • 5) Sharma N, Greenwell T, Hammerton M, et al: The ophthalmic sequelae of Pfeiffer syndrome and the long-term visual outcomes after craniofacial surgery. J AAPOS 2016;20(4):315-319.
  • 6) Asaad M, Goyal S, Klement KA, et al:Improvement of Color Vision Following Posterior Cranial Vault Distraction for Crouzon Syndrome. J Craniofac Surg 2018;29(4):868-870.
  • 7) Agochukwu NB, Solomon BD, Muenke M: Hearing loss in syndromic craniosynostoses: introduction and consideration of mechanisms. Am J Audiol 2014;23(2):135-141.
  • 8) Gorlin RJ, Toriello HV, Cohen MM Jr: Hereditary Hearing Loss and Its Syndromes. Oxford University Press 1995;170-173.
  • 9) Corey JP, Caldarelli DD, Gould HJ: Otopathology in cranial facial dysostosis. Am J Otol 1987;8(1):14-17.
  • 10) Bergstrom L: Congenital and acquired deafness in clefting and craniofacial syndromes. Cleft Palate J 1978;15:254-261.
  • 11) de Jong T, Toll MS, de Gier HH, et al: Audiological profile of children and young adults with syndromic and complex craniosynostosis. Arch Otolaryngol Head Neck Surg 2011;137:775-778.

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