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先天性および若年性の視覚聴覚二重障害の原因となる難病の診療マニュアル(第1版)

スティックラー症候群

疫学

発症頻度は1/10000人と推定されています1)。コラーゲン遺伝子の異常によるもので、常染色体優性・劣性遺伝形式をとり、家族内および家族間で多彩な臨床症状を呈します1)。1967年にSticklerらが古典的スティックラー症候群1型(OMIM#108300)を報告しました。スティックラー症候群の75%はSTL1で、特徴は平坦な顔面中央部、口蓋裂、網膜剥離を伴う高度近視、難聴、脊椎骨端異形成に伴う関節症、軽度の低身長や一部マルファン様体型です。25%は2型で顔面中央低形成、上向きの鼻孔、下顎低形成、感音難聴(40%)関節痛、軽度近視を認め、低身長は伴いません。3型は顔面中央低形成が高度で低身長、大きな骨端を特徴とします。さらに4型、5型、6型の報告もあります2)。Robinシークエンス(小下顎に起因する舌の後方転位による口蓋形成異常や上気道閉塞)をきたす原因の1/3程度が本症候群です3)

原因と分類

Stickler症候群は、原因遺伝子によってタイプが分類されています。STL1はCOL2A1遺伝子のヘテロ接合変異によって引き起こされ、Stickler症候群の大部分にあたります。STL1患者の52%に難聴を認め、その大多数が感音難聴で、高音域にのみ軽度の聴覚障害を認めます。難聴の進行については生物学的な加齢性変化とほぼ同様です。外有毛細胞の機能不全による感音難聴であることが示唆されています。伝音難聴や混合難聴は少数で、主に幼小児が多く、口蓋裂合併例や耳管機能不全症例に認めやすく中耳の状態による影響も示唆されています。
STL2(COL11A1)と STL3(COL11A2) の難聴有病率は69% から 83% と推定されています。その多くは低周波および中周波で軽度から中等度、高周波で中等度から重度の難聴です。STL1に比べ難聴が顕著であり、蓋膜の異常による進行性難聴です。
STL4(COL9A1)、STL5(COL9A2)、STL6(COL9A3)の難聴も、低周波で軽度から中等度、高周波で重度の難聴を示し、蓋膜の異常による進行性難聴を呈します。

視覚障害の自然歴

進行性の強度近視、硝子体変性、裂孔原性網膜剥離を生じ、若年性の白内障や緑内障を呈する症例もあります。網膜剥離が50%と高頻度で生じ、発症平均年齢は10歳代前半ですが年齢分布は幅広く、時に巨大網膜裂孔が原因となります。

聴覚障害の自然歴

進行性感音難聴がSTL1に60%、STL2に90%認めます1)。STL2では、中等度から重度の進行性難聴を呈します3)

眼科診療の注意点

家族性に網膜剥離を起こしやすい疾患であり、両眼性の発症リスクが高いため、定期的、長期的な眼底検査を行う必要があります。第2子以降は幼少期からの眼底検査を行うべきです1)。また、屈折異常に対しては眼鏡装用による矯正を行います。

耳鼻咽喉科診療の注意点

早期より聴力精査を進め、進行性難聴を呈すことから慎重な経過観察を要します。

文献

  • 1) 知念安紹:Stickler症候群. 小児科臨床 2009;90:suppl:66.
  • 2) Frederic R. E. Acke * and Els M. R. DeLeenheer, Hearing Loss in Stickler Syndrome: An Update., Genes (Basel). 2022 Sep 1;13(9):1571. doi: 10.3390/genes13091571. PMID: 36140739; PMCID: PMC9498449.
  • 3) 眼科診療プラクティス25 眼と全身病ガイド. 臼井正彦編,文光堂;1996:261頁.

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