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先天性および若年性の視覚聴覚二重障害の原因となる難病の診療マニュアル(第1版)

ゴールデンハー症候群

疫学

主として第1鰓弓と第2鰓弓の発生異常によって生じます。耳介・外耳道・顔面の奇形症候群です。左右差のある症状を特徴とします。小耳症・外耳道閉鎖、眼球結膜類上皮腫、上顎骨・頬骨・下顎骨の低形成、片側頸椎の完全または部分欠損や低形成を認めます。

1845年にArltが初めて記載しました。1952年にGoldenhar(1924-2001)が眼球結膜類上皮腫の合併例を報告しました。その後眼球結膜類上皮腫の合併例をGoldenhar症候群と呼ぶようになりました。別名、第1、2鰓弓症候群、Oculoauriculovertebral dysplasia、特に片側の障害を強く認め、顔面非対称性の著名な例はHemifacial microsomiaと呼ばれます。ゴールデンハー症候群の有病率は19500~26550人に1人の発生頻度とされていますが、軽症例を含めると出生3500~5600人に1人とも報告されています。最も頻度の高い多発奇形症候群の一つです。男女比は3:2で、やや男性に多いです1)。知的障害は伴いません。

原因

ゴールデンハー症候群(Goldenhar syndrome:GS)は、先天眼耳脊椎形成異常症(oculo-auriculovertebral dysplasia:OAV)としても知られ、下顎低形成による顔面非対称性、耳介および/または眼の奇形、ならびに脊椎の異常という古典的三徴が特徴を示し(Orphanet Japan; Orpha 番号:ORPHA374)、多因子性の要因が推定されています。

詳細な原因について不明であるものの、神経堤分裂の障害、胚形成中の第一および第二鰓弓の異常発達ならびに胎盤血管の閉塞を引き起こす遺伝学的および環境的要因が疾患原因として考えられています2)。(National Institute of Health, National Center for Advancing Translational Sciences: 6540)。

遺伝的要因:大部分が散発例で、散発性の症例での、5p欠失、14q23.1重複、または18番染色体異常/22番染色体異常の報告、常染色体顕性(優性)遺伝(1〜2%)の家族はOTX2遺伝子を含む染色体14q23.1重複の報告等が存在します3)、4)
環境要因:妊娠中の血管作用薬の使用等が環境要因として報告されています5)

視覚障害の自然歴

眼球結膜類皮腫、眼瞼・虹彩・網脈絡膜欠損(コロボーマ)、小眼球症、無眼球症、眼瞼下垂、瞼裂狭小、二次的な角膜障害等の重症度により視力障害の程度が異なります。先天的に視機能が全くない全盲状態から、全身異常のない視機能比較的良好例まで、視力障害のレベルは多岐にわたります。

聴覚障害の自然経歴

ゴールデンハー症候群の聴力障害は先天性奇形の外耳道閉鎖、小耳症に伴う伝音難聴が主であるため進行しません。

眼科診療の注意点

臨床的診断は難病研究資源バンクより公開された診断基準に基づき行われます。表現型における特徴的所見の存在、X線撮影像(Rx、CT、およびMRI)が臨床診断に有用となります。出生前診断は、超音波所見で明らかな欠陥を検出する場合もあります5)。鑑別診断は、頭蓋顔面形態異常を呈する他の疾患群(CHARGE症候群、Parry Romberg症候群、またはTreacher Collins症候群)となり5)、6)、顔面の低形成は片側性である事が多い点や、類皮腫の存在等が診断に有用です。小眼球症、類皮腫、コロボーマが頻度の高い眼症状となり、コロボーマが角膜症および視覚障害のリスクとなる場合、眼瞼の再建術が必須となります。ゴールデンハー症候群の治療は、表現型の重症度および治療を開始した年齢によって異なるため、診療科横断的な柔軟な対応が必要となります。

ゴールデンハー症候群のほとんどの症例では家族歴が存在しませんが、常染色体顕性(優性)または潜性(劣性)遺伝の報告も存在します。耳介変形等の軽度の症例を含めて家族歴を聴取する必要があります。ゴールデンハー症候群を検出するための具体的な遺伝子検査はないものの、マイクロアレイ染色体検査法等が検討される場合があります。

アメリカ眼科学会(American academy of ophthalmology)では、ゴールデンハー症候群の眼科的管理について以下のように記載しています。類皮腫:良性腫瘍ですが、誘発された乱視、弱視および斜視のような視力低下を来す病態に繋がる可能性があります。大きなサイズの類皮腫の場合は、視覚刺激の障害、眼球運動制限、閉瞼障害、角膜障害を引き起こす可能性があります。睫毛を伴う類皮腫は、眼表面への接触による角膜上皮障害、角膜潰瘍、二次的角結膜感染等の原因となりえます。この為、類皮腫の早期診断および外科的切除は、特に小児期における弱視および斜視を予防する可能性があります。

耳鼻咽喉科診療の注意点

耳介・外耳道を含む顔面の奇形が左右非対称7)であることが多く、正確に左右の聴力を測定することにより、補聴器装用が必要かどうかの診断を行う必要があります。少数ではありますが両側外耳道閉鎖例においては骨導補聴器、軟骨導補聴器、骨固定型補聴器(BAHA)を活用することも検討します。耳鼻咽喉科と形成外科で連携して耳介および外耳道の形成手術を検討します。顔貌が非対称性で目立つため、学校教育の中でいじめの対象となることが多く、心理的な支援と社会の理解とサポートが必要です。

その他の障害、疾患の診療の注意点

出生前診断は一般的ではありませんが、家族歴がある場合は、非侵襲的な出生前診断が勧められる事があります。胎児超音波検査で重度の頭蓋外奇形および一部の重度の下顎低形成を検出できる事もあり、3D超音波検査を施行すれば異常がより軽度の症例も同定できる可能性があります。本疾患は通常家族歴がないものの、常染色体顕性(優性)遺伝形式で発症した報告もある為、再発リスクを評価するために、両親および同胞の臨床像の評価が遺伝カウンセリングの際に重要となります。

文献

  • 1) 小須賀 基通:Goldenhar症候群. 1)染色体異常・先天奇形症候群, 小児の症候群, 小児科診療2016;79増刊号:34.
  • 2) Schmitzer S, Burcel M, Dăscălescu D, et al: Goldenhar Syndrome - ophthalmologist's perspective. Rom J Ophthalmol 2018;62(2):96-104.
  • 3) Rollnick BR, Kaye CI, Nagatoshi K, et al: Oculoauriculovertebral dysplasia and variants: phenotypic characteristics of 294 patients. Am J Med Genet 1987;26(2):361-375.
  • 4) Strömland K, Miller M, Sjögreen L, et al: Oculo-auriculo-vertebral spectrum: associated anomalies, functional deficits, and possible developmental risk factors. Am J Med Genet A 2007;143A(12):1317-1325.
  • 5) Ashokan CS, Sreenivasan A, Saraswathy GK: Goldenhar syndrome - review with case series. J Clin Diagn Res 2014;8(4):ZD17-19.
  • 6) Bhuyan R, Pati AR, Bhuyan SK, et al: Goldenhar Syndrome: A rare case report. J Oral Maxillofac Pathol 2016;20(2):328.
  • 7) 梶井正、黒木良和、新川詔夫監:新 先天奇形症候群アトラス 改訂第2版. 南江堂;2015: 168-169.

Webページ

  • 1) Orphanet Japan 眼-耳-脊椎スペクトラム,
    https://www.orpha.net/data/patho/Pro/other/Oculo-auriculo-vertebral_spectrum_JP_ja_PRO_141132.pdf
  • 2) National Institute of Health, National Center for Advancing Translational Sciences, goldenhar-disease,
    https://rarediseases.info.nih.gov/diseases/6540/goldenhar-disease
  • 3) 難病研究資源バンク ゴールデンハー症候群,
    https://raredis.nibiohn.go.jp/malformation/diagnostic_criteria/daiagnostic_criteria_161229_11.pdf
  • 4) American academy of Ophthalmology EYE Wiki, Goldenhar Syndrome,
    https://eyewiki.org/Goldenhar_Syndrome

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