水頭症
疫学
先天性水頭症は、国内では出生10000あたり3人前後と推定されています1)。米国およびヨーロッパでは、出世10000人当たり約4.7~6.0人で見られます。32週未満の早産児では1000人あたり17.36人、32週から36週の早産児1000人あたり2.24人、正期産児1000人あたり0.37人と、早産児に多い傾向があります2)、3)。
原因
水頭症は髄液の産生-吸収のバランスが崩れることで発生します。その原因は以下のように分類されます。
(1)産生過多: | 髄液を産生する脈絡叢の腫瘍による。脈絡叢乳頭腫など。 |
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(2)循環障害: | 腫瘍や出血などによる。先天性中脳水道狭窄症、脳室内出血など。 |
(3)吸収障害: | 髄液が最終的に流れ込む静脈洞が閉塞し髄液がうっ滞する。 静脈洞血栓など。 |
水頭症の中でも胎児期に発生し胎児期や出生後早期に診断されたものは先天性水頭症と呼ばれ、二分頭蓋・脊髄髄膜瘤・全前脳胞症など先天異常に伴うものと、原因が不明な特発性水頭症(遺伝性水頭症・水無脳症・6q欠失症候群などの染色体異常に伴うものなど)があります。胎児超音波診断装置の発達により、先天性水頭症の約55%は胎内診断されています4)。
また近年では遺伝性水頭症の解明が進んできており、X連鎖性遺伝性水頭症ではXq28に座位する神経接着因子L1CAMが原因遺伝子として特定されています。
一方で、名古屋大学大学院医学系研究科分子病理学・腫瘍病理学教室の研究グループは、先天性水頭症の原因遺伝子としてデイプル(Daple)が、脳室内を覆う繊毛の正しい配向と脳脊髄液の流れを制御していることを明らかにしました5)。
視覚障害の自然歴
頭蓋内圧亢進により視神経や大脳皮質が障害されると視覚障害をきたすことがあります。
しかし乳児期に眼科的検査で異常が指摘されることはまれで、これは、乳児の頭蓋骨はまだやわらかく、頭蓋内圧亢進により拡張するため、視神経への圧迫が緩和されるからです。水頭症が進行すると、次のような眼所見がみられるようになります。
(1)うっ血乳頭
視神経乳頭の変化で、眼底検査で確認されます。以下の3期に分けます。1) 初期: 乳頭の発赤や境界不鮮明化、網膜静脈の拍動消失 2) 最盛期: 乳頭突出、乳頭周囲出血 3) 末期: 2次的視神経萎縮。慢性的な浮腫により神経線維が変性する。
なお、脳圧亢進からうっ血乳頭の発症までは18~24時間、長くても数日ですが、減圧によるうっ血乳頭の改善には1週間から10日ほどかかり、高度の場合は6~8週間かそれ以上を要します6)。(2)眼球運動の異常
1) 落陽現象: 眼球の黒目の部分が、日が沈むように下まぶたの中へ入り込んでしまう現象です。中脳の上丘という部分が障害されることによる症状です。落陽現象がみられるときは眼底検査でうっ血乳頭が確認されることが多く、いずれも脳圧が正常化すると改善します。 2) 眼球振盪(眼振): 不随意な往復運動です。細かく震えたり、振り子のように左右に揺れたりします。キアリ奇形の場合には、Downbeat nystagmus(正面を見た時に下まぶたの方向に急速に落ちていく眼振)がみられます。 3) 注視麻痺: 両眼が同じ方向に動きません。水頭症では特に垂直性の麻痺(上方を見る動きができない等)がみられやすいです。 4) 外転神経麻痺: 外転神経が伸展圧迫されることにより眼球が外を向かなくなり、次第に内斜視を呈するようになります。 (3)斜視
外斜視より内斜視が多いとされます。斜視は状態が固定したら手術の対象となり得ますが、その適応は年齢や病状により判断されます。(4)視神経萎縮
視神経萎縮は水頭症の視力障害の大きな原因で、水頭症の患児の17~30%にみられます。脳圧亢進の状態を繰り返したり、長引くことで(うっ血乳頭の状態が続くことで)、視神経が障害されていきます。
以上のような眼症状の頻度については、二分脊椎に伴う水頭症の小児322症例のうち42%に斜視、29%に外転神経麻痺、14%にうっ血乳頭、17%に視神経萎縮がみられ、27%には明らかな視覚障害はみとめなかったという報告があります7)。
聴覚障害の自然歴
(1)水頭症に合併する聴力障害
水頭症に難聴を合併する割合については、NICU入室中の16人の水頭症の児のうち11人がABRにて一側または両側の閾値上昇をきたしていたという報告があります8)。蝸牛神経および脳幹機能障害を反映しているのではないかと言われています。水頭症の治療としてシャント手術が行われますが、平均10.4歳のシャント術後の水頭症児47人中、高音部の感音難聴が18人(38%)で、11人が後迷路性であり、病因により聴力閾値に有意差はなかったということです9)。(2)聴力障害の病態
水頭症に関連して難聴がおこるのには、脳脊髄圧の変化が重要な役割を果たしており、脳脊髄圧上昇、脳脊髄圧減少の両者が難聴発症にかかわります10)。- 1) 脳脊髄圧上昇による難聴
脳脊髄液圧上昇により、蝸牛神経核の圧迫や蝸牛神経の圧迫や伸長がおこり、それが難聴を招くことが実験的に証明されています11)。水頭症をきたすダンディー・ウォーカー症候群では、拡大した第4脳室による脳幹または脳神経の圧迫が原因とみられる聴覚障害が報告されています12)。
また、内耳障害も水頭症の聴力低下の原因として考えられています。キアリ奇形の患者には難聴や前庭症状を呈するものは多く、そしてその難聴の病因として、脳神経の伸張、小脳扁桃による蝸牛神経または髄核の圧迫に加え、内耳への異常な脳脊髄液圧の伝達が指摘されています13)、14)、15)。 - 2) 脳脊髄圧低下による難聴
反対に、急性脳脊髄液喪失もまた、難聴の原因として知られています。硬膜下穿刺や脳神経外科手術後の脳脊髄液喪失は、脳脊髄液圧減少、外リンパ圧減少、および内リンパ水腫を引き起こすことが指摘されています16)、17)。脊椎麻酔を受けた10,098人の患者を対象とした研究では、35人(0.35%)が麻酔回復後の聴力障害を訴えました18)。また、脳神経外科手術後、脳脊髄液喪失量が多いほど、非手術耳の難聴の発生率が上昇しました19)。 - 3) シャント手術後の難聴
水頭症に対する治療として脳室-腹腔シャント(V-Pシャント)や脳室―心房シャント(V-Aシャント)などのシャント手術が一般的に行われますが、シャント後の水頭症と感音性難聴の関係や改善については、さまざまな文献があり、議論が続いています。水頭症患者における頭蓋内圧の上昇は、難聴につながる可能性があり、長期シャント術後の38%の小児に高音部感音難聴が報告され、61%の症例が後迷路性として分類されました。水頭症の病因による違いは観察されませんでした20)。また水頭症の小児の83%で高音部の感音難聴を認め、難聴側とシャント留置術が同側であり、その難聴が後迷路性というより迷路性であることを同定した報告があります21)。くも膜下出血による水頭症に対するシャント手術後の感音難聴の報告では、難聴の発症時期が術後数時間から、数年後と幅広いことが報告されました22)、23)。正常圧水頭症に対してシャント手術を行った例で64%の耳が難聴を呈しましたが、6~12週のうちにその75%に聴力の改善を認めました。また、脳脊髄液圧調節のために再手術が施行され難聴の改善または蝸牛症状(耳閉感、耳鳴)の改善を認めた報告があり、オーバーシャンティングにより起こった難聴の可逆性が期待できる可能性があります。また、Vermaらによる報告では、水頭症患者に対しVPシャント術後70%で聴力の改善が認められました。30%の患者では一時的に聴力が悪化したものの、これも6週間後に改善しました。より早期にシャント手術を行ったほうが、聴力改善結果高い可能性が示唆されています24)。
- 1) 脳脊髄圧上昇による難聴
眼科診療の注意点
視神経萎縮をみとめる場合は、すでに視力障害・視野障害をきたしている可能性が高いのですが、特に小児期の二重障害者においては、視力や視野を正確に評価することは困難です。しかし、10歳前後までは視機能は発達するという前提で、屈折異常が強ければ眼鏡を装用し、視力の発達を促します。小学校高学年以降になると視力の発達はほぼ完了しますので、もしなお視力検査が困難であれば、眼鏡をかけているときとはずしているときの反応の違い(固視、追視、活動性)をみて、眼鏡の必要性を推測します。
視野検査は視力検査よりさらに難しく、一般に小学校中~高学年にならないと正確に評価できません。シャント手術を受けた水頭症の小児56例(平均15歳)のうち視神経萎縮をみとめたのは13例、視野検査ができたのは44例で、このうち24人で視野障害が検出されたという報告があります25)。
斜視に対する手術は、早期に行うことで両眼視機能が改善されるみこみがある場合をのぞいては、急ぐ必要はありません。
シャント術後で脳圧が正常化しても、経過中にシャント不全が起きて脳圧が亢進すると、その70%に上述したようなさまざまな眼症状が現れます7)。小児科、神経内科、脳神経外科などと連携し管理していくことが重要です。
耳鼻咽喉科診療の注意点
水頭症自体により難聴を伴うことがある一方、その治療のためのシャント手術によって難聴が改善する場合と反対に難聴を引き起こすことがあるため注意が必要です。聴力の経時的フォローアップが必要です。
Webページ・文献
- 1) 小児慢性特定疾患情報センター https://www.shouman.jp/disease/details/11_03_010/ 参照(2019-06-04)
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- 3) Garne E, Loane M, Addor MC, et al: Congenital hydrocephalus—prevalence, prenatal diagnosis and outcome of pregnancy in four European regions. Eur J Paediatr Neurol 2010;14(2):150–155.
- 4) 山崎麻美,坂本博昭:胎児期水頭症の治療指針をめぐる問題点.脳外誌2006;15(2):114-120.
- 5) Takagishi M, Sawada M, Ohata S, et al: Daple coordinates planar polarized microtubule dynamics in ependymal cells and contributes to hydrocephalus. Cell Reports 2017:25;20(4):960-972.
- 6) 太田富雄,川原信隆,西川亮,他編:脳神経外科学. 金芳堂;2012:210頁.
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- 10) Satzer D, Guillaume DJ: Hearing loss in hydrocephalus: a review, with focus on mechanisms. Neurosurg Rev 2016;39(1):13-24.
- 11) Hatayama T, Sekiya T, Suzuki S, et al: Effect of compression on the cochlear nerve: a short- and long-term electrophysiological and histological study. Neurol Res 1999;21:599–610.
- 12) Freeman SR, Jones PH: Old age presentation of the Dandy-Walker syndrome associated with unilateral sudden sensorineural deafness and vertigo. J Laryngol Otol 2002;116(2):127-131.
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