視覚聴覚二重障害の医療(盲ろう,視覚聴覚重複障害)盲ろう医療支援情報ネット

厚生労働科学研究費補助金(難治性疾患政策研究事業)
日本医療研究開発機構(AMED)(難治性疾患実用化研究事業)

ホーム 診療マニュアル > ファイファー症候群

先天性および若年性の視覚聴覚二重障害の原因となる難病の診療マニュアル(第1版)

ファイファー症候群

疫学

ファイファー症候群はアペール症候群、クルーゾン症候群、アントレー・ビクスラー症候群などとともに、症候性頭蓋縫合早期癒合症に含まれ、頭蓋骨縫合早期癒合、短頭症、顔面中部低形成、幅広く反った母指、大きな爪先、皮膚性合指症(第2・3指が多い)などを認める疾患です1)。本疾患は臨床症状に基づき、3つのタイプに分けられています。

1型:症状は軽度で、短頭症、顔面中部低形成、手指やつま先の異常などに留まり、知能も正常で、一般に予後は良好です。
2型:クローバーリーフ頭蓋、重度の眼球突出、嘴状鼻、耳介低位、手指やつま先の異常、肘の強直症または骨癒合、発達遅滞、神経性合併症などから成ります。
3型:2型と似ているがクローバーリーフ頭蓋は伴いません。常染色体性優生遺伝である本疾患の頻度は10万の出生あたり1人と言われており2)、本邦では年間10人に満たない程度と推測されます。

原因

本疾患は常染色体優性遺伝により、FGFR1遺伝子またはFGFR2遺伝子の変異が、ファイファー症候群の原因となります。1型はFGFR1およびFGFR2遺伝子変異が、2型および3型ではFGFR2遺伝子変異が関連します。多くはFGFR2遺伝子(染色体10q26.13上)変異が原因であり、FGFR1遺伝子(染色体8q11.23上)変異によるものは1型のごく一部です。FGFR2遺伝子変異は主にFGFR2のIgIIIドメインに集中しています。FGFR1の変異としてPro252Argが認められています。常染色体優性遺伝、もしくは孤発例として発症します。詳細な発症の機序は不明ですが3)、FGFR遺伝子変異によって、線維芽細胞増殖因子受容体(FGFR)構造に異常を来たし、その結果FGFシグナル伝達が持続的に活性化し、骨芽細胞の分化が誘導され、縫合が早期骨化することで癒合します4)

視覚障害の自然歴

顔面の形成異常にともない、眼間乖離(左右の目の間が広い)、眼球突出が見られます。これにより、斜視および両眼視機能異常が生じます。また、極度の眼球突出により角膜障害を来すことがあります。さらに、頭蓋内圧亢進によって視神経障害を生じ、視力低下、色覚異常等を来す可能性があります5)、6)

聴覚障害の自然歴

多くは伝音難聴であり、本疾患の92%に聴覚障害が合併するとの報告があります7)。聴覚障害の病態として、耳小骨形態異常(融合や低形成、アブミ骨固着を含む)、中耳または内耳の形態異常、外耳道閉鎖などが挙げられます7)。耳管機能不全などに伴い反復する中耳感染も伝音難聴の原因となります。感音難聴は稀ですが、FGFR遺伝子変異により脳神経や内耳形成に影響した場合には感音難聴を認めることもあります8)

眼科診療の注意点

眼球突出については眼球突出度計で定量化し、また眼球運動異常、眼位異常、立体視異常については、プリズムテスト、大型弱視鏡検査、立体視テスト等によって定量的な評価を行います。ただし、患者が乳児や幼児の場合は定量的な検査は困難です。また二次的な障害である角膜障害や、視神経異常による視機能低下については、それぞれ細隙灯検査による角膜障害の確認、眼底検査による乳頭浮腫の確認を行います。また、視力検査、視野検査等によって視機能を評価します。ただし、患者が乳児および幼児の場合は正確な検査が困難である場合があり、多面的な検査結果によって治療の必要性を評価します。治療として、重度の眼球突出に対しては顔面形成手術が、また斜視に対しては斜視手術が行われます。なお視覚障害については、良好な方の眼の矯正視力が0.3未満の場合に重症と認定され、指定難病(183)の対象となります。

耳鼻咽喉科診療の注意点

本疾患は指定難病です。重症度分類として、視覚障害は良好な眼の矯正視力が0.3未満、聴覚障害は70dBHL以上の高度難聴が対象となります。予後は重症度と外科的治療に依存します。1型は比較的予後良好で、2型および3型は予後不良です。予後因子としては、水頭症、小脳扁桃下垂、脊髄空洞症、環軸椎脱臼、上気道閉塞、喉頭気管奇形などが挙げられます。気管形態異常を伴う場合は気管切開が必要になりますが、気管が硬いため気管カニューレの選択が難しく、気道管理にも注意が必要です。

Webページ・文献

  • 1) Tokumaru AM, Barkovich AJ, Ciricillo SF, et al: Skull base and calvarial deformities: association with intracranial changes in craniofacial syndromes. AJNR Am J Neuroradiol 1996;17:619-630.
  • 2) Herman TE, Siegel MJ: Pfeiffer syndrome, type II. J Perinatol 2001;21:565-567.
  • 3) 難病情報センター, http://www.nanbyou.or.jp/entry/4675, 参照(2019-06-23)
  • 4) Tanimoto Y, Yokozeki M, Hiura K, et al: A soluble form of fibroblast growth factor receptor 2 (FGFR2) with S252W mutation acts as an efficient inhibitor for the enhanced osteoblastic differentiation caused by FGFR2 activation in Apert syndrome. J Biol Chem 2004;279:45926-45934.
  • 5) Sharma N, Greenwell T, Hammerton M, et al: The ophthalmic sequelae of Pfeiffer syndrome and the long-term visual outcomes after craniofacial surgery. J AAPOS 2016;20(4):315-319.
  • 6) Asaad M, Goyal S, Klement KA, et al: Improvement of Color Vision Following Posterior Cranial Vault Distraction for Crouzon Syndrome. J Craniofac Surg 2018;29(4):868-870.
  • 7) Agochukwu NB, Solomon BD. Muenke M: Hearing loss in syndromic craniosynostoses: introduction and consideration of mechanisms. Am J Audiol 2014;23:135-141.
  • 8) Desai U, Rosen H, Mulliken JB, et al: Audiologic findings in Pfeiffer syndrome. J Craniofac Surg 2010;21:1411-1418.

ページ先頭へ