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先天性および若年性の視覚聴覚二重障害の原因となる難病の診療マニュアル(第1版)

視覚障害の遺伝学的診断の伝え方

眼科における遺伝学的診断の現状

  • (1)遺伝学的診断を行う診療科

    聴覚視覚二重障害には先天的な原因による症例と、主に加齢に伴う後天的な原因による症例が含まれる。このうち遺伝学的診断の対象となるのは、先天的な障害であり、原因となる遺伝学的要因は多岐に渡っている。原因の多くは全身疾患に伴う症候性のものであり、通常は小児科、遺伝科を始めとした専門医のもとで遺伝学的診断が行われる。また、全身的な症状を伴わない聴覚、視覚のみの二重障害の患者については、聴覚障害と視覚障害の発症時期にずれが生じることが多く、先に障害が出現したいずれかの診療科において遺伝学的な相談を受けることが多い。ただし現実的には、大学病院のように遺伝診療科が存在する場合や、小児科、耳鼻咽喉科、眼科等、いずれかの専門科にのみ遺伝学的診断を得意とする医師が在籍する場合など、患者が最初に遺伝相談を受けることのできる診療科は医療機関によって様々である。

  • (2)眼科における遺伝学的診断の現状

    先天的視覚障害に関連した遺伝子は数多く知られている。このうち聴覚視覚二重障害について、眼科を最初に受診しうる疾患の種類も複数存在する。代表的な疾患として、網膜色素変性症と難聴を合併するアッシャー症候群、および視神経萎縮と難聴を合併する常染色体優性視神経萎縮症が知られている。これらの疾患については遺伝学的病態が解明され、原因となる遺伝子異常の報告も多いが、現状では眼科疾患の遺伝子検査は保険診療として認められていない。このため、病名確定のための遺伝子診断、および遺伝子異常を告知するための遺伝カウンセリングは、通常は行うことができない。これまで一部の施設では原因探索のために遺伝子検査が行われてきたが、これらは研究目的の検査であり、解析結果を患者に開示しないのが一般的であった。現状では、眼科単独で遺伝学的診断を行うことは困難な状態となっている。このため二重障害患者の遺伝カウンセリングを含めた遺伝子検査は、主に耳鼻咽喉科専門医に依頼して行うことが一般的である。

  • (3)今後に向けて

    前述のように眼科疾患の遺伝子検査は保険診療の対象となっておらず、それに伴い眼科における遺伝病患者に対する診療体制および遺伝カウンセリングは、耳鼻咽喉科のものと比べてかなり遅れを取っている。その理由として、遺伝性網脈絡膜疾患および視神経疾患の疾患数および調査対象遺伝子の多様性が挙げられる。現在、全エクソーム解析による網羅的解析を行うことで、遺伝性網脈絡膜疾患の原因遺伝子を特定する研究事業が進行しており、今後の保険適応化への働きかけとともに、眼科的遺伝子診断の実現に向けた環境整備を着実に進めていく必要がある。

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