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先天性および若年性の視覚聴覚二重障害の原因となる難病の診療マニュアル(第1版)

トリーチャー・コリンズ症候群

疫学1)

第1鰓弓症候群。発生学的に第1鰓弓より耳介、外耳道、鼓膜、耳小骨のツチ骨・キヌタ骨、頬骨、下顎骨、下顎関節が生じます。本症候群では第1鰓弓の発生の阻害によって生じる両側の小耳症・外耳道閉鎖症、伝音難聴、頬骨と下顎の低形成、顎関節の低形成を主とする顔面の奇形を認めます(図1)。1846年にThomsonが第1例目を報告し、1900年にTreacher Collinsが2例まとめて報告しました。その50年後の1949年にFranceschetti & Kleinによる詳細な報告の中で“下顎・顔異骨症”と呼びました。以後Franceschetti-Klein症候群とも呼ばれています。トリーチャー・コリンズ症候群の有病率は出生10000人から50000人に1人とされています2)。わが国では5万人に1人の頻度で出生し男女差はありません。

図1 外耳道閉鎖症における下顎頭の位置

a:正常、b:外耳道閉鎖症、c:Treacher Collins症候群(頬骨弓の形成不全)

外耳道閉鎖症における下顎頭の位置

原因

トリーチャー・コリンズ症候群(Treacher Collins syndrome)は、頭蓋顔面の発育障害による両側対称性の耳介・下顎の形成異常を特徴とし、その他の頭頸部異常を合併する遺伝性疾患です(Orphanet Japan; Orpha 番号:ORPHA861; National Institute of Health, National Center for Advancing Translational Sciences: 9124)3)、4)

トリーチャー・コリンズ症候群の主な原因遺伝子は、TCOF1、POLR1C、POLR1Dであり、TCOF1の変異が80%以上で検出されます。TCOF1またはPOLR1D遺伝子病的バリアントにより発症する場合の遺伝形式は常染色体顕性(優性)であり、POLR1C遺伝子病的バリアントにより発症する場合は常染色体潜性(劣性)の遺伝形式となります。約60%が新規突然変異から生じているのに対し、その他の顕性(優性)遺伝形式の症例は罹患親からの遺伝が原因と考えられています。

視覚障害の自然歴

眼瞼裂斜下(downslanting palpebral fissures)、下眼瞼コロボーマ、涙器異常、眼瞼下垂、睫毛内反、斜視、眼振、屈折異常(遠視、乱視)、眼表面の二次的障害等の重症度により視力障害の程度が異なります4)

聴覚障害の自然歴

トリーチャー・コリンズ症候群の聴力障害は先天性の外耳道閉鎖、小耳症のような奇形に伴う伝音難聴が主であるため進行しません。

その他の障害、疾患の自然歴5)

顔面は眼瞼裂斜下、下眼瞼のノッチ状欠損、頬骨低形成、下顎骨低形成を伴うため、Bird様顔貌とも言われます。口腔・咽頭は口蓋裂あるいは高口蓋、不整咬合を伴うことが多くみられます。喉頭は気道狭窄を伴うことがあります。知的には正常範囲ですが5%に知的障害があります。

眼科診療の注意点

眼科的管理については症例により症状が様々であるため、成長段階に合わせた、診療科横断的なチームによる集約的管理・治療が必要になります。特に、眼瞼手術には、眼瞼再建術、眼瞼挙上、眼瞼内反整復術等、眼表面の再建に関わる手術が含まれ、複数または段階的な処置を必要とする場合もあります。アメリカ眼科学会(American academy of ophthalmology)では、トリーチャー・コリンズ症候群の眼科的管理について以下のように記載しています。3カ月まで:追視等を評価し、顔貌、眼瞼、前眼部観察。3カ月から2歳:顔貌、眼球運動、眼瞼、前眼部、眼底等の継続的眼科検査(1年に一度)。2歳から12歳:継続的眼科検査に加えて、頬骨/眼窩、眼瞼形成手術を考慮する。13歳から18歳:継続的眼科検査に加えて、頬骨/眼窩、眼瞼形成、骨移植手術を考慮する。

耳鼻咽喉科診療の注意点6)

気導狭窄のある場合は気管切開、小耳症・外耳道閉鎖に対しては生後早い時期から骨導補聴器を装用します。早期からの補聴器による聴覚活用が言語習得のため重要です。外耳道狭窄例においては軟骨導補聴器、手術により埋込型骨導補聴器(BAHA)を活用することでも良好な聴覚活用ができます。耳鼻咽喉科と形成外科で連携して耳介および外耳道の形成手術を検討します。

その他の障害、疾患の診療の注意点

臨床的診断は難病研究資源バンクより公開された診断基準に基づき行われます。頬部低形成眼瞼裂斜下、小顎症、小耳症・外耳奇、下眼瞼コロボーマ、遺伝学的検査(TCOF1、POLR1D、POLR1C)が診断に有用となります。鑑別診断はゴールデンハー症候群、ネイガー症候群、顎顔面異形成となり、TCOF1、POLR1C、POLR1Dにおける病的バリアントの存在が確定診断に役立ちます。出生前診断は家系内で病的バリアントが同定されれば、絨毛膜検体(CVS)および羊水の分子遺伝学的解析により出生前診断が可能であり、着床前検査も可能です。出生前超音波検査では、典型的な顔面の形態異常と両側性の耳介異常が判明することがあります。顕性(優性)、潜性(劣性)の遺伝形式が存在し、表現度が多様であることから、遺伝カウンセリングは複雑となり、集学的な出生前診断チームと協議すべきです。口蓋裂を合併する場合は早期の年齢で口蓋形成術を行います。咬合不全に対しては歯科矯正を行います。特徴のある顔貌のため、幼少期よりいじめの対象になることがあり、学校教育上支援が必要です。思春期、就職、結婚などをめぐって精神的に困難に直面することが少なくなく、社会の理解と支援が必要です7)

文献

  • 1) 梶井正、黒木良和、新川詔夫監:新 先天奇形症候群アトラス 改訂第2版、南江堂;2015: 164-165.
  • 2) Kadakia S, Helman SN, Badhey AK, et al: Treacher Collins Syndrome: the genetics of a craniofacial disease. Int J Pediatr Otorhinolaryngol 2014;78(6):893-8.
  • 3) Plomp RG, van Lieshout MJ, Joosten KF, et al; Treacher Collins Syndrome: A Systematic Review of Evidence-Based Treatment and Recommendations. Plast Reconstr Surg 2016;137(1):191-204.
  • 4) Thompson JT, Anderson PJ, David DJ: Treacher Collins syndrome: protocol management from birth to maturity. J Craniofac Surg 2009;20(6):2028-2035.
  • 5) Kaga K, Takegoshi H, Yamasoba T, et al: Aplasia of zygomatic arch and dislocation of temporomandibular joint capsule in Treacher-Collins syndrome: -three dimensional reconstruction of computed tomographic scans. Int J Pediatir Otorhinolaryngol, 2003;67(11):1189-1194.
  • 6) 加我君孝:Treacher Collins症候群の診断と医療的ケアと社会的支援. 平成29年度厚生労働科学補助金(H28-難治等(難)-一般-005)
  • 7) R. J. Palacio: Wonder. Knopf Books for Young Readers 2012.

Webページ

  • 1) Orphanet Japan, トリーチャー・コリンズ症候群,
    https://www.orpha.net/data/patho/Pro/other/TreacherCollinsshokogun_JP_ja_PRO_ORPHA861.pdf
  • 2) National Institute of Health, National Center for Advancing Translational Sciences, Treacher Collins syndrome,
    https://rarediseases.info.nih.gov/diseases/9124/treacher-collins-syndrome
  • 3) 難病研究資源バンク トリーチャーコリンズ症候群,
    https://raredis.nibiohn.go.jp/malformation/diagnostic_criteria/daiagnostic_criteria_161229_17.pdf
  • 4) American academy of Ophthalmology EYE Wiki, Treacher-Collins syndrome,
    https://eyewiki.org/Treacher-Collins_syndrome

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