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先天性および若年性の視覚聴覚二重障害の原因となる難病の診療マニュアル(第1版)

小児神経科における視覚聴覚二重障害の代表的疾患と診療

コケイン症候群

疾患概念

コケイン症候群(Cockayne syndrome, CS)はCockayneが1936年に難聴と精神発達遅滞、小頭、低身長、くぼんだ眼、冷たい手足、親しみやすい性格、視神経萎縮と網膜色素変性症を有する姉弟を発表したのが最初です。紫外線性DNA損傷の修復システム、特にヌクレオチド除去修復における転写共益修復(転写領域のDNA損傷の優先的な修復)の機能不全が関連する常染色体劣性遺伝性疾患です。関連する遺伝子としてはERCC8(excision repair cross-complementing group)、およびERCC6が見いだされましたが、CSの臨床的多様性とは必ずしも関連しません。DNA修復機構の破綻と酸化ストレスの関与、微小血管障害説、最近ではオートファジーの関与などが神経変性の機序として考えられています。

疫学

日本におけるCS発生頻度は100万出生あたり2.77人(95%信頼区間2.19-3.11)とされています1)。西ヨーロッパでの疫学調査でも同様の発生頻度が報告されており人種差は少ないかも知れません。

自然経過

中枢神経系と末梢神経を病変の場とし、多彩な症状が進行性に出現します。重症度と発症年令により3病型(I型(古典型)、II型(先天性)、III型(遅発型))に分けられますが、最も多いI型では成長障害、紫外線過敏、難聴、窪んだ眼に代表される顔貌の特徴、足関節拘縮、精神遅滞、CT上の基底核石灰化が90%以上に認められ、網膜色素変性、白内障、視神経萎縮などによる視力障害はこれらに続きます。聴覚障害は両側性であることが多く、感音性、伝音性いずれも認めます。難聴は新生児期には既に2割で認め、10才までに約8割で認めます。早期からのスクリーニングが重要です。補聴器の装用が奏効することもあり、少数ですが人工内耳手術を受けている患者もいます。白内障も両側性であり、4才までには80%以上の患者に認めます。眼鏡の適応を含めた眼科的フォローアップも早期から行うべきです。最も多いI型(古典型)では10代中盤まで自力移動ができなくなることが多く、腎不全、呼吸器感染、心不全などで死亡することが多いです2)、3)、4)

診断

臨床診断は特徴的顔貌や低身長など上記徴候に注目すれば困難ではありません。

診療の注意点

根本的な治療法はなく、対症療法が全てですが、腎不全の進行が10才前から緩徐に見られることも多く、腎機能のフォロー、高尿酸血症と高血圧対策、経口が進まない場合の早期の経管(胃瘻を含む)による栄養改善が重要です4)。いずれ見えない、聴こえない、歩けないという高度重複障害の状態に陥る疾患であり、細かいケアが必要とされます。

患者家族会および研究会

  • (1)日本コケイン症候群ネットワーク5)
    患者家族の交流と疾患概念の普及のため毎年勉強会や集いを開催しています。

  • (2)コケイン症候群研究会6)
    平成21-23年度に稀少難病コケイン症候群の我が国における診療実態の把握と基礎研究および臨床研究を総合的に行い、診断、ケア、治療指針の作成をめざして厚労省研究班が組織されました。本研究会は班会議終結を受けて名称を変えてHPによる本症候群に関する情報公開を引き続き行っています(現在久保田が主宰)。

Webページ・文献

  • 1) Kubota M, Ohta S, Ando A, et al: Nationwide survey of Cockayne syndrome in Japan: its incidence, clinical course and prognosis. Pediatr Int 2015;57(3):339-347.
  • 2) 久保田雅也:コケイン症候群, 先天代謝異常症候群(第2版)上-病因・病態研究、診断・治療の進歩- V DNA修復障害.日本臨床 別冊. 日本臨床社;2012:645-650頁.
  • 3) 久保田雅也:コケイン症候群, 神経症候群(第2版)III-その他の神経疾患を含めて- Ⅶ先天代謝異常6.DNA修復障害.日本臨床 別冊. 日本臨床社;2014:654-659頁.
  • 4) 太田さやか, 久保田雅也:常染色体劣性遺伝疾患 (Cockayne症候群), 小児科ケースカンファレンス. 小児科診療 2017:80(suppl):13-16.
  • 5) 日本コケイン症候群ネットワーク, http://www.jpcsnet.com/, 参照(2019-09-20)
  • 6) コケイン症候群研究会, http://www.cockayneresearchcare.jp/, 参照(2019-09-20)
ミトコンドリア病(慢性進行性外眼筋麻痺、chronic progressive external ophthalmoplegia:CPEO)

疾患概念

ミトコンドリア病とは、細胞内ミトコンドリアの機能低下、特にエネルギー産生能が障害され、臨床症状が出現する疾患の総称です。多臓器にわたる多彩な症状がみられるのが特徴ですが、末梢性、中枢性の視聴覚障害をきたしうる疾患です。この中で視聴覚障害の頻度の高い慢性進行性外眼筋麻痺、chronic progressive external ophthalmoplegia (CPEO)を取り上げます1)

疫学

大規模な疫学調査はありませんが、2002年の日本における疫学調査では神経筋疾患を主徴とするミトコンドリア病のうちCPEO/KSSはMELAS(Mitochondrial myopathy, Encephalopathy, Lactic Acidosis, Stroke-like episodes)の31.5%に続いて2番目に多く21.5%におよびます。

自然経過

CPEOは慢性で緩徐進行性の外眼筋麻痺、四肢筋力低下、小脳性運動失調、感音性難聴、網膜色素変性症を特徴とします。カーンズ・セイヤー症候群(KSS)は、CPEOと同一疾患であり、進行性外眼筋麻痺、網膜色素変性症、心伝導障害を3徴とする。外眼筋のみの異常にとどまり症状の進行があまり無い軽症型もありますが、全身性の退行性変化を伴う重症型があります。低身長、糖尿病、副甲状腺機能低下などの内分泌症状、けいれん、錐体路症状、錐体外路症状、末梢神経障害、消化管症状(下痢、便秘)、腎障害(バーター症候群、ファンコーニ症候群)、視神経萎縮などを認めることもあります。

診断

診断は中枢神経症状,骨格筋症状,心症状など比較的頻度の高い多彩な症状から疑い、頭部MRI、血液・髄液の乳酸・ピルビン酸の高値を参考にミトコンドドリアDNA、核DNAの精査を行いますが、筋生検による分子遺伝学,病理学,生化学的方法が最終的に必要となることが多いです。典型的なCPEOのほとんどは、ミトコンドリアDNAの単一大欠失を有します。

診療の注意点

治療の基本は各臓器症状に対する対症療法です。ミトコンドリア内の代謝経路では、各種のビタミンが補酵素として働いており、ナイアシン、B1、B2、リポ酸などが用いられます。コエンザイムQ10の効果は不明ですが、使用されることが多いです1)

視聴覚障害の評価とフォローアップは患者家族のQOL改善のために的確に行う必要があります。難聴に対する補聴器、人工内耳、視力障害に対する眼鏡装用、心伝導ブロックに対するペースメーカー装着など対症療法が有効な臨床症状が多いです。生命に関わる重度の徴候を有するため視聴覚機能評価の優先順位は下がりがちですが、眼科、耳鼻科等との連携は重要です。

Webページ・文献

  • 1) ミトコンドリア病ハンドブック 難病情報センター 2019年9月20日参照
    http://www.nanbyou.or.jp/upload_files/mt_handbook.pdf

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