視覚聴覚二重障害の医療(盲ろう,視覚聴覚重複障害)盲ろう医療支援情報ネット

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先天性および若年性の視覚聴覚二重障害の原因となる難病の診療マニュアル(第1版)

生命に関わる医療と感覚器医療

はじめに

視覚・聴覚の二重障害を有する児の8割以上にはその他の合併疾患も重複しているとされている。医療ケア児も多く、合併疾患によっては、見ること、聞くことよりも優先して治療が必要なことがある。また、複数の合併疾患についてそれぞれ専門診療科で診断・治療を行っているため、あとから他の疾患が診断されたときにどのように対応してよいかわからなくなることもある。そこで、視覚・聴覚二重障害に合併しやすい病態とその対応について概説する。

  • (1)多く認められる症状と医療的ケア
    • 1) 呼吸不全:上気道狭窄や気管軟化症などの吸気性呼吸困難や神経疾患に伴う中枢性呼吸障害、呼吸不全に対しては、気管切開や人工呼吸器装用が必要となる。
    • 2) 重篤な知的障害等に伴う摂食障害、嚥下障害:経管栄養(経鼻、胃瘻)や中心静脈栄養などの非経口的栄養摂取を要する。
    • 3) 先天性心疾患:抗凝固剤を含む薬物療法を行うため、併用禁止薬や食べ物などがあり、鼻出血なども止血しにくいことがある。経皮酸素飽和度が低いため在宅酸素療法が必要となることもある。
    • 4) 難治性てんかん:抗てんかん薬などの薬物療法を行うため、併用禁止薬がある。てんかん発作が続くと酸素飽和度も低くなることがあるためモニターや酸素治療を要することもある。
    • 5) 先天性尿路奇形等に伴う腎不全:腹膜透析や血液透析など頻回に定期的な通院が必要となる。
    • 6) 運動器の進行性の機能低下:歩行困難や寝たきりの場合、バギーや歩行器の作成など補助的な移動手段が必要となる。側彎などが生じる場合は、矯正手術など外科的治療が行われる。
  • (2)上気道閉塞
    • 1) 頭蓋顔面奇形に伴う上気道閉塞(クルーゾン症候群、アペール症候群、ファイファー症候群、アントレ―ビクスラー症候群など)

      ① 特徴
      顔面正中の低形成のため、後鼻孔や上咽頭腔が狭窄し鼻呼吸が困難である。中耳の奇形や滲出性中耳炎を合併しやすい。眼窩が低形成で閉眼が困難であり、角膜が乾燥して兎眼になりやすい。治療としては、後鼻孔狭窄または閉鎖がある場合は、削開術を行った上で、経鼻エアウェイを挿入する。または気管切開を行う。肺の低形成や誤嚥などで呼吸器装着が必要なこともある。

      ② 感覚器に対する治療
      呼吸状態が落ち着かないと、なかなか聴力や視力の評価、治療につながりにくい。頭蓋顔面低形成に伴う難聴は、耳介や外耳道、中耳の低形成を伴うことが多い。補聴器は有用であるが、耳介低形成や低位、外耳道の狭窄、さらに慢性中耳炎による反復する耳漏などがあるため、耳かけ型が装用しにくいことがある。一方骨導補聴器は効果が表れやすいが、頭蓋骨早期癒合症などがあると、頭位が大きすぎて一般的に入手できるヘッドバンドで固定することが困難となることもある。視力障害は頭蓋内圧亢進に伴って生じることもあるため、頭蓋骨形成術や前頭眼窩前進術などを行うこともある。弱視などに対しては眼鏡を装用するが、耳介低位や顔面正中の低形成のため眼窩間乖離などもあり眼鏡のフィッティングが必要となる。

    • 2) 下顎低形成に伴う上気道狭窄(トリーチャーコリンズ症候群など)

      ① 特徴
      舌根沈下や喉頭の奇形により喘鳴や陥没呼吸などの呼吸障害が生下時から認められる。治療として持続的陽圧換気法(continuous positive airway pressure: CPAP)や気管内挿管が必要となるが、長期に必要となることが多く気管切開管理となることもある。呼吸障害があると哺乳も困難になるため、経管栄養や胃瘻の造設を行うこともある。

      ② 感覚器に対する治療
      難聴や視力障害に対する対応呼吸障害に対する治療が長期化すると、なかなか聴力検査や視力検査を行うことができないため、視力障害や聴力障害の診断が遅れることがある。気管切開などの治療が落ち着いたところで、適切な評価を行い、補聴器の装用や眼鏡の装用を開始する。耳介低形成がある場合は骨導補聴器を使用し、効果は高い。弱視などに対しては眼鏡を装用するが、眼窩間が狭小であり眼鏡のつるを耳介にかけることもできないためヘッドバンドで固定する。

    • 3) 中枢神経障害(染色体異常、神経筋疾患、先天性ウイルス感染、症候群、胎児期の異常、未熟児出生などによる知的・運動発達遅滞)

      ① 特徴
      運動障害:頸定や坐位の保持などもかなり遅れ、足底の触覚過敏などから足の裏を床につけることができず、つかまり立ちや歩行も困難である。手指の動きもぎこちなく、物をつかむことができないこともある。

      嚥下障害: 咽頭筋の協調運動障害により嚥下困難、経口摂取困難、誤嚥などが認められる。筋緊張が強いと誤嚥性肺炎を起こしやすい。経管栄養や胃瘻による栄養を行い、頻回の吸引が必要となる場合は気管切開なども考慮する。
      呼吸障害: 嚥下障害に伴う呼吸障害がみられることもある。
      知的障害: 音や光刺激に反応がない場合もあれば、眼だけ動いたりじっと動きを止めたりすることもある。また、音や光刺激を楽しむ様子がみられることもあれば、玩具を耳に当てたり、眼に当てたりすることもある。
      排尿障害、腎障害: 膀胱逆流などに伴い水腎症や腎不全を起こすことがある。
      けいれんやてんかんを伴っていることもある。

      ② 感覚器に対する治療
      補聴器や眼鏡は児の状態に応じて装用を開始する。視覚や聴覚からの刺激は児の発達やコミュニケーションに大切である。補聴器装用で十分に音声が聴取できない場合は人工内耳植込み術を行う。しかし、例えば進行性の疾患(ミトコンドリア脳筋症など)などでは病勢の把握に定期的な脳波検査やMRIが必要となることもある。人工内耳が留置されていると周囲全体が画像欠損してしまい、必要な情報が得られなくなることがあるため注意が必要である。聴覚情報が得られることを優先するべきか、中枢神経系の病勢を画像で定期的に追っていくことが優先すべきかは、主として診ている神経内科医と耳鼻咽喉科医、家族や本人の希望などを元に話し合いが必要である。

おわりに

原疾患や合併症によっては心肺機能の低下や呼吸不全、消化管機能不全、難治性痙攣などの中枢神経障害、腎不全等より生命の危険を生じることもある。専門の施設での診断、治療、経過観察が大切である。

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